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【書籍】注意と運動学習-動きを変える意識の使い方-

理学療法や作業療法を提供する上で、『運動学習』は忘れてはならない重要な要素です。

「繰り返し練習するけど、なかなか上手くいかない」

こんなとき、療法士もクライアント自身も歯がゆい思いをすることは多いですよね。

もしかすると、練習の中で『運動学習』のために必要な要素が抜け落ちてしまっているのかもしれません。

こんな悩みを抱えた療法士さんに読んでいただきたい一冊を紹介します。


意識の使い方で運動は変化する

患者さん・利用者さんと動作や行為の練習を行うとき、心がけていることは何ですか?

きっとクライアントの疾患や性格によっても変わるかもしれません。

臨床の中で重要視している要素は一つではないとも思います。

私が常に意識しているのは、本人が何を経験し何を学習しようとしているのかという点です。

こちらの記事でも少し触れていますが、大切なのはクライアント本人が何を学習したかだと考えています。

そうでなければ、我々セラピストが提供する運動療法や作業療法はセラピスト自身の自己満足になってしまいます。

本書を読むと、クライアント自身が意識を向けている対象を確認することの必要性が感じられると思います。


インターナルフォーカスとエクスターナルフォーカス

本書で頻繁に対比されるのが、『インターナルフォーカス』と『エクスターナルフォーカス』です。

簡単に説明すると、『インターナルフォーカス』は自身の身体に注意を向けること、『エクスターナルフォーカス』は身体外つまり対象や環境に注意を向けることです。

本書では『インターナルフォーカス』と『エクスターナルフォーカス』のどちらが運動のパフォーマンス向上にとって有効であるか、多くの実験結果を示しながら説明されています。

そして、

さまざまな実験室課題やスポーツスキルを用いた各研究の結果は、インターナルよりもエクスターナルフォーカスを導く指示が有効だとのエビデンスとなった。(Wulf, 2010)

と結論づけています。

つまり、運動のパフォーマンスを向上するためには、運動自体よりもその結果や効果に注意を向けるべきだということです。

そして、そのために有効なフィードバックの与え方や声かけの仕方にも言及されています。


リハビリテーションにおける意義を考える

本書の知見は、リハビリテーションの場面でどのように活かすことができるでしょうか。

もちろん、そのまま『エクスターナルフォーカス』を促す指示や声かけをすることも一つの方法です。

ただ私が提案したいのは、まずは運動するときに何を経験したかを確認することです。

特に脳卒中片麻痺を呈した方などは、ご自身の身体や運動について非常に混乱した状態です。

そのような状態で運動の結果や効果に意識を向けるように促したとして、そのような意識の変化がスムーズに行えるのでしょうか。

そこで、まずはご自身が何を意識していたのかをクライアント本人とセラピストとで確認する作業を行うことが必要ではないかと考えています。

この確認というのも、「何を意識していましたか?」と言葉で確認する方法もあれば、運動を観察することで推察するという方法もあります。

運動中のクライアントの表情から読み取れることもあるでしょう。

もしかすると、セラピストは立脚の練習をしているつもりなのに、クライアントは遊脚の練習をしていた、なんてことが発覚するかもしれません(実際に経験しました)。

まずはご本人の意識の確認を行い、現状をお互いに知る。

その上で、より効果的な注意の使い方を誘導したり、セラピストとクライアントで一緒に考えていくことが必要なのではないでしょうか。


まとめ

運動のパフォーマンス向上や運動学習において、注意・意識の使い方の重要性について論じた書籍を紹介しました。

多くの実験結果を紹介しながら結論が導き出されており、クライアントの運動パフォーマンス改善を目指すセラピストは一読して損はない書籍かと思います。

臨床場面でこの知見をそのまま適用するのは難しい場面があり、まずは本人が現状どのように意識や注意を使っているのかを確認する作業が必要ではないかと考えています。

クライアントの運動パフォーマンス改善に行き詰まったセラピストは、一読してみても良いのではないでしょうか。



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