【エッセイ編】『老火湯』は『嫲嫲』と『厨房』の匂い。
香港の「家庭の味」と言えばコトコト煮込むスープ『老火湯』という三文字が先ず出てくる。
『無湯不成餐』(スープがないと食事に成り立たない)という言葉の通り、香港の食事でまず何よりも大事なのがスープ。季節や体調に合わせ、中医学の教えに基づいて、様々な食材を組み合わせるスープは『媽咪』たちが家族への愛情を表す「有形表現」だ。
『老火湯』というスープは、長時間煮込むことにより食材の栄養と旨味が溶け込んだ独特な香港スープ。
学校から帰ってきて
「この香りは・・・どんなスープかな?!」
と鼻に漂ってきた美味しそうな匂いをかぎ分けることが
毎日の課題だった。
豚肉のスープ?
豚の骨のスープ?
鶏のスープ?
干し蠣とレンコンのスープ?
さかなのスープ?
ドアを開けた瞬間
どんなスープを作ってるのかがすぐ分かった。
毎日飲んでいたから匂いでわかる。
時にこんな日があった。
何か甘い匂いがする
頭に今日のスープは
「ま・ち・が・い・が・な・く・果物系のスープだ!」
丸襟白いブラスの上に
薄手のスカイブルージャンパースカート
私の小学校の制服。
襟の真ん中につけた重たい校章は、
制服をハンガーにかけたとたん
必ず襟とともに垂れ下がる。
(こちらの制服は私の小学校の制服に似てます)
制服をかけたら・・・すぐさま
香しいスープの匂いが立ち込めた
『厨房』へ駆け込んでゆく。
赤いプラスチック踏み台を(『紅A牌』香港ブランド)
ガス台まで運んで行って
『嫲嫲』が毎日昼頃に大きな土甕のような
*³『湯煲』で仕込んだスープを覗ぎにいく。
香港『|湯煲』《土鍋》をアニメーション化した絵
グツグツと煮ているスープ
とろ火を付けたまま
蓋の真ん中にある5円玉サイズの穴から
蒸気がゆっくりと少しずつ上がってきて
布きんで蓋を被せ掴み取ると
丸っこい梨が水面に浮かんでいて…
今日は
『雪梨湯!』(梨のスープ)、当たり!」
*⁴『窗花』の外は
穏やかな秋晴れの夕方
西に徐々に沈んでいく太陽が
空をオレンジ色に染め
飛行機が『香港啟德機場』へ
着陸するために徐々に降下していく。
『窗』に顔を向けながら立ち、
せわしなく働いてた『嫲嫲』は
「秋だよ。たくさん梨のスープを飲んで、肺を潤わさないと…」
と唸った。
『嫲嫲』の背中を見て
パッパと夕飯の支度をしていた。
字も読めないのに
スープのレシピは百種類以上脳に記憶されていた。
どんな季節に、どんな体調に、どんなスープを。
バリエーション無限なレシピ!
今の時代は何でもネットで検索出来るのに
すごいなぁ!人間データベースなんて!
その脳に入ってたスープレシピデータベースが欲しい。
『雪梨湯!』(梨のスープ)を
飲んで、ほっとする。
スープが体の隅々まで行き渡り、ポカポカになった。
しっかり潤わせた!
スープのお陰で香港人は肌美人が多いのかな?
『湯煲』の蓋の真ん中の穴から
薄っすらと上がってきた蒸気はふんわりと包まれた。
今考えるとあの頃は『好幸福』(ホ ハン フォッ)だった。
学校から帰宅すれば
『嫲嫲』は必ず家に居る
体に良いスープが毎日あり
『嫲嫲』のおかげで至福な子供時代だった。
その記憶のせいか
オレンジ色に染められた秋晴れの夕方は
『窗花』がある窓を見たくなる。
もう一度、あの時の眩しい夕焼けの光を差し込んだ『厨房』で
『湯煲』から薄っすらと上がってきた蒸気に包まれたかった…
*⁴『窗花』(広東語の発音:チョンファ)。香港は日本と違って高層ビル多いので転落防止として窓枠の使用率が高い。
是非フォローや「スキ♡」を押して行って下さい!
〘ノートの登録者じゃなくても手軽に押せます〙
感謝の気持ちでいっぱいです~
(自信がない私の励みになります!)
私はノートを始めた理由は・・・ ☟
よろしければサポートお願いします。頂いたサポートはレシピクリエーション経費として使わせて頂きます! Thank you so much for your kind support!