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【短編集】3 映画みたいなオフィス/誰かいる宇宙

これは、2020年3月~4月にかけて執筆した短編集『誰かいる宇宙』の1篇「映画みたいなオフィス」SF編、インド映画編、時代劇編を再掲したものです。(2024年5月30日)


映画みたいなオフィス SF編

プレゼンしている人  ヒラ
プレゼンを聞いてる人 フルリ
プレゼンを聞いてる人 役員

上手にヒラ、フルリと役員たちは下手で椅子に座っている。

ヒラ 「惑星フルリへの人類移住計画の概要は以上です」

フルリ 役員と耳打ちして何か話している。ヒラへ。「Xxxxxxxxxxx.Xxxxxxxxxxxxxxx」

ヒラ 「その点は問題ありません。フルリ星人は温和で争いを好みません。我々が新しい技術を提供すると言えば、喜んでお受けすると仰っていました」

フルリ 役員と耳打ちして何か話している。ヒラヘ。「Xxxxxxxxxxxxxxx.Xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx.Xxxxxxxxx.Xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx」

ヒラ 「その点も全く問題ありません。フルリ星の文明は我々の星よりも少し遅れておりますが、生活様式は我々とよく似ています。住む土地も市場も同時に手に入る、まさに一石二鳥の星であります」

フルリ 役員と耳打ちして何か話している。ヒラへ。「Xxx.Xxxxxxxxxxxxxx.Xxxxxxxxxxx」

ヒラ 「え、ということは……」

フルリ「Xxxxxxx!」

ヒラ 「ありがとうございます!」

ヒラ・フルリ 固い握手をする。

暗転

映画みたいなオフィス インド映画編

トロイ、ドウキ、イカリ、ナダメ、イヤミ、オフィスでデスクワーク中。

イカリ「おい。この会議資料作ったの誰だ?」

トロイ 席から立ち上がり「私ですけど……?」

イカリ「トロイ、何度言ったら分かるんだ! 今すぐやり直せ!」

トロイ「すいません……」資料を取りに行く。

イヤミ「ま~た、トロイさん怒られてるよ。あれで同じ給料もらえるのズルくない?」

ナダメ「そんな事言ってる暇あるんだったら仕事しろ」

イヤミ「は~い。コピー行ってきま~す」はける。

ナダメ トロイに
「気にしないで良いからな。もし分からないことがあったら、聞きに来い」

トロイ「はい。ありがとうございます」

ドウキ「おい、トロイ、しっかりしろよ」

トロイ「うん」

ドウキ「なんかあったら、いつでも聞くからよ」

トロイ「実はちょっと……」

イヤミ 戻ってくる。「ちょっと~! コピー用紙切れてたんですけど、最後に使ったの誰ですか?」 

トロイ「……私です」

イヤミ「トロイさん!」プリプリ怒っている。

トロイ イヤミに平謝り。

ナダメ 電話をしている。「大変申し訳ございません。すぐに担当者を向かわせます!そうおっしゃらずに! もう少しだけ待ってください! あっ……」

ドウキ ナダメに「どうかしたのか?」

ナダメ ドウキに「大変だ」
    皆に「エイジ開発さん、誰の担当だ?」

トロイ「私です」

ナダメ「トロイ」

ドウキ「トロイ……」

イカリ「ゲホッゲホッ。誰だ、こんなうっすーい茶淹れたの!?」

トロイ「私です!」

ドウキ「トロイ?」

イカリ「……トロイー!!!」

どこからともなくノリの良い音楽が流れてくる。トロイ以外の四人がおもむろに立ち上がり、インド映画のように急に踊りだす。

トロイ 驚いて反応に困っている。

ダンスが終わり何事もなかったかのように椅子に戻る。

イヤミ「次は気を付けてくださいね」

ナダメ「部長、エイジ開発に謝りに行った方が良いのでは?」

イカリ「行かなくていいよ。もう間に合わないでしょ」

ナダメ「そうですね」

イカリ「じゃ、お茶入れてきます。ナダメ君も飲む?」

ナダメ「じゃあ、お願いします」

イカリ「皆も飲むよね?」

イヤミ「は~い」

イカリ「二人は?」

ドウキ「あ、俺も飲みたいです」

イカリ「トロイは?」

トロイ「あ、お願いします」

イカリ「じゃあ、全員ってことで」はける。

トロイ ドウキに「あのさ」

ドウキ「何だよ」

トロイ「ちょっと状況がまだ呑み込めないんだけどさ。さっきの何?」

ドウキ「さっきのって?」

トロイ「あの、踊ってたやつ」

ドウキ「あれ? お前、知らないの? この会社の人は皆、感情が高ぶると踊っちゃうんだよ」

トロイ「ええ。何それ。……インド映画じゃん」

ドウキ「まあ、そのうちお前も踊れるようになるって」

トロイ「別にいいよ。踊れなくて」

イカリ 登場「お茶入りました~」
    お茶を配る。

五人  お茶を飲む。

イカリ以外「にっがー!!!」

どこからともなくノリの良い音楽が流れてくる。

ゆっくり暗転。

映画みたいなオフィス 時代劇編

ミスター・ポール 支部長
デイビット    主任
ローズヴェルト  清掃員

舞台下手で支部長と主任が正座をし、台を挟んで、コソコソと話している。清掃員が上手で掃除をしている

主任 「これが、お約束のものでございます」
    アタッシュケースを開けて、中身を見せる。観客からは見えないようにする。

支部長「おお。これがそれか。どれどれ?……。うむ確かに取った。しかし、おぬしも悪よのう?」

主任 「いえいえ。あなた様には及びませぬ」

支部長・主任 顔を見合わせて「ぐふ……ぐふふふふ」高笑い。

支部長「この計画が上手く行けば、私は出世街道まっしぐら。いずれはこの会社の社長になれるだろう。その暁にはおぬしにも良いポストを用意してやるぞ」

主任 「ありがとうございます。ところでミスター・ポール」

支部長「ん?」

主任 「どのようにして、あの会社から金を巻き上げたんですかい?」

支部長 クールに「巻き上げたとは人聞きの悪い。回収したと言ってくれるかな。まあ、どちらでも一緒か。良いかい?我が国は今、歴史上類を見ないほどの貿易赤字を抱えている。これを回復させるためにはどうすれば良いと思う?」

主任 「輸出を増やせば良いんじゃないですかい?」

支部長 クールに「確かにそれで解決できるだろう。しかし完全な解決には程遠い。なぜなら、我が国の産業体制は……」

清掃員 掃除機をかけ始める。

掃除機 ギュイーン……。

支部長・主任 驚く。

支部長 清掃員の肩を叩く。「ちょっとおじさん」

清掃員 掃除機を止める。

支部長「今、大事な話してるから、掃除機をかけるのは、後にしてもらえないか?」

清掃員 (分かりました)というジェスチャーをする。

支部長 クールに「我が国の産業体制はまだ完全には確立できていないからだ。だったら……」

主任 「私たちが管理する、この地区の店舗と直接貿易させる。そしてその売り上げを上納金として本社に納める」

支部長「というのは建前で、一部を懐に」

主任 「一部とは?」

支部長「四割」

主任 「残りの六割は?」

支部長「ちゃんと納めてます!」

支部長 クールに「我が社で最も多くの取引をしている会社はトレランスの株式会社デンノウさんだ。デンノウさんの扱う茶葉は、国民に広く浸透し、文化の根底を成している。そして今も茶葉の消費は拡大し続けている。これが輸入増大の理由となり……」

清掃員 掃除機をかけ始める。

掃除機 ギュイーン……。

支部長・主任 驚く。

支部長 清掃員の肩を叩く。「ちょっとおじさん」

清掃員 掃除機を止める。

支部長「さっきも言ったけどさ、今、大事な話してるから、後にしてもらえないかな?」

清掃員 (分かりました)というジェスチャーをする。

支部長 クールに「これが輸入増大に理由となり、貿易赤字の理由となった」

主任 「なるほど。しかしミスター・ポール」

支部長「何かね?」

主任 「茶葉の買い付けのために、海外へ出て行った金を回収する必要があるのは分かります。自分たちの管轄店舗とデンノウさんとで直接取引させる、とても良い方法だと思います。しかし……」

支部長「正直に言いたまえ」

主任 「恐れながら、その、トレランスから金を回収するために我々が売りつけている商品についてなんですが。その……。販売商品はアヘンでなくてはいけないんでしょうか?」

支部長「ん?」

主任 「いや、アヘンはいわゆる麻薬ですし、中毒症状によって心身共に蝕まれ廃人のようになると聞きます」

支部長「それがどうかしたのか?」

主任 「え?」

支部長「中毒症状? 持ってこいじゃないか。どんどん買ってもらって、トレランスの国民から我々の金を取り返すんだよ。それに古来よりトレランスは、アヘンを痛み止めの薬として使うそうじゃないか。むしろ我々がやっているのは人助けだよ」

主任 「ミスター・ポール……」
    今までのシリアスな雰囲気がガラッと変わって
   「おぬしも悪よのう?」

支部長「知っとるわ」

支部長・主任 顔を見合わせて「ぐふ……ぐふふふふ」高笑い。

清掃員 掃除機をかけ始める。

掃除機 ギュイーン……。

支部長・主任 驚く

支部長 清掃員の肩を叩く。「ちょっとおじさん」

清掃員 掃除機を止める。

支部長「今、もの凄く良い雰囲気だったのに、台無しじゃん」

清掃員「今の話、本当かな?」

主任 「何だよ。おじさんには関係ないだろ」

清掃員「本当かと聞いておるのだ!」

支部長 少し驚いて「ああ、本当だよ。何だ? 奉行所にでも言うのか?」

清掃員「いや、奉行所には言わない。我が社への信用が揺らいでしまうからな」

主任 「我が社?」

清掃員 服から左腕だけを脱いで、タートルネックの首の部分から腕を出そうとする。出来ない。「アレェ、アレェ……」などと言い、焦っている。諦める。元通りに服を着る。左肩を指さして
   「ここに桜吹雪があって〜! ……。あるんです! 桜吹雪が!」 
   「エ~~~~……」考えごとをしている。

主任 「なんか考えてますよ」

支部長 「ウン」

清掃員「……あ、そうか」

主任 「なんか分かったみたいです」

支部長 「ウン」

清掃員 「ポール、デイビッド。お前たちは自国の茶葉の消費量拡大のために、トレランスに麻薬を売りつけ、金を巻き上げた。そしてその売上金を本社に収めさせ、一部をかすめ取り、私腹を肥やしている!」

支部長「それがどうかしたか?」

清掃員 ポケットから紋所を出す。

支部長「その紋所は!?」

主任 「どうしておじさんがそれを!?」

清掃員「ポール、デイビット。お前たちは一度本社へ来たことがあったろう。私の顔を見忘れたか!?」

主任 「あ、アナタは!」

支部長「エイジ開発代表取締役社長、ローズヴェルト様!」

どこからともなく拍子木の音が鳴る。

清掃員 舞台に向かって、大見得を切る。

支部長 どうりで黒のタートルネックを着ているわけだ。

主任 頷く。

清掃員 大見得を切ったまま、顔だけ支部長と主任の方を見る。「ン?」

支部長・主任 膝をついて、深々と頭を垂れる。「ははあ~」

暗転

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