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【わたしに無害なひと】一番近いけれども他人という関係

「お姉ちゃんばかり、ずるい」
「妹だからといって、甘やかされている」

姉に対して、妹に対して、
こんなことを思った経験がある人は、
少なくないのでないか。

姉妹とは、どのような関係性なのか?と考えると、親の前では「同志」のようなものかと思う。家族の中で、同性の子どもという立場なので、親に対して求めるもの、要求するものが重なる時には、互いに協力する。

ただ、一緒に遊んだり、学んだりする時間には、「同志」というより、一番近くにいる「友達」かもしれない。同じ家庭で育っているので、価値観など共有しているものが多く、互いに相手を理解できる部分も多いだろう。

一方で、姉と妹それぞれ得意・不得意が違い、趣味や嗜好は異なる。一番近くにいるがゆえに、相手を自分を比べて、自分と似たところを見つけた時は、相手が自分を映した鏡のように見えるかもしれない。自分と異なるところを見つけた時は、一番近くにいるけれど、他人の面を見ていると思う。

韓国の作家チェ・ウニョンさんの短編集「わたしに無害なひと」に収められている「過ぎゆく夜」という作品は、姉と妹が5年ぶりに再会し、一晩を一緒に過ごす物語だ。

母子家庭で、母を早く亡くした姉妹。
5年前、姉のユンヒは、米国に留学する前の晩、妹のジュヒと喧嘩して別れてしまう。
ユンヒが留学中、ジュヒは結婚して子どもを産んでいる。姉のユンヒはFacebookの投稿を通じて、ジュヒのそうした近況を知っていたが、喧嘩別れしてしまったことからコメントは残さないままでいた。

就職の面接のために米国から韓国に一時帰国することになったユンヒに、妹のジュヒが自分の家で最後の一晩を過ごすように連絡してくる。ジュヒは離婚し、子どもは夫の家族が育てており会えなくなっていた。

姉と妹、一緒に過ごす一晩に、交わす会話の中から、互いにどんなふうに思っていたかが浮き彫りになってくる。
疎遠になっていた2人が、これから先、どうなるのか?
読者に想像させて、読後に余韻を残す作品だった。
姉妹がいる人、姉妹を育てている人に、お勧めの1冊。



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