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“服の価値”を担保し、持続可能な消費サイクルを目指す「MITTAN」の挑戦

「MITTAN」は世界に遺る衣服や生地にまつわる歴史を元に、現代の民族服を提案しているアパレルブランドです。長く着続けることを前提とした素材使いや定番的なデザインが特長で、購入した店舗や時期、製品のコンディションにかかわらず、当時の小売価格の20%(税別)で買取をして、必要に応じて修繕や染め直し、クリーニングを行い再販しています。このような取り組みは、「短サイクル消費・大量廃棄を前提としたアパレル産業の根幹的な問題である構造に対する弊社なりの反抗」だと言います。

今回は「MITTAN」代表・デザイナーの三谷武さんに、買取・再販サービスの展開にかける想いや、実際の取り組み状況についてお話を伺いました。

三谷武さん
岡山県生まれ。2005年文化服装学院卒業。京都や大阪のメーカーを経て13年に三谷企画室を設立し、「MITTAN」をスタート。17年、合同会社スレッドルーツとして法人化。21年から製品買取を開始。23年11月、京都市左京区に初の直営店をオープン。


価値を担保することで「服を簡単に捨てない世の中」を目指す

ー2021年より買取・再販サービスを開始していますが、どのようなきっかけがあったのでしょうか?

「MITTAN」は創業当時から、‟アパレル業界が抱えている問題に加担したくない”という思いで、定番的な製品や、修繕・染め直しのサービスを展開しています。ブランドの運営を続ける中で、‟修繕や染め直しをしてまで着たい”と思ってもらえる服があるのと同時に、そうではない服も一定数あることを想像したり、お客様からも伺ったりしていました。そのため、着なくなって収納の奥に行ってしまい、そのうち捨てられてしまうような服を、必要とされる方にお届けする仕組みを作りたいと考えていました。

世間では、低価格化や販売チャネルの増加によって簡単に服を手に入れられるようになった分、以前より短い期間しか服を着続けないという流れができてしまっています。私たちはこれと異なるサイクルを作るため、メーカー側が製品の価値を担保することで、‟価値がなくなったので捨てる”ということを防ぎたいと思い、買取・再販サービスを開始しました。自社で回収・再販する取り組みを行っているメーカーは他にもありますが、製品の状態に関わらず小売価格の20%(税別)の金額で現金買取をし、それを一切廃棄せず100%再販に回しているのは当社だけだと思います。

ー思い切った取り組みだと思いますが、お客様の反応はいかがでしょうか?

着なくなった服をフリマサービスで売る方もいらっしゃいますが、‟知らない方に渡すのは忍びない”と思う方もいらっしゃいます。郵送での買取の際に、お客様からのお手紙が入っていることがあるのですが、“しっかりと着て愛着もあったので、メーカーから別の方に届けてくれるのであれば製品を戻したい”というお声や、“せっかく買ったのにあまり着ていないので心苦しいと思っていた”という方もいらっしゃいました。“このようなニーズへの受け皿になるサービスはとてもありがたい”というお言葉をいただいたこともあります。

ー買取・再販の取り組みにおいて、苦労されていることはありますか?

状態にかかわらず買い取っているため、きれいな状態の場合はクリーニングだけで済みますが、そうでない場合は修繕や染め直しをして再販を行います。その際、どのくらいの加工をして、どのくらいの価値をつけるのか、きちんと利益が出るように価格を設定しなければならず、そこで悩むことがあります。ダメージがない再販品は新品価格の50%〜60%程の価格で販売していますが、しっかり修繕をしているものは工程に手間がかかっており、ものによっては元の販売価格より高くなることもあります。衣服の価値をきちんと担保しつつ、ブランドとして表現することが肝要だと考えています。

この取り組みを経済的に持続可能なものにすることが、私たちにとって非常に重要です。寄付のような形で回収された古着が南アフリカやチリなどの砂漠に不法投棄されているのは周知の事実ですし、衣類回収を大量消費を促す隠れ蓑として利用している企業も多いと感じています。買取をしてポイント還元するメーカーさんも多いと思いますが、服を回収して次の服の消費を促すことは、利益を求める企業経営としては正しいと思う一方、また不要なものを買わせてしまい、結局短期間での消費を促す、負のサイクルに足を突っ込んでいるのではないかという気がしています。

一方、定額での買取から再販までを行うこの取り組みが成り立てば、他のメーカーさんや消費者の意識にも良いインパクトが与えられるのではと思っています。

ー  二次流通で「MITTAN」の製品を購入した場合はどうなるのでしょうか?

二次流通で購入した場合も「MITTAN」の製品であるなら小売価格の20%で買取しています。例えば、メルカリで小売価格の50%で購入した製品だとしても、「MITTAN」に戻していただければ元の価格の20%で買取を行うため、“20%の価値”は担保されていることになります。この情報を知っているお客様は、製品に対して経済的な価値を持ち続けることができますし、二次流通においても安心して取引が行えると思います。また、買い取りを始めてから、二次流通での価値も比較的上がってきているようにも感じています。

修繕した後も価値がある衣服は必要な人に届く

ー修繕や染め直しはどのように行っていらっしゃるのですか?

修繕や染め直しの受付は年間600枚程度で、社内の修繕専任スタッフ2名で行っています。簡単なものであれば、お店に持ち込まれたその場でお直ししてお渡しすることもありますし、ウェブサイトを窓口として郵送でお預かりする場合は、概ね1〜2週間くらいのお時間をいただいています。

染め直しは、化学染料やベンガラの染めは外部の職人さんに、藍染や草木染めは社内の工房か、同じ京都の職人さんにお願いしています。量産製品と一緒に染め直しをするため少し時間をいただくことがありますが、料金はシャツなどの軽いものですと2,200円程からで、できるだけ多くのお客様に戻していただけるようハードルを下げるようにしています。

ちなみに、買取の数もだんだんと増えてきており、年間200〜300枚程度になっています。

ハンドステッチによる修繕
ミシンステッチによる修繕
生成から藍×胡桃への染直し

ー修繕や染め直し、買取・再販の取り組みを広げていくためにはどうしたら良いと考えていますか?

「修繕や染め直しをした衣服の方が良い」という価値観を作っていく必要があると思っています。もちろん、直したものをすべての人が良いと思うわけではないですし、誰かが着たものに抵抗がある方もいらっしゃいますが、修繕の様子をInstagram( @mittan.asia.repair )などで紹介すると、変化していく様子を見て、喜んでくださる方もいらっしゃいます。

他にも、MサイズのウールセーターがXSサイズくらいに縮んで着られなくなってしまい、買取をしてほしいという方がいらっしゃいましたが、クリーニングをして再販したところ、小柄なお客様が喜んで買ってくださったことがありました。誰かが着て綻びても、修繕した後も価値のあるものであれば、それが必要な方に届く、そのような流れをこれからも広げていきたいと思います。

量産されている服は、元々自分のために作られたものではありませんが、着続けていくと“個性”が出てきます。そして、着ている方が生活の中で与えたダメージを修繕することで、より自分だけの服になっていきます。染め直しであれば、元々の色に別の色を重ねることもできるので、販売されていない、自分で選んだ自分だけの色を出すこともできます。このような“人と服とのパーソナルな関係性”もあるということを、少しずつでも消費者の方に伝えていきたいですね。

成功例を示して少しずつでも意識を変えていく

ー「短サイクル消費・大量廃棄を前提としたアパレル産業の根幹的な問題である構造に対する弊社なりの反抗」という意義を掲げられていますが、他の事業者や消費者の意識を変えるためには、どのようなことが必要だと思われますか?

まずは小さな規模ではありますが、先述のサイクルが経済的に持続可能であると実証することが重要だと考えています。大勢の方が一度に変わることは難しいですが、数%の方たちの意識を変えていくことで、徐々に変化が生まれると期待しています。

少しずつ成功例を積み重ね、このような形でも企業として成り立つことを知ってもらい、事業規模の大きな企業が変わり、同時に消費の仕方も変化していくことを望んでいます。

例えば、靴や鞄には修繕の文化が一定数根付いていますし、服ではデニムの修繕が一般的です。アウトドアブランドの修繕もよく知られています。ただ、大多数の服ではそのような文化が根付いていないため、その認識が変われば大きな変化となると思います。

消費者の間にも理解のある方が増えているという実感がありますし、教育によってより良い消費を促す実例もありますので、直しながら永く着るスタイルが少しずつ定着し、消費への考え方が徐々に変わっていくことを期待しています。

おわりに

安易に服を買い、着なくなったら捨ててしまうというサイクルから抜け出すために、メーカー側が価値を担保することはとても新しい取り組みです。三谷さんからお話しいただいたように、世の中全体が一気に変わることは難しいですが、消費者やメーカーの方々の意識が少しずつ変わっていくことが、持続可能な社会に繋がっていくように思います。リコマース総研では、今後も様々な企業における取り組みを研究し発信することで、より多くの方の意識を変えるきっかけとなるよう取り組んでいきます。

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