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vol.19 睡眠とメンタルコントロール

働き盛り世代、ミドルエイジの原動力。生産性の向上は企業にとって最も重要な課題の一つだと思います。

睡眠不足による個人のパフォーマンス低下は社会全体の損失に繋がっています。米学術誌『Sleep』で発表された研究によれば、総人口2500万人を抱えるオーストラリアでは、2016〜2017年の間に睡眠不足によって生じた“負の総コスト”が指標として試算されました。その額はなんと450億ドル(USD)にも登ると言います。

インターネットやSNS等、人間の脳は一日中情報に晒され、その処理に追われています。大事なミーティングの前日は徹夜で用意している方もたくさんいらっしゃることと思います。しかし、情報をうまく分析、解析をしながら、パフォーマンスを発揮したいなら、本来は寝るべきです。海外の企業によっては、個々人のパフォーマンスを高めるために、始業時間を30分遅らせるなどの工夫をしているところもあるようです。

睡眠は脳の休息である

睡眠を取ることによって、脳は翌日もしっかりと情報処理をして、身体の隅々に指令を出すためのエネルギーを蓄える。新たな“シナプス”が生み出され、脳に必要のない情報はその大部分が浄化される独自の仕組みを持っています。必要だとされる情報のみが残っていくのです。

睡眠中に記憶が定着する

情報は短期記憶から長期記憶に定着していきます。

例えば、私のジムでパーソナルトレーニングを受けた際に「このエクササイズは◯◯筋に効果的でAさんの身体はこういう状態なので続けてもらう事で腰痛の改善が期待出来ますよ。」と伝えられたとしましょう。

この情報はまず脳の「海馬」に保存されます。ここでは一旦、短期記憶として保存されています。そこから深い睡眠時に海馬から発せられる指令のもと長期記憶として脳に定着します。

私が伝えた◯◯筋。これはクライアントの方々は、残念ながら、ほぼ覚えておりません。脳は必要ないと判断した情報の大部分は除去します。記憶は将来自分にとって有益な情報か、生存に関わる情報か、そこを優先して記憶します。

ですので、上記のようなケースでは「腰痛の改善に効果がある」というワードがクライアント側にとっては重要な情報のポイントとなり、エクササイズを記憶していくという流れがあるのです。

そしてもう一つ。
脳は何度も繰り返したものを記憶するという習性があります。

私には3歳になる息子がいますが、何度も同じ言葉を繰り返します。寝る前の暗闇の中でも覚えた歌や、気に入ったフレーズの単語は何度も何度も口に出しています。そして、毎日の起床時には別人のようにボキャブラリーや出来ることが増えています。

ここでは「続けて下さいね」という指示がポイントなのです。続けることで脳は必要な情報だと認識して長期記憶として定着させるのです。こうして定着すれば、身体のコンディショニングとしての知識、技術は一生ものとなるのです。

睡眠とメンタルコントロールの関係性とは

脳内において扁桃体は情動に関係します。扁桃体は主に恐怖、不安等に深く関与しています。

トレーナーとして、腰痛をはじめとする慢性障害を扱うにあたって勉強していたときに、扁桃体が慢性炎症を助長させ痛みを増幅させるということを知りました。

簡単に説明すると、いつもの駅の階段で膝が痛くなったとします。痛みはその時だけでしたが、翌日、あなたは同じ階段を上る時に何も考えずに上れますか?

恐らく頭の端に「昨日ここで膝痛くなったよな、、、気をつけて歩こう」など浮かんで動作が丁寧になったり、昨日の痛みの記憶が蘇って来てもう痛くないはずなのに「痛み」を想像してしまいますよね。その時も、扁桃体は活性化しているのです。扁桃体は徹夜をしたりして睡眠不足に陥ると活性化してしまうということが報告されています。

The Role of Sleep in Emotional Brain Function  Andrea N. Goldstein1 and  Matthew P. Walker
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/?term=Goldstein%20AN%5BAuthor%5D

ということは、扁桃体は不安や恐怖に関与するので、仕事上でのストレスや人間関係などの悩みが、いつまでも処理出来ずにネガティブ方向に思考が傾いてしまう可能性が出てきます。

このように睡眠による身体性への影響、逆に言えば睡眠によるアプローチが、個々の身体性に与える影響は計り知れません。

記憶がしっかり定着することで、言語学習や新たな仕事のスキルの向上速度も上がり、結果、生産性も上がり、情動側面も安定して来る。メンタルコントロールも、自ら上手く出来るようになる。

一人一人が睡眠から得られる価値を見出してくれるようアプローチすることが、トレーナーとしての私自身も大切なことだと考えています。

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