不定愁訴~鳴らない火災報知器と鳴り続ける火災報知器の回復過程
不定愁訴と言われても
心療内科の診察室では、毎度さまざまな症状の訴えが、
飛び交っています。
・さいきん、すごい、物忘れが増えたんです、、
検査でもしたほうがいいんじゃないかって。。
・さいきん、めちゃくちゃ、疲れやすいんです。
こんなこと、なかったんですけど、、
・さいきん、急に尿意がして、あわててトイレに行くんです。
これって、なんかの病気なんですかね。。
・さいきん、前みたいにやる気が全然でなくて。
うつですかね。やらなきゃいけないこととかもできずに、
だらだら時間が過ぎてしまうんです、、
・汗がすごくて、身体が痛くて、眠気がすごくて、、、etc
いわゆる、不定愁訴、といわれるやつです。
こんな場合、たいてい、フツーの病院に行っても、
んー、心配ないですよ、
そんなに気になるなら、念のため、検査しておきましょうか。
はい、検査はなんともないですね。
自律神経ですね。
ストレスが原因ですね。
って、感じになる。
あ、いえ、検査は大事ですよ。
ちょっとしたからだの異変から、
重大な疾患が、早期発見されることもある。
それは、正しい第一選択です。
ストレス性疾患を疑った時に、まず先にするべきことは、
「身体疾患の除外診断」なのです。
逆にこれがないと、心療内科が始められない。
しかし、「異常なし、心配な病気はないです。このまま経過見てよいですよ」という専門家のお墨付きをもらったにも関わらず、、、
でも、、気になる。
大丈夫だろうとはわかっちゃいるけど、
原因不明と言われると、余計に不安。
それに、自分にとっては、つらいものはつらい。
どんどん不安がふくらんできて、こころも苦しくなってくる。。
そして、一度、心療内科で相談してみては、
と、フツーのお医者さんが言ってくださって、
心療内科に紹介されて来られる、
ということが、心身症の定番の経過です。
鳴らない火災報知器
心身症になりやすい性格パターン、というのが昔から見出されていて、
僕が学生の頃の教科書でも、失感情症(アレキシサイミア)とか、タイプAとか、載っていたのを憶えています。
あつい、さむい、痛い、悲しい、怖い、もやもやとかの感覚、など
からだに感じられる生理的な違和感というのは、
内側で自律神経系や内分泌系の反応が起こっているわけで、
生体のそこに、なんらかの無理が出てますよ、
どっか、生体環境に負荷がかかってますから、
取り除いてくださいよ、
と、身体の精密なセンサーからの、
大切なお知らせですよね。
ところが、僕たちは、とてもちっちゃいころから、
大人の事情で、身体の声を無視して頑張ることを、
いやおうもなく、訓練されてきたのです。
そのうち、生体に備わっている警告アラームを、見てみないふりをして、ごまかして、自分をだましだまし、
いつの間にか、黒歴史のように記憶からも封じ込めて、
悲しくもタフな社会人となることに、してしまいました。
でも、火事が起こっても鳴らない火災報知器、
それって、めちゃくちゃ、やばくないですか?
火災報知器の回復過程
しかし逆に、ちょっとした身体感覚に過敏になってしまうこともあります。
あれもこれも病気じゃないかと、過剰に不安になってしまう。
警告アラームが誤作動を起こして、じゃんじゃん鳴り続けているような状態は、心気症といいます。
これも、火災報知器が、うまく働いているとは言えないですね。
この前の診察室でのこと。
通院を始めて何度目かの患者さんが、
「食欲も出てきて、調子はだいぶ良くなってきました」
と、嬉しい報告をしてくださいます。
「でも、、、さいきん、急にお腹が空くんです、
なんでなんでしょうか…。」
と、とても深刻な様子で、訴えられるのです。
聞き流しそうになったけど、、、ん?
どうゆうこと? と思って、念のため聴いてみると、
そもそも、今までは時間がきたら食べるものだと、なんの疑いもなく食べてきたし、「お腹が空く」という体感覚を、あまり感じたことがなかったそうです。
この方にとって、「空腹感」という、
からだからの内側からのメッセージにさえ、
人間社会の都合で無頓着になっていたのではないでしょうか。
ようやく、からだの自然に気がつくところまで、
回復してきたのではないかなぁと、思えたのです。
こころの回復過程では、冒頭のような、身体の愁訴が増えて、より訴えが増えているような感じになることがあります。
あまりに深刻に訴えるので、医者のほうも、何か症状が悪化したと思って、慌てて薬を増やさなきゃとか、してしまうのですが、
よくよく聞いてみると、置き去りにされていたからだの感覚に、耳を傾けてあげられるまでに、こころの余裕が回復してきているのだと、わかってきました。
好転、回復の兆しと理解して、自己調整に落ち着くのを、あせらず見守ってあげるのがよかったのですね。
不定愁訴はつらく早く楽になりたい一心で、焦ってしまいますが、不定愁訴を治すのではなく、火災報知器の働きを回復させていくこと、に本質的な治療の焦点があるんだ、とまた発見があったのでした。
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