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『回転晩餐会』(一穂ミチ)と優しさ#読了

国語(現代文)を勉強すると、文章馴れは必然。


文学と美術を勉強し直そうと思って、
原田マハ を初購入した。

読まなきゃ。


そんな中で見つけたのが
【回転晩餐会】(一穂ミチ)

同作者の『スモールワールズ』(講談社)刊行記念に発表されたショートストーリー。


短い感想を一つ。


舞台は15階建てのビル。
最上階の展望レストラン。
最高の景色と、最高の食事の場。


特徴は、座席が80分かけて“回転”すること。
360度の景色を連続的に眺められること。

登場人物

・主人公のオーナーシェフ。

・40年以上、毎年決まった日に来店する常連の老夫婦。


物語は、彼らとの間で交わされた


“優しさ”のやりとり

が中心となる。



毎年、決まった日の一ヶ月前に奥様から予約が入る。
西側の空が眺められる席は、彼らの特等席だ。



素敵な常連さんの和やかな笑顔。
遠くの方からぼんやりと、
オーナーシェフは彼らの“80分”を眺めていた。

穏やかな二人の横顔。
提供時にかけてくれる感謝の言葉。
足の悪そうな女性の手を引いてあげる男性。
ひそかな優しいやりとり。


誕生日だろうか。
結婚記念日だろうか。

毎年、繰り返される“大切な日”のご来店。

そんな彼らにオーナーシェフが施した
ささやかなサプライズ。


40年目の来店日に提供したのは、
“Anniversary”と書かれたケーキ。


きっと喜んでくれるだろう。


案の定、女性の目には涙が滲み
そっと男性がハンカチを差し出した。

「来年で40年目だね」

そんな会話を耳に挟んだのがきっかけだった。


ある時、予約が一名で入る。
女性だけの来店だった。
長年の常連だったので、年相応だろう。
亡くなった男性との、いつもの席に
お客様は腰を掛けた。

そしていつもの“80分”が始まる。

なんだかほっこりするようなお話。
日常の中にありそうなドラマチックな一面を
ゆったりと切り出した短編。
そんな印象だった。


ただ、二人が夫婦でなかった。


それを知った後、二人の来店の意味を知るのは、
オーナーシェフと読者のわたしだ。

彼らがこのレストランを通った意味。
彼らが40年間も決まった日に来店した意味。
“Anniversary”に涙した本当の意味。

その真相は、ぜひ “言葉” として実際にふれて下さい!


この短編で知り得たのは


「優しさは、時に誰かを傷つけて、時に誰かを救ってくれる」


目に見えなくても、80分の“回転”が、
過ぎ去った思い出としてそれを伝えてくれた。


ぜひ一読。


声優・櫻井孝宏の朗読版もあるよ!! ↓


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