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夢のきっかけをくれた国

「ねえ、一緒にイギリス行かない?」

大学一年生の夏、知り合ったばかりの同級生に突然誘われた。
正直、かなり驚いたし、ためらいもした。だって、まだ二人きりで一緒に遊んだことすらない間柄だったし、わたしは海外旅行なんて行ったこともなかったから。

わたしたちがいた国際地域学科には、将来世界を舞台に活躍したいという夢を持っている人、海外留学や海外の大学院への進学を目指す人など、海外志向の学生は確かにたくさんいた。
その子とは英語の授業で教室が一緒で、確か、たまたま席が近くなって、自分のイギリス文学愛やイギリスへの憧れについて、話したことがあったのだと思う。

でも、純粋に嬉しいと思った。付き合いが長くなくても「一緒に旅行がしたい」と思ってもらえるような何かを、わたしとの会話で感じ取ってもらえたということなのだろう。
それにしても、知り合ったばかりで素性もよく知らないような人間を、旅行に……ましてや、海外旅行に誘うなんてすごい。

そう、彼女はコミュニケーション力が異様に高くて、しかもものすごいフッ軽だったのだ。

でも、そんな彼女の誘いに乗ることに決めたわたしの方も、結構思い切りが良くてフッ軽だったのかもしれない。

あのとき「行く」と言っていなければ、わたしは今ほど、留学への強い気持ちを固めることができなかっただろう。

最終的に、彼女とのイギリス旅行は在学中二度も実現したわけだけれど、それがわたしの人生に大きな影響を与えてくれたのは間違いない。

実を言うと、二度目のイギリス行きは、危うく実現せずに流れてしまうところだった。わたしが金銭的問題を理由に渋ったのだ。

イギリスへは既に一度行っているし、まだ学生の身で奨学金も借りているし、就活のための交通費も取っておかなければ……という具合に。

お金を理由に一度断ってしまった後で、わたしの背中を押してくれたのが、当時のバイト先の同期だった。

「今しか経験できないかもしれないのにもったいないよ。お金なんて、後でどうにでもなるんだからさ」

あまりにもあっさり言うものだから、最初、彼は楽観的すぎるとも思った。
でも、彼の言うことは確かに納得できた。「社会人はお金はあるけど時間がない」とはよく聞く言葉で。学生の今、お金はないかもしれないけれど自由な時間があるのなら、今は貴重な経験を逃さず、後からお金を貯めたっていいんじゃないの? と。

社会人になった今、転職と引っ越しを繰り返し、お金も時間もそれほど無い社会人生活を送っているけれど、イギリスへ行ったのを後悔したことは一度もない。

わたしを誘ってくれた友人と、背中を押してくれたバイトの同期には、本当に感謝している。彼らの一言が無ければ、きっとわたしは何も行動しなかっただろう。

でも、「行く」という選択肢を取ったのはわたし自身なのだ。不安や恐怖心をはねのけて、挑戦することに飛び込んだのはわたしだ。
そのことも、忘れずにちゃんと誇っていきたい。

今のわたしには夢がある。
英語をもっと勉強して、イギリスでの暮らしを経験して、文芸翻訳家になるという夢だ。

ずっと、やりたいことが分からずに「なんとなく」で進路を選んできて、いつも「このままでいいのかな」、と漠然とした焦燥感を抱いていた。

ただ、「小説が好き」「書くことが好き」「イギリスの文化が好き」という気持ちはずっとあって、その「好き」に関われる何かを仕事にしてみたい、という思いを拭いきれずにいた。

イギリスに行ってみて、「ここで暮らしてみたい」と強く思えたから、
本で読んだり、映像で見たりするだけでは分からない「現地の空気」を肌で感じたから、
今わたしは迷いなく夢を追いかけることができている。

ただの趣味や憧れだけの世界だったものが、身近に感じられて、自分もその世界で生きたいと現実的に考えられるようになったのだ。「行ってみる」という軽い気持ちだったものでも、その経験が価値観や人生をガラッと変えてしまうことがあると、わたしは身をもって知った。

だから、もし今何かを迷っていて、踏ん切りが付けられずにいる方がいたら、わたしは迷わずに言いたい。
「やってみたいと思うなら、絶対やってみるべき!」
自分の意思で踏み出したことは、必ず学びをもたらしてくれる。怖がって失敗しない人生よりも、思い切ってたくさん失敗した人生の方が面白いに決まっている。

人から聞いたことだって、テレビや雑誌で書かれていることだって、実際に経験してみたら「わたしにとってはこうだった」って新しい発見があるものだから。わたしはそれを知っているから、これからもちゃんと「やってみる」という選択肢を選び続けたい。


#あの選択をしたから

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