絶対住まないと思っていたホーチミンのタワマンと、絶対行かないと思っていた高級エリアの話
ホーチミン、ビンタイン区からサイゴン川を渡り郊外へ向かう、でっかい橋。
街中では混雑のために時速30kmぐらいしか出せないバイクも、ここでは50kmとか60kmでびゅんびゅん飛ばす。バイクタクシーの後ろに乗ってこの橋を渡る時は毎度「怖すぎる!!!危なすぎる!!!」と思ったし、「この橋は極力渡りたくない!!!!!」と思っていた。
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橋のふもとには、東南アジア1高いビル、461mの高さを誇る81階建ての「ランドマーク81」が建っている。そしてそれを囲むガードマンのように、日本ではありえない密度で18本のタワマンが乱立している。
そのタワマン群を見るたびに、「あんな所に住んでも隣のビルしか見えないだろうな」「影ばっかりで絶対洗濯物乾かないだろうな」「いつかドミノみたいに倒れそうだな」と思っていた。そう、まさにドミノみたいな密度。
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しかし、夜にライトアップされたランドマーク81とそれを取り巻く18本のタワマンは、新宿都庁より東京タワーより美しい。その橋から眺める19本のビルは、私にとって、ホーチミンの中でも屈指のお気に入りの光景だった。
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橋の先にあるのは2区というところで、昔から大使館勤めの西洋人の屋敷がたくさんあり、今でもハイソな地区として知られる(日本で言う恵比寿とか中目黒とか松濤とか代々木のようなところ)。
私には縁が無いと思っていたし、用も無かった。実際、家から30分で行けるにも関わらず、在住2年のうちで両手で数えられる回数しか行ったことがなかった。なんなら避けていた。物価が高すぎるし、おしゃれすぎて鼻につくし、いつ行ってもなぜか天気が悪いから。「磁場が悪い」「私と相性が悪い土地」と思っていた。
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なのに、今年1月、その2区にあるホテルみたいなマンションに居候することになった。そして、2区にたくさん友達ができたし、2区でバイトも決まった。
さらに、5月から、その橋のふもとにある18本のタワマンのうちのひとつに、住むことになった。
そして、今までバイクで渡るのも怖かった橋を、ほぼ毎日歩いて渡り、2区の職場へ行くようになった。
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バイクで時速60kmで飛ばしていた時には見えなかったものが、時速4kmで歩くと見えてくる。
橋のふもとには、タワマン付属の、休日にはわざわざ住人以外も遊びに来るぐらい美しく整えられた広大な公園があるのだが、その死角にはバラックが建ち、ゴミがポイ捨てされまくっていること。
橋の歩道には、ホーチミンの街中でおなじみのゴミと同じものが捨てられていること。(大破したヘルメット、撒かれた米、数十枚の宝くじなど。時速60kmでポイ捨てるのだろうか??)
橋の手すりは臍くらいまでの高さしかなく、下を見るだけで足がすくむこと。
足をすくませながら見る川では、牛とブタの餌を積んだ船が毎日往来しており、川は現役バリバリの輸送手段であること。
半分高速道路みたいな雰囲気の、全長1kmの橋を渡る人は私以外あまりいない。横をバイクで過ぎるベトナム人が一定確率で止まってきて「橋の向こうまで乗せてやろうか」と言ってくれる。(もしかしたら流しのバイクタクシーで、お金がほしいのかもしれない。でも世話好きのベトナム人のことだから、ほとんどは本当に親切で言ってくれていると思う)
この前は、橋の歩道を塞ぐように半裸のおっさんが寝ており、まるでカビゴンだった。
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私は今、2区のことも好きになったし、タワマンのことも好きになったし、橋のことも好きになった。
大体のものは「嫌い」なのではなく「なんか気になる」なのだ。だから、「嫌いなの? 気になるの? 逆に好きなの?」と確認するために、試しに一度、思い切り近づいてみるのは良い。
何度も引っ越して気づいたが、どの土地も大体愛せる。
そのうち私は、世界中を何十回も引っ越して、地球全体のことがうっすら好きになるだろうな。
渋澤怜(@RayShibusawa)
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