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『生きていること 動く、知る、記述する』 読書録#2

『生きていること 動く、知る、記述する』
左右社 2021
著 ティム・インゴルド
訳 柴田崇/野中哲士/瀬古仁志/原島大輔/青山慶/柳澤田実


『動くこと、知ること、そして記すことは直列につながれる別々の操作ではなくて、むしろ同じプロセスの並列した複数の側面であり、生そのものに他ならない』



生きていることも動くことも知ることも記すことも、静止した世界での振る舞い方ではなくいずれも常に進行中の過程と言えます。


我々は世界を静止させる操作に長けており、それが正しくなるように振る舞ってしまいます。


静止した世界とは一瞬を切り取った、「今この瞬間」の世界ではありません。


加藤周一が論じたように日本人は古くから「今この瞬間」を大切にしてきたと言います。

たとえば俳句のような決められた字数では、未来や過去のことを言及する時間がありません。

だからこそ松尾芭蕉のように一瞬の瞬間を集約させた俳句が生まれるわけです。



これはインゴルドの言う静止した世界とは少し違います。


インゴルドの言う静止した世界とは、それよりも一歩引いた世界であり、世界について説明が可能であるというような世界であり、説明されたもので理解ができるというような世界のように思えます。


それは本書を通して行われるギブソンへの批判や10章で行われるギブソンとメルロ・ポンティとの比較からも伺えます。



本書に出てきた、常に進行中の世界に生きているコユコンの人々のように、

『すべてのものがどっぷりと浸かっていて、静かにとどまっているものなど何もないような世界での束の間の一瞬を捉えるために言葉と想像力を使用している』


そういう世界の捉え方ができれば、また面白い見え方ができそうです。

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