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プロティアンに生きるための”アイデンティティ”

育休中のプロティアン・キャリア理論との出会いについて前回のnoteでまとめました。

そんなプロティアン・キャリア=変幻自在のキャリアを築いていくためには、アイデンティティとアダプタビリティが必要不可欠とのこと。
なかなかシンプル。「よっし!これで今日から私もプロティアン!」・・・なんて調子よくは行かず、そもそもアイデンティティとアダプタビリティって分かるようで分からない。

  • アイデンティティって拡散するし、混乱するし、確立するし、危機に陥る?自己概念は?

  • アダプタビリティってそもそもなんだっけ?

  • そもそもアダプタビリティって変化できた後の結果論じゃない?

どうやら、プロティアン・キャリアの修得は、これまでのHR業務とキャリアコンサルタントとして学んだことの集大成とする機会となりそうな予感。

そんな経緯で、改めて学び始めた育休の初め。今回はまず、キャリア理論におけるアイデンティティを中心に、自身の経験と往還しながらほどいていきます。

キャリアと自己概念

キャリア発達に関する心理学的アプローチでの定番ワード「自己概念」。「アイデンティティ」との間に意味の混乱が生じやすい。

14の命題やライフキャリアレインボーで有名なドナルド・スーパーは、自己概念を発達させ、実現していくプロセスこそが、キャリア発達であると説明していて、「自己概念」はキャリア開発の中核的位置付け。
この場合の、発達及び実現の対象となる「自己概念」とは、「自分ってこんな人」という自分自身に対する認知そのものであり、それは、主観的に作ってきた自己概念と他者からのフィードバックなどによって気づいた客観的な自己概念の統合することを通じて構築されていく。

この「客観的な自己概念」という表現は、少し理解が難しい。けれど、確かに、単なる自分の思い込みによる自己イメージだけでなく、他者との関係性や環境・状況の中で初めて気づく自分とのすり合わせを通じて、自分の将来像を具体化していったほうが、自分自身が、あるいは人生が、豊かになっていくように感じる。このことについて、スーパーは、14の命題の中で、「社会的な学習の成果である自己概念」とも述べている。

また、スーパーは、職業上、生活上の満足を得るためには、自己概念を適切に表現する場を見つけることや自己概念の具現化を重要視している。
このことは、キャリア・カウンセリングの定番、来談者中心療法のカール・ロジャーズが提唱する病理「自己不一致=自己概念と経験の相違」とも整合的に捉えることができる。ロジャーズはこのように病理を捉えるからこそ、カウンセリングの目標を、自己概念に柔軟性を取り戻し、自分の経験や感情を否認や歪曲することなく受容するようになること(=自己一致)に置く。
ロジャーズは、心理カウンセラーの立場として、自己概念を必要に応じて変容させる方向に重点を傾け、結果として、自己概念が現実(経験)において適切に表現できるための支援をカウンセリングと定義していると考えられる。

自己概念とアイデンティティ

一方、自己概念とイメージが似ている(私だけ??)ワードの「アイデンティティ」は、エリク・エリクソンによって提唱された概念。この「アイデンティティ」について、ダグラス・ホールは、プロティアン・キャリア理論の中で、2つの構成要素をあげている。
(以下の構成要素は、『新版キャリアの心理学』(渡辺三枝子・編著)より抜粋)

  1. 自分の価値観・興味・能力・計画に気づいている程度

  2. 過去・現在・未来の自己概念が統合されている程度

つまり、上記1.が、ロジャーズの言う自己一致(自己概念と経験の一致)の状態であり、さらに、2.が、時間を超えて自己一致が連続している状態と考えられる。エリクソンは、アイデンティティの特徴を「斉一性」と「連続性」という言葉で表現しており、上記2.は後者の「連続性」と言い換えることもできるだろう。

以上を踏まえ、私なりに自己概念とアイデンティティの関係を解釈すると、自己一致(自己概念と経験の一致)の状態がアイデンティティの確立には不可欠であり、加えて、これまで構築してきた自己概念が未来の自分を作っていくという確信が、さらにアイデンティティを強固にしていく。

思えば、私が育休に入るまでの約20年間の社会人生活では、当たり前のように仕事の役割が与えられ、期待され、努力と工夫により成果を上げるサイクルに浸っていた。この日常化した習慣が、固定的で強い客観的自己を作り上げ、それを主観的自己と統合し、学習する形で、会社員生活の中の自己一致を繰り返してきた。期待と成果の連鎖サイクルは、その自己一致を強化し続けるものとして作用したことが推測できる。

それが、育休に入り、組織構成員としての期待が一時的に途絶え、突然、そのサイクルから解き放たれる…。
そこには、約20年ぶりの激しい自己概念と現実(経験)の不一致があり、かつ、これまでの強固な自己概念が不一致を起こす状況に対し、未来の自分に向けた連続性を持つことが難しくなる。そして、このことは、これまで知らず知らずのうちに、いかに自身が会社員としての自己概念のみに依存した人生を送っていたか、自身を突き刺すほどのインパクトを持った気づきとなった。
これこそが、過去に記事にした、育休に伴う私の”アイデンティティの揺らぎ”の正体であり、これからプロティアン・キャリアを歩んでいこうとする私にとって見据えるべき課題と気づいた。

プロティアンに生きるためのアイデンティティ

では、自らプロティアン・キャリアを築いていくために、どのようにアイデンティティの課題と向き合えばよいか。

ホールは、関係性の中で生まれる自身への役割期待に呼応する自己概念を「サブ・アイデンティティ」と表現し、アイデンティティの一部をなすと考える。このことは、日々どの役割を担うか、自身で大小さまざまな選択を行うことと同時に、サブ・アイデンティティも選択し、成長(拡大)させていると捉えることができる。
さらに、誤解を恐れずに言うと、アイデンティティを自明のものとして無意識下に置くのではなく、日常の選択にアイデンティティを同居させ、役割期待に応じてアイデンティティの形を変えることを厭わない、むしろ、アイデンティティの変化を日常化することが、プロティアンな人生を送るために必要なアイデンティティのあり方かもしれない。

そのための具体的な方法や習慣については、さらに学習と実践が必要だけど、まずは、変化を前提として、連続性を持った自己概念を改めて確認していくことから始めよう。

「プロティアン」の語源であるギリシア神話の神プロテウスは、何にでも姿を変えられるけれど、「本当の自分」がわからなかった。
いつくもの、サブ・アイデンティティを試行し、アイデンティティの変化を日常化すれども、斉一性と連続性を持ったアイデンティティとすることを忘れずに、プロテウスのように「本当の自分」を見失わないよう注意したい。


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