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クライアントのためのキャリアコンサルティング~2級(熟練)技能士の面接試験はこうクリアする!

はじめに

「キャリアコンサルティングは誰のためのもの?」

タイトルどおり、それはクライアントのためのものです。しかし、カウンセリングの現場において、多種多様なクライアントの想い・悩みと反応を前にすると、多くのキャリアコンサルタントが、この答えをタテマエとして、以下のように自分本位に陥ってしまうリスクに直面してしまいます。
「この後、(私は)どんな質問をしよう」
「(私は)このクライアントの意見に共感できない」
「(私は)クライアントのこの仕草が気になってしょうがない(から見ないようにしよう)」
「(私は)〇〇をクライアントに気づかせてあげたい・教えてあげたい」
「この人はきっと(私の知っている)〇〇に囚われている状況に違いない(から変えてあげたい)」
「なぜ、このクライアントは、(私の)思い通りに反応してくれないのだろう」
このようなキャリアコンサルタント本位の思い、クライアントの立場になって考えてみると、”余計なお世話”かもしれません。

カール・ロジャーズの創始した「来談者中心療法」は、キャリアコンサルタントの基本的姿勢として最も認知度の高い理論・実践手法の1つです。この考え方が、養成講座をはじめとしてこれほどまでに強調して伝えられるのは、どれだけ経験を経ようと、ともすれば”治療者中心療法”に陥ってしまうリスクが、そこかしこに存在することへの警鐘とも言えるでしょう。

筆者は、人事部門での勤務のかたわら、勤務先内外の多様なキャリア形成上の困りごとを抱えたクライアントに向き合い、その支援のあり方に試行錯誤してきました。そして、そののち、2級キャリアコンサルティング技能士(以下「2級技能士」)試験に挑戦し、なんとか合格を果たすことができました。さらに現在は、キャリアコンサルタントまたは2級技能士を目指す方のオンラインまたは対面でのカウンセリング指導を通じて、上記の問題意識「キャリアコンサルタント本位のカウンセリング」を、日に日に強く感じるようになりました。
多くのキャリアコンサルタントとその志望者が直面するこの課題に対し、特にどのような点に留意すれば、クライアント本位の自律的解決に導くために有効なカウンセリングとすることができるのか。私は、先達のキャリア開発・カウンセリングにかかる多様な知見とこれまでの自身の経験を踏まえ、最もシンプルなキャリアカウンセリングのアプローチの1つとして、「3つのマイルストーン・アプローチ」をまとめました。このアプローチは、実際のカウンセリング実践の中で形作っていった部分が大きい一方で、多くの既にある理論や確立された手法を応用して構成されています。なお、参考にさせていただいた理論・手法は、次のとおりです(カッコ内は主な提唱者)。

  • 来談者中心療法(カール・ロジャーズ)

  • ポジティブ心理学(マーティン・セリグマン)

  • 自己効力感(アルバート・バンデューラ)

  • 解決志向アプローチ(ピーター・ディヤング、インスー・キム・バーグ)

  • 転機の4S理論(ナンシー・シュロスバーグ)

  • 外在化、ナラティブ・アプローチ(マイケル・ホワイト)

  • キャリア構築理論、ナラティブ・キャリアカウンセリング(マーク・サビカス)

  • 自己決定理論(デシ&ライアン)

  • 論理療法、理性的認知行動療法(アルバート・エリス)

  • 個人心理学(アルフレッド・アドラー)

このアプローチの優位性は、上記の多様な知見をキャリアカウンセリングの実践で応用できることとともに、2級技能士の実技面接試験(ロールプレイ20分+口頭試問10分)にも容易に応用でき、評価区分として設定されている4つの項目(①基本的態度、②関係構築力、③問題把握力、④具体的展開力)にも応えることが期待できます。
クライアントの問題解決への多様なプロセスの中に、比較的小さな共通のマイルストーンを置いて着実に解決に向けて前進していくこのアプローチは、特に2級技能士受験者で苦手な方が多い、具体的展開力を備えるためのアプローチとも言えるでしょう。

本文書では、「3つのマイルストーン・アプローチ」をご自身のものとしていただくために、次のような構成で順に展開していきます。

第一に、具体的なアプローチの方法に入る前に、キャリアコンサルタントの基本的態度・姿勢としての、「クライアント本位のカウンセリング」とは何かについて考察を進めます。ここでは、資格試験対策として「主訴」や「クライアントの問題」を捉えることに加え、クライアントの「どうなりたい」という希望に焦点を合わせたカウンセリングの進め方をご紹介します。
第二に、「3つのマイルストーン・アプローチ」とは何かについて、それぞれのマイルストーン=標識を目指すためのプロセス設計のための手法と外せないポイントをご紹介します。
第三に、2級技能士試験の面接受験にあたり、比較的細部に関する部分的な指摘となりますが、躓きやすいポイントとその対応の考え方をご紹介します。
なお、いずれのフェーズにおいても、単に考え方をご説明するだけでなく、架空のケースを用いながら、意図を持った問いを効果的に組み立てていく流れをご紹介しております。

それでは、3つのマイルストーンを目指す旅の道程、ご自身のカウンセリング実践と照らし合わせながら、楽しんで読み進めていただけると幸いです。

※本文書は全体を通じて、2022年8月現在の情報をもとに作成しています。また、カウンセリング事例として用いているケースは、実在の人物や団体とは一切関係のない架空の事例であることにご留意ください。

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