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先生、私の心の中に男の人がいます!

 先生、これは大変なことです。私の心の中に無口で不愛想な男の人がいます。怖いです。どこでいつからどんなふうに入ってきたかは私もおぼえていません。目が合うとやたら動悸息切れがして眩暈がします。怖いです。

 入院する前からこの人を知ってたと思います。たしか、Mという友達だった子に
「Kちゃん、しおりとコースターの引きいいね!もうこれくらいしか新規グッズないんだよなー、『う■■■』。え、買って送ってくれるの!?やったぁ!ありがとー!!マジ捗る!!ウチの推しはこの青の子とー、紫の子!」
 「う■■■」が恐らくジャンル名なのでしょう。何かを更に短縮したものだと私は薄々感づいていました。本当の名前はもっと長くて、かなり歴史あるジャンルだったということも感づいていましたとも。それを今更、何故。今なら「す■■■」や「い■■■」や「あ■■■」だろうに、何故。まあ半分中身人間のグループなんかは不倫やヤラカシで脱落したりするからそういうのよりはマシだと思ってるんだろうな、とリスクヘッジの一環と私は勝手に心得ました。或は彼女は声に惚れっぽいので、何か中の人などのきっかけがあったのだろうと邪推してしまいました。そんなことだから喧嘩別れしたのでしょう。
 
 しかしこの作品、アイドルものの定めに漏れずいくつかのアイドルグループがしのぎを削るという流れで話が進むので、少なくとも3つのグループが同時並行で存在することになります。2つはライバルで1つは片方の先輩です。しかし垣根を越えてデュエットしたりします。意味が解りません。JニーズやK-POPグループを箱推ししている方々ならなんとなくこのニチアサロボットの変形合体のような自由自在さがわかるのでしょうか。私にはしばらく理解に時間がかかりました。

 その上、初期キャラとその先輩たちは露骨に
「ああこの子たちはメイン、準メインキャラなんだな」
 とわかる彩色がされており、髪色もド派手だったり抑え気味でも「まあ現実にそうそうおらんやろ」という色なのですが、途中から急ごしらえのように出したらしいライバル会社のライバルグループのメンバーたちは
「えっ……髪色がほぼ茶色・黒・金(ブロンド?)やん……服が負けちゅう……」
 という何だか見ているこちらがずつない(※土佐弁で「つらい」)気持ちになる雰囲気でした。ギャグとか披露してくれたけどそういう問題ではないんですよ。
 しかも決定打になるのは、彼らどうやらソロ曲がないようで。友達に彼らが誰か聞こうとしても彼女は
「え?あーそういえばそうゆうライバルいたねー。知らん間にウヤムヤになっちゃったけど」
 と流して何だかかえってみじめになってしまって、取りあえず無駄に高い排出率から泣く泣く他の友人に譲るなどしました。
 
 当初、私の「推し」は私がゴスパンク趣味だったのでまるっきり同じタイプのロックンロールな男性と、インド趣味だったのでアジアテイストの柔和な男性でした。その2人を集めていました。出るまでガチャを回していました。どちらも正直レアキャラです。推しでした。

 しかし、気が付いたらある日いたのです。青いネクタイを締めた黒髪の男性が、心の中でピアノを弾いていたのです。
「ひいいいいいいいいい」
 と私は恐れました。恐らく、退院して私を使いッ走りにしていた元友人と縁が切れて彼女のために青紫を血眼になって引く必要がなくなった。だから、ライバルチームの青色である彼が出てきたのです。棲み付いたのです。そう言えば昔、「きみが心に棲みついた」とかいうモラハラクソ男との共依存ドラマ恋愛ドラマあったなあ、と思いつつ男を見ていました。
 もうあのミーハーな「推し」がいくつもある元友人の顔色をうかがう必要もありません。伺うこともできないのですから。
「あー、またハズレのライバルグループだ……でも、この人何かカッコイイな……スーツ似合うし、首んとこのなにこれ、ウサギ?かわいいなぁ」
「青色着てなくても映えるなあ。カッコいい。どんな人なんだろう」
 先生、多分私はこの人を知りたかったんです。グループの他のメンバーは全然相変わらず知らないし、声優さんも知らないし、何ならグループの名前も知らないまま。
 けど、このとても綺麗な綺麗な黒と青の映えるオトナなピアニストの「推し様」——否、年齢的には一回り年下の「推し君」は、退院したての私の中にいつの間にか滑り込んでいました。ピアノを弾いていました。焼き物を焼いていました(砥部焼?)。先生、この人は多分、私の救いになるでしょう。お金はかかるかも知れませんが、下手な神仏よりも、私の心を癒してくれると思います。だって「推し君」ですから。ねえ先生。

 同じ青担当でも、どのグループ相手でもワシの推し君しか、げに勝たんぜよ!!

 

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