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最後の洗車

※この記事にはドラマ『コントが始まる』第7話までのネタバレを含みます

土曜10時の日本テレビのドラマ『コントが始まる』の第7話が5月29日に放送された。コントが始まるの内容をとても簡潔に説明すると、高校時代の同級生で結成されたコント集団マクベスが、10年間鳴かず飛ばずで解散を迎えることになるところから始まる、20代後半の大人がもがきながらも前に進もうとする、青春群像劇だ。他にもストーリー上では不思議な縁でつながった、これまた人生にもがく姉妹が重要な存在として登場するが、ここでは割愛する。

先日の第7話では、マクベスがどこへ行くにも常に一緒だった愛車を売りに出すため、最後に洗車をするシーンがあった。モノに対する愛着というのが凄くリアルに描かれていて心に刺さってしまったので、今回こうして書くことにした。

どんな時でも一緒だったその愛車を、3人で洗いながら彼らは「この車での一番の思い出は何か?」という話題になる。一人ひとりしっかりと思い出があって、そしてそれぞれに対してお互いが納得と言わんばかりにその時のエビソードを面白おかしく語る。

もうこの時点でドラマを見ているということを忘れそうになるくらい、本当に“マクベス”として10年を生きてきた3人が話しているように感じた。学生時代とか青春の思い出を共有している友人との思い出話をするときは、自分も全くそんな風になるという感じ。何でもないようなエピソードが、何にも増して楽しいのだ。そしてマクベスにとっては3人とともに思い出を共有するモノがあった。それが車だ。

ひとしきり思い出話を語り合った後、菅田将暉演じるマクベスの一人、春斗が、言う。

今更なんだけどさ、ただの車じゃないんだなって。だってさ、この車の中にマクベスの歴史全部詰まってるんだぞ。こうやって別れる時まで気づいてやれなかったけど、こいつ4人目のマクベスだったんだなと思ってさ。

こんな車に、こんな感情持つと思わなかったと、涙する。

彼らにとってその車は、時間を共にしたことで、もうただの車ではなくなっていた。そしてそういうことは私にも、今までいくつかあったなあと思い返す。

中学から高校まで通学で乗り続けた自転車。一度は盗難に遭いながらも奇跡的に自分のもとへ戻ってきた。それこそマクベスと同じように青い力を動力にしてどこへでも遊びに行った。今では車を使ってでも億劫になるようなところまで。今でも家にあってたまに乗ったりするのだけど、これを手放すとしたらマクベスの3人のような感情になるだろうなと思う。

部活で使った道具たち。いくつかの場面で良い結果が出せたのは道具があってこそだ。逆にとんでもないミスやレギュラー落ちして燻る私もよく知っている。常に身に着けるものだから、だんだん自分の型に合ってくる。本当に、生きているみたいだと感じる。これもなかなか手放せない。

それから、大学時代に一人暮らしをしていた、家賃4万にも満たないワンルーム。狭くて日当たりもあんまりだったけれど、不思議とホームシックなんて感じなくて良いくらい、最初から居心地がいい部屋だった。それでも「ただいま」に返事が返ってこないところに一人暮らしの寂しさを感じることはあった。今思えばそんなときでも、あの部屋が私を受け止めてくれていたんだと思う。楽しい出来事があった日も、落ち込んでいる日の自分も知っている。なんという包容力だろう。

片付けが出来ない自分だから、4年間の通算の半分以上は散らかしてしまっていたと思うし、付属の冷蔵庫を不注意で壊してしまったこともある。今思えばもう少し、丁寧な暮らしを心がけてあげられていたらとも思う。向こうがどう思っているのか果たして知る由もないのだけれど、引っ越しの時はとても寂しかった。

最後の1週間くらい、引っ越しに向けて必要のないものが部屋からどんどんなくなって、入居の時の姿に近づいていく。そして引っ越し当日になればあっという間にもぬけの殻だ。4年間を思い返しながら最後に謎の記念写真を撮った。

自分の話に脱線してしまったけれど、結局言いたいのは、やっぱりモノにも魂は宿る。そう思う。マクベスの車は、マクベスに乗ってもらえて、幸せだったと思う。彼らがそうであったのと同じように、絶対に。

車を手放し、彼らも解散に向かって歩みを進めている。不器用ながらも懸命にもがく彼らを、最後まで見届けたい。



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