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慶應義塾常任理事 國領二郎が語る “ITがもたらしたビジネスモデルの変容” と愛読の4冊。

(この記事は2019年に作成したものを再掲載しております。)

「テクノロジーは、サプライヤーのためではなく、コンシューマーのためであるべきだ」経営情報システムの分野で第一線を走り続けている國領二郎氏は、テクノロジーがもたらした “現代のビジネスモデル”に持論を展開する。
ハーバード大経営学博士(1992年)・慶應義塾大学常任理事(現任)とアカデミアに邁進。一方でJINSやQONで社外取締役を務めビジネスの最前線も見つめる國領氏の“学び”に、関連書籍に絡めながら迫る。

<経歴>
1982年東京大学経済学部卒。日本電信電話公社入社。92年ハーバード・ビジネス・スクール経営学博士。1993年慶應義塾大学大学院経営管理研究科助教授。 2000年同教授。2003年同大学環境情報学部教授などを経て、09年総合政策学部長。2005年から2009年までSFC研究所長も務める。2013年より慶應義塾常任理事に就任。

読書は、断片的な知識ではなく体系的な学び

まず始めに、普段の読書について尋ねると「たくさん読みます。職業柄ね…」と気さくに口を開いた。

「読書するのは物事の本質についてじっくりと考える時です。断片的な知識というよりも体系的な学びをする時には、やっぱり本が1番良いと思います。」

続けて、國領氏は読書についてこう言及する。

「実は、流行りの話題について触れたビジネス書はあまり読まないんです。テクノロジー系だと読むこともありますが、気になったことについてはまずネットで調べるようにしています。」

國領氏の情報に対する接し方はとても慎重だ。本に書かれているからといって正しいかと言われればそうではないと切り捨て、情報との接し方で意識していることを紹介する。

1. 情報のソースを確認する
2. 書籍の著者や記事のライターを確認する
3. 客観性を持った分析がされているかを確認する
4. 複数の情報を参照して、比較する

ネットには多くの信用ならない情報が存在するが、ネットだけではなく書籍についても同様に情報リテラシーが求められているのかもしれない。

物事を歴史的な文脈で考える

1930年代に書かれた『Technics and Civilization』を取り出しながら、嬉しそうに國領氏は語る。

「第二次産業革命後に、人類に初めて“技術に対する恐怖感が生まれた”のが伝わってくる本で、テクノロジーの本質を考えるのにとてもいい本なんです。ビジネスマン向けではないかもしれませんが。」

Technics and Civilization』はまさに、その変化の渦中で書かれた本だ。そして現在でも、AIによるシンギュラリティなど、現代でも技術に対する恐怖心は人々の間に存在し続ける。歴史的な文脈で考え事をするのが好きだという國領氏らしいオススメの一冊だ。

そして、これからの時代を生きる起業家にぜひ読んでほしいと言って、もう一冊を取り出した。『The Age of Access』だ。

「20年前に書かれた本なのですが、現在に至るまでのビジネスモデルの変化を見事に予測した一冊です。具体的には、大量生産・大量販売のマスマーケティングのビジネスモデルから、サブスクリプションやシェアリングエコノミーなどに。“所有権”を売るモデルから“利用権”を売るモデルへの変容を見事に予測しているのです。新しいビジネスモデルをこれから考える人は読んでおくといいかもしれません。」

収益モデルをどのように作るかが重要

新しいビジネスモデル考える際には、収益モデルをどう作るかが大事だと言う。

「SNSのサービスなどでは、まずは利用者を集めてからマネタイズすることも増えましたが、それは前の時代に比べて初期コストが落ちたからに過ぎません。なんにせよ、最終的にはどこに収益モデルをつくるかが重要になってきます。」

「最近だと、猛威をふるっているのがターゲットマーケティングです。これがあまりにパワフル過ぎます。データをたくさん蓄積した企業がサプライヤーにそのデータを売るようになった辺りから、少しおかしくなったのかなと思います。」

こう言って取り出したのが『The Age of Surveillance Capitalism』(監視資本主義の時代)だ。

「著者ショシャナ・ズボフさんは、ハーバードビジネススクールで教授を務めていて、ビジネスを教える側の立場の方です。ですが、そんな彼女がターゲットマーケティングやSNS依存症、フェイクニュースなどの人間に与える弊害について明らかにしたもので、切り口が斬新で面白いです。」

國領氏は、自著ではいつも「ビジネスで最も貴重な資源は“信頼”だ」とメッセージを込めている。中でも、この視点でトップ企業8社の経営戦略を取り上げた『デジタル時代の経営戦略』はぜひ手にとってみてほしい。


テクノロジーは消費者のためであるべきだ

「僕はこれまで、経営学の観点からだけではなく、ITを社会的にどうガバナンスするのかについても考えてきました。ですが、ターゲットマーケティングなどの強力なビジネスモデルが生まれて、消費者を守るガバナンスはとても難しくなりました。」

ローレンス・レッシグの『CODE 2.0』は、テクノロジーのガバナンスを考える上でとても有益だったと振り返る。

「社会構造からどうテクノロジーにアプローチしていくかを考えるにあたって有益でした。『CODE 1.0』の頃から知っていますが、彼が指摘した人を導くときの構造の部分は、誰が知っても損のない教養だと思います。」

そして、インタビューの最後に國領氏はこのように残した。

「テクノロジーは常に、人々のためであり、消費者のためであるべきだと考えています。しかし、現在のGAFAをはじめとしたデータ蓄積をした企業がビジネスをするのを止めることはできません。
悔しいのであれば、これよりも儲かるビジネスモデルを生み出すしかないと思います。不可能に思えるかもしれませんが、次の技術が現れたときにそのチャンスはめぐってくると思います。」

1980年代、ウォルマートなどがIT技術の発展によって、生産・販売のパラダイムシフトを起こした。当時、ハーバード大学の博士課程に在籍していた國領二郎氏は大きな可能性を感じた。消費者・生産者の両方を助けるはずのテクノロジーが、どこか消費者に不利に働いてしまっていることに、懐疑的なのかもしれない。



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