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ショートショート『メメントモリ』

「え、嘘、お前って視えるヤツだったのか」 

 ついうっかり口を滑らせた僕が悪いのは分かっているけど、よりにもよって一番バレたくない奴にバレてしまった。悪い奴ではないが、お調子者でお喋り。そんな奴。

「知らなかったなぁ……そういう第六感? みたいのがありそうには見えなかったもんだからさ。早く言ってくれよ、俺、視てもらいたい人がいてさ」

 第六感がありそうには見えないだなんて失礼だな……いや、失礼なのか? まあいい。正直厄介だ……というのが僕の本音だった。視えるのは視えるが、ありのままを伝えるとガッカリさせてしまうケースも少なくない。というか、僕自身が辛いことだってるんだ。僕は曖昧に、
「でも、その日の調子とかもあるから……」
 と逃げようと思ったが、
「俺の子供なんだけどさ」
 と、まるで聞いていないようだった。あれよあれよと彼のペースに巻き込まれる。
「別れた時、まだ子供は2歳だったんだよ……向こうで元気でやってるかなってさ」
 彼は眉尻を下げて、淋しそうに笑った。こんな顔されてしまうと僕も弱い。視るのには実は結構気力が必要なんだけれど、断れなかった。
「じゃあ、ちょっとだけだよ。僕もそんなにずーっと視えるわけじゃないんだから」

 ふぅっと息を吐いて心の準備をする。
「じゃあ、じっとしてて。両手合わせてもらえる?」
 彼は素直に手のひらを合わせた。横から僕が両手で挟むようにして覆う。目を閉じ、ジーッと集中すると、ぼんやり青年が見えてきた。彼の死後から何年も経っているのだろう。立派に成長し、顔立ちはなんとなく似ているような気がした。元気でお調子者で、でもどこか憎めない感じ。割とクラスでも人気があるのだろう。あれは……ガールフレンドだろうか……。

 僕は、嘘をつく必要がなさそうだったので少し安心した。案の定、ありのままを伝えると彼はとても喜んだ。
「あぁ、嬉しいよ。ガールフレンドか。アイツも俺に似て、やるなぁ」
 と、声を出して笑った。
「俺もさ、嫁と付き合い始めたのは高校生の時だったんだ。我ながら順風満帆で、就職してすぐ子供が出来て……だけど、嫁と俺は事故でいっぺんに死んじまってさ。息子が生きてることだけが唯一の救いだったんだが……」
 彼は涙をぼろぼろと流し始め、泣き笑いのような奇妙な表情になっていた。すまねぇなぁ、と彼は続ける。
「でも、一人で立派にやってるわけだ。さすが俺の子だよ。俺も早く徳を積んでもう1回やり直すさ。視てくれてありがとう。生きている人が視えるなんて、素敵な能力だな」

おしまい


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