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【短編小説】バンドマンとは付き合うな


インディーズのロックバンドがたむろす汚い小箱。そこに現れた、フリル満点のお洋服に身を包み、お目目を輝かせてバンドマンを見つめる、三十超えの勘違い女。ハンバーガーに似た顔のそいつを私たちは"バーガークイーン"と名付け、ウォッチし始めた……。
、ステージとフロアと愛と奈落を書き上げた本格「ライヴハウス小説」。

10年前に書いた小説が出土したので置いておきます。
文学フリマ、ライブハウスなど紙媒体でで300部くらい売った記憶があります。
今読むとmixi日記のノリが懐かしいです。

2012年 / 21,244字(64枚)

■■■

「帝都東京の東の果て、最果てはチバシティ、ゴーストタウンから参りました、極東ゥー皇帝ー!!」

 ギターボーカルの阿佐ヶ谷さんがそう叫ぶと同時に、フロアからは野太い歓声が湧き起こり、何十本もの足がフロアを踏み鳴らし、小さなハコで地響きが起きた。

 叫び声のように不安を掻き立てる、でもそこが最高にいい、接触不良か気が触れたみたいなギター、

「次にウンチバって言った奴、死ね!」

 彼がシャウトすると失笑と怒号、スカスカの拍手、

「ウンチバー!」

「お前が死ね!」

「千葉帰れー!」

と、容赦無い野次が飛んで来る、それを掻き消すように始まったのが五拍子の名曲『暴走半島』、一拍余ってノリ切れない不愉快さも、催眠術のように繰り返されるリフに身を任せるといつしか快感になって、ぎゅうづめのフロアで私達は揺れ、こすれあい、どつきあって、モッシュが始まる。揃ってステージの方向を向いていたはずの私達は、擦れて、回転して、もはやどっちがステージかも分からなくなって、こんがらがって、どれが自分の肢かも分からない、今踏まれたのがそうか? 痛みさえもあいまいで、まるでシチューの具になった気分、乱暴に掻き回され、ずぶずぶと、愚かなジャガイモのように、脳が溶けていく。

 なんとか掴んだ最前列のバーを頼りにステージの方、阿佐ヶ谷さんを見やった。阿佐ヶ谷さんは何かにとり憑かれたようにギターを引っ掻いて、喚いていた。全ての音が、私の胸を裂いて傷跡を残していく。なんでこんなに好いんだろう。こんなに好きなバンドは他に無い。少しでもステージに近づこうとする凶暴なジャガイモ達によって、背中が激しく摩擦されている。このまま摩擦され尽くして、自分が無くなってしまいそう、だとしても、私の目玉だけは生き残って、阿佐ヶ谷さんを見つめ続けるだろう。こんなにたくさんの人に揉まれているのに、周りに他に何も無いように思える。うるさいのに、静かで、まるで息を引き取るかのように、気が遠くなっていく。……ああ、もうそろそろやめてくれないと、本当に死んでしまいそうだ。阿佐ヶ谷さん、そろそろ止めて、でないと、戻れなくなってしまう。

 ……というところで阿佐ヶ谷さんがギターを投げ捨て、マイクスタンドを蹴っ飛ばして、ライヴが終わるのだった。

 ライヴが終わっても生き残っている自分が不思議で、いつもホッとし、そして少し不満なのだった。まだ息があがって、いろんな人の熱量が首のまわりにまとわりついている。隣にいる恵梨香の顔をまだ見たくない。そうすると、自分の身体が完全に冷え固まって、自分に戻ってしまう気がする。

 数秒経つと、耳鳴りが残る耳に、いろんな人のお喋り声や、グラスと氷のかち合う音が戻って来る。そして全然素敵じゃない光景が、目の前に再び現れてくる――埃臭くてゴミだらけで、客電の暗さで汚さを誤魔化している、小さなライヴハウス。ロッカーも無くて、バーのカシスウーロンはほとんどウーロンだし、薄暗くて汚い、呑み屋やら怪しいマッサージ屋やらが入った雑居ビルの細い階段を伝って地下へ下る、地震か火事があったら間違い無く逃げ遅れるだろう、百人も入ったらぱんぱんになってしまう、そしてそこを、友達や、友達の友達や、見たことのあるバンドマンやら、うんざりするほど知っている顔ばかりが埋め尽くしている――そんな見慣れたライヴハウスの姿を目の当たりにして、失望するとともにやっぱりホッとするのだった。ああ、私はまだ生きていて、なんてことのないいつものハコに、突っ立っているのだ、と。

 目の前の、脛くらいまでの高さしか無いステージの上で阿佐ヶ谷さんがしゃがんで自分のエフェクターを片付けていた。アマチュアだから当然なのだがやっぱり片付けを自分でやるのは格好悪い。目の前に、つむじが無防備にあらわれる。臍の中みたいに白くて柔らかい皮膚が黒い髪の中に隠れている。指を伸ばしたら触れそう。ちゅんと甘い唾がこみあげてきて慌てて飲み込むと、汗だくの阿佐ヶ谷さんの喉仏を伝って、汗の玉が、シャツの中へ入っていくのが見えた。自分の指が入ったように、どきどきする。唾を飲み込みまくっていると隣の恵梨香が耳打ちしてきた。

「今日もいるね、バーガークイーン」

 その声で我に返った。中央二列目にいた私からは死角だったけれど上手の端を見やると、お決まりの場所に奴がいた。まるでライヴハウスの汚いジャガイモ達に決して触れられぬよう、少しでも距離をとろうとするかのごとく、人間大のスピーカーに密着し、カトリックのお祈りみたいに手を胸の前で組み合わせている。そして、ああ、やっぱり、その視線はぴったりと、阿佐ヶ谷さんに固定されているのだった。もうライヴ終わってるのに。そういう甘ったるい視線送っていいのは、音楽が鳴ってる時だけなんじゃないの。

 バーガークイーンが阿佐ヶ谷さんに夢中になっているうちに、私達も彼女を遠慮なくウォッチさせてもらう。フリルのたっぷりついた丸襟のシャツに、うちのトイレの壁紙にそっくりな小花柄のAラインスカート、これまたフリルがたっぷり仕込まれている。鉛筆のように痩せたティーンの女の子が着ればきっと素敵だろうけど、彼女は残念ながらほうれい線にファンデーションの粉が溜まる、お肌の曲がり角を曲がりきった三十代で。この混んだハコで、ただでさえボリュームのある彼女の占有面積が、フリルのお陰でさらに増えてしまっている。

「ウエディングケーキが歩いてるみたいだな」

 恵梨香が呟いたので危うくカシスウーロンを噴きそうになった。



 バーガークイーンはいつも最前列上手スピーカー前にいる。音響粗悪なインディーズのライヴハウスでは、片側のスピーカーに寄るとあまりにバランスが悪いので、その付近は人がまばらになりがちなのだが、そのエアスポットに入り込み、お祈りスタイルで立ったまま阿佐ヶ谷さんの姿を目で追い続けている。いつも独り。

その存在に気付いたのは三カ月前か。どこをどうめぐりめぐって、こんな場所で、王子様を見つけてしまったのか……。王子様にされることに慣れている人たちの場所があるんじゃないのか。たとえば、ヴィジュアル系とか、ジャニーズとか。なぜ、よりによって、男客ばかりの、インディーズのオルタナロックが鳴る小箱に。

 ヤバい客が現れたと思った私達は早速リサーチを開始したのだった。ライヴ直後に恵梨香とネットカフェに駆け込んで、SNSでバンド名で検索をかければ、そのライヴを観た客の書き込みが見つかる。幾つか引っかかった中でピンと来るものはすぐに見つかった。私達が小学生低学年の時に流行ったサンリオのキャラクター――筆箱や下敷きについていて、私たちを喜ばせていて、でも特別それが好きというわけではなく、ほかに選ぶものがなかったというだけで、小学校高学年にもなればうっちゃって、めいめいの好みで選びだす――のアイコン。なんだか小学校低学年の時に引き戻されたような気がする。でも大人になってもまだそのキャラに愛着を持ち続けている人がいる……そのアイコンを見た時の感じは、彼女をはじめて見た瞬間の、風呂のお湯を飲んでしまった時のようないやーな感じと、完全に一致した。

「こいつで間違い無い」

 アイコンをつついてハンドル名を見ると、「*みどりんぐ*from千葉シティ@サイゼンのオトメ*・'゚:・'」。

「ますますこいつで間違いない」

 ライヴがあった日に書かれた日記を見ると、こんな感じだった。



『今日は今月五回目のライヴ★
今月は阿佐ヶ谷クンにいっぱい会えて嬉しい!
でも初めてやるハコだったから、ちょっと不安だったんだよネ……阿佐ヶ谷クンてナイーヴだから。
緊張してるの見てると、伝わってきちゃうんだ……私もナイーヴなところあるからね。
人の、伝染っちゃうんだよね。

はじめの二曲はまだ不安そうだった。ずうっと表情硬かったもん。観てるこっちが心配になるくらい……。
でも二曲目終わってチューニング入れた時、私の存在に気づいてくれたみたいで一瞬目が合って、
その時ふっと表情がゆるんだの!
それが今日初めて見た阿佐ヶ谷クンの笑顔でした!
それからいつものシャウトで『チバシティ・ブルース』が始まって……
今日は対バンもいつもと違くて極東動員が少なかったから、見慣れた私の顔を見つけてホッとしたんだと思う! チバ、すごく良かった。そこからは私も安心して見れたよ~

でも阿佐ヶ谷クン、さすがにちょっとお疲れモードで心配でした……クマとか出来てるし。なんか元気無かった。そりゃそうだよね、今月週二でライヴだもん! 追いかける方も大変デス(もちろん全通してます♪)
阿佐ヶ谷クン、「別に疲れてないっす」とか言ってたけど、照れ隠しだよね。あ、サークルの後輩も近くにいたから、ファンの女子から差し入れとか、照れ臭かったのかな……///シャイな私の王子様(///∇//)
やや強引ではありますが、リポビタンDを差し入れておきました★
あと、私特製のショウガと蜂蜜入りドリンク~♪ これ、喉にも優しいの!
新曲は叫ぶ系の曲が多いからね、ちょっと出来る彼女っぽく……みたいな?(///∇//) 
良妻賢母っぽい? 内助の功? みたいな? キャッ★

とにかく、これ飲んで残りのライヴもファイト、一発~★ なんちって』



 こ、これは……。脳が全部風化し石灰のようにぼろぼろと崩れ落ちるようだった。

 ネットカフェのペアシートで私達は顔を見合わせた。恵梨香の顔は、私の気持ちがそっくり映り込んだようであった。たっぷり一分は絶句したまま、お互いの表情の中に自分の気持ちと同じものを読み取って、零れ落ちる脳をなんとか拾い集めようと互いに頷き合っていた。

 やがて、ネットカフェは大きな声で話せないので、交互にキーボードを打って会話を始めた。

『何、この、、、お門違い感は』

『ジャニーズアイドルとの結婚を夢見る中学生女子の日記というなら、分からないわけでもない』

『シャイな私の王子様・・・』

『寒気がするな』

『目が合ったって、おめでたいにもほどがある ステージからは客席なんか真っ暗だから見えないって常識じゃんね』

『万が一見えてもむしろ萎えるよな、あんなハンバーガーみたいな顔』

 私は派手な音を立てて、飲みかけのコーヒーを勢いよくスプラッシュしてしまった。まるで泥を跳ねた車のようにまだらな茶色の水玉がディスプレイに散る。生命の危機を感じるほどに激しく咳き込む私。それを見て隣の恵梨香はゼーヒーゼーヒー、喘息患者のように喉を鳴らしながら私を見て笑っている。

『まさか漫画みたいにそうなる人なんて初めてみた!』

 呼吸を整え、ディスプレイを拭きながら、

『ハンバーガーwwwww 不憫。。。せめて生き物にたとえてあげなよ。。。私はブルドッグに似てるなあって思ってたのに』

『この前ハコの近くのバーキンにいたから、あー共食いだーと思ったわけ』

 私は再びスプラッシュしそうになり慌てて手の平で口をべったり押さえた。唇の隙間からブー! と無様な音が鳴って、中途半端に口の中に戻った液体で再び激しくむせた。恵梨香がまた喘息患者のように笑う。

 気を取り直して再度日記を読み直すと、どこから突っ込んでいいのか分からないほどおかしなところに満ちていることを再確認させられた。読めば読むほど私の眉間には皺が寄り、口の中にはコーヒーより苦い苦味が広がっていく。

『この、ナイーヴとか、お疲れモードとか、いう、思いこみの激しさ、疲れるな。。。』

『勝手に思い込みたいんでしょ。けなげに頑張る阿佐ヶ谷クンを心配している、ワタシ! って。あんまり表には出さないけど実はナイーヴな彼を、ワタシだけが分かってあげてる! って』

『うわ。疲れるな。。。それ』

『なんてったって、手作りの差し入れする人ですからね』

『こんな人からもらっても恐ろしいよね・・・なんか入ってそうだもん』

『媚薬とかね』

『入れかねないね』

『良妻賢母だからな。夜の良妻賢母』

『阿佐ヶ谷さん、、、気の毒だ、、、こんな人につかまってしまって、、、』

『そもそもなんでこの人極東なんか聴き始めたんだろ』

 怖いもの見たさもあいまって、私達はみどりんぐの過去のほぼ全ての日記を読み尽くし、結果、以下のことが分かった。

 本名は多分みどり。元ジャニオタ(やっぱり)。派遣社員で事務員(本人はOLと言っているが格好良くてむかつくので意地でもOLとは言ってやらない)。上司からセクハラまがいのことばかり言われるので辞めたい辞めたいとしきりに訴えている(でも彼女の思い込みの激しさからしてダウトだろう)。部屋の中はぬいぐるみでいっぱい。極東皇帝はyoutubeで見つけて「運命!」と思ったとのこと。そうですか。

 驚くことに、彼女は、極東皇帝を見つけてから、一回も欠かさず、全てのライヴに足を運んでいる。私達みたいに学生ならともかく、社会人でその執念はすさまじいものがある。(「私の見ていないところで阿佐ヶ谷クンに何かあったらと思うと、ライヴの日に家にいても落ち着いてられません!」とのこと。)私達は月一回ほど観ているがそれでも結構観ている方だと思っていたのに。もはや張り合う気も出ないがこの執念にはひたすら違和感しか感じなかった。

 ともかく、私達の中での彼女のコードネームは「バーガークイーン」で決まった。



 別にバーガークイーンは明らかにおかしいとはいえ悪いことはしていないので、私たちも彼女の彼女を苛めようとは思わない。でもそれだからと言って、からかっちゃいけないわけじゃない。でも私たちも特にからかう気があるわけではない。ただ、極東が終わって客が散るフロアで極東の話をしていたというだけだ。それがたまたまバーガークイーンの近くであったというだけだ。

「ねー、このハコの近くでしょー? アブラナントカ、とかいうラーメン屋があるの」

「『脂過多豚』? 阿佐ヶ谷さんのブログに載ってた店でしょ」

「それそれ、結構前の話だよね、前身バンドのさ……」

「『鶏ダシ温泉』?」

「そーそー、で、このハコ出た時にその店寄ったら、」

「コショウのフタが外れて、ラーメンに全部ぶちまけちゃったんでしょー」

「あの写真ウケたよねー、まっ黒のラーメン!」

「まっ黒っていうかむしろ、灰色だった。硝煙立ってた。煤けてた」

「それで、阿佐ヶ谷さんが言ったのが、」

「『これ、クーリングオフできますか』」

 恵梨香と私の声が揃う。

「できないよー、ラーメンは出来ないよーキャハハ」

「でもあのブログも隠れサイトみたいになって勿体無いよね、超面白いのに」

「前身バンドのホームページからしかリンク貼ってなくて、それが消えちゃったからな」

「検索にも引っかからないからねー。まあ、うちら古参ファンだけが知ってるってことで」

「ハハハ」

 私達は白目の端を器用に使って、バーガークイーンの様子を観察する。まるでマンガのボスキャラのように「ゴゴゴゴ……」と効果音でもつけたい動作で、ゆっくりとこちらへ顔を向け始めている。しかし正面から見ることは無く、私達と同様、白目の端だけに神経を集めて、血管がブチ切れそうになりながら、ものすごい熱量でこちらを見ている。ああ、可愛そう、URLを教えて欲しそう、でも教えない。

 ひとしきり対バンも観た後、ライヴハウスを出ようとしたら、階段のところに阿佐ヶ谷さんがいた。お疲れ様でーすと言って立ち去ろうとしたら、気付いた。その隣をべったりとマークする巨体があるではないか。

「七味と一味足したら八味になるかなって阿佐ヶ谷さんtwitterで呟いてたから、作ってみました! ラーメンにかけてくださいね!」

 バーガークイーンの良妻賢母アピールはおかしな方向へ進んでいる。

 恵梨香が二人の横を通る際

「もてもてじゃないですかー!」

と言って阿佐ヶ谷さんへ向けてにかっと笑った。振り向いた阿佐ヶ谷さんは、ああ、ほとんど笑わないその人が、笑っていた。ただし、苦笑いで。

 ハコを出た後恵梨香が、

「新参だから愛想良くしてもらえるんだよ。なんだかんだ言って全通ならいいお客様だし」

と、吐き捨てるように言った。

「というより、阿佐ヶ谷さん、単に、逃げるに逃げられないだけだと思うよ、あのバーガークイーンから……」

 私達は何十回とライヴに行っているから勿論阿佐ヶ谷さんに認知されているけれど、実は毎回挨拶以外に殆ど喋ったことが無い。とっつきにくい、というか、ストイックな人なので、ファンとふざけあったりしない。

「うちらよりバーガークイーンの方が熱烈なファンなのかもね」

 私がぼそっと言うと、

「いや、あっちは発情してるだけだから。サカッてるだけだよ、あの巨デブババア」

 恵梨香が空中に蹴りを入れた。



 その日は恵梨香を家に連れて行って、DVDを観ることになっていた。極東皇帝は大学のバンドサークルのメンバーで組まれたバンドで、卒業後もバイトをしながらバンド活動を続けている。私の彼氏はそのバンドサークルで阿佐ヶ谷さんの後輩にあたる。彼氏が前身バンドのサークル引退ライヴのDVDを持っていたので、貸してもらったのだ。

 早く早くとせかす恵梨香は人の家とは思えない様子で靴下を脱ぎ捨ててソファにあぐらをかくと勝手にDVDを見つけ、テレビをつけて再生し始めた。

「あー! 阿佐ヶ谷氏若いー! かわいー! てか格好良いー! でも今の方がいーけどー! うわ、格好良い! てかマイクスタンド投げてるよ! 若気の至りー!」

 台所に立ってお茶を淹れようとする私の背後で恵梨香が早くも喚き始める。

「ちょっと恵梨香、もう少しボリューム下げてよ、うち壁薄いんだから」

「うわ、阿佐ヶ谷さん脱いだ!」

「え!?」

 それを聞き、私も手を止めてリビングのテレビに駆け寄る。

「細いー! ちょ、乳輪小さっ!」

「ちょっと、恵梨香、うるさ……」

「うわー、つうかいい身体してんなー! ガリマッチョーやっばい」

「極東では脱いだこと無いもんね、こんないい身体してるならもっと脱げばいいのに」

「いやー、でもこれ生で見たら妊娠しちゃうっしょー!」

 ギターのネックを自分の眉間に叩きつけた阿佐ヶ谷さんはうっすらと顔に血筋を流しながら、客席にダイブした。カメラマンの直近だったらしく、阿佐ヶ谷さんの血に濡れた上半身が大写しになる。阿佐ヶ谷さんが

「うぐるわあ!」

 とカメラに吠える。テレビから火炎放射でも出たように私達は叫び声をあげる。阿佐ヶ谷さんが眉間を手の甲で乱暴にこすり、ついた血を舐めた。

「あー! 着床したー! 生理来た、今生理来たー!!」

 恵梨香がソファの背もたれに勢い良く後頭部を叩きつけて、仰向けになったゴキブリのごとく手足をばたばたさせて暴れた。カメラマンが転んだのか、画面が横倒しになり、曲の途中にもかかわらずぷっつりと黒い画面になり、唐突に終わった。

「……もう一回、もう一回」

 恵梨香はゾンビのようにむくりと起き上がると、恨みごとを呟く幽霊のようにひとりでアンコールをしながら、さっそくリモコンを握って再生ボタンを押した。興奮したせいでかすかに弾んでいる自分の息の音を聞きながら、ああ、これは、健全だと思った。

 ……口の悪い恵梨香とこうやって散々格好良いだの妊娠しただの言い散らしてるから、私は知らず知らずに毒を体外に出すことが出来ているのだろう。もし独りで、極東皇帝を、阿佐ヶ谷さんを、観ていたら、私もバーガークイーンのように、自分の身体に毒を溜めこんでいき、うまく発散することも出来ずに、特製八味をプレゼントするというおかしな方向に発露を見出していたかもしれない。インディーズのバンドマンは気軽に話したり出来るので距離を見誤ってしまうけど、私達は所詮ファンでしかなくて、距離は厳然としてあるということ。恵梨香とキャーキャー騒いでいるとかえって、ああ、私達がキャーキャー言っている対象はテレビの中の人と同じ、別の世界の人なんだと、気付かせてもらえる。

 恵梨香には絶対言わないけれど、バーガークイーンをちょっとかわいそうに思ったのだ。



 「着床した」とか喚いていたけど、恵梨香は阿佐ヶ谷さんでオナニーしたりするんだろうか。私はしない。というか、出来ない。なんというか、「可能性」が無いと、出来ないのだ。阿佐ヶ谷さんに襲われる妄想、例えば、ライヴハウスで持ち帰られる、とか、偶然街で会って飲みに行って意気投合、とか、あるいはちゃんと付き合って、でもいいけど、そんなこと絶対にありえない、と思うので、妄想がストップしてしまう。阿佐ヶ谷さんは絶対に私に興味持っていないから。恵梨香の方は人懐っこいところがあるからまだ好かれてる気がするけど、でも、多分ファン全体に興味が薄い。フロアに降りてきてもいつも、バンドマン同士とか、ハコのスタッフとか、サークルの後輩とかと、音楽の話をしている。

 そう、サークルの後輩。

 私は目を開ける。私の上の掛け布団がこんもりとしている。利一が私と掛け布団の間に挟まってもぞもぞしながら、私のパンツを脱がそうと苦労している。

「お客さーん、本日はもう閉店しましたよー」

 私が、そう言いながら利一の頭をぽんぽん叩く。

「そこを何とか」

 私は一回するともう眠くてだるくて、利一より先に寝てしまう。そうすると、はじめは「ゆっくり寝かせてあげよう」という男気を見せる利一だが、じき寂しがって、まどろむ私にちょっかいを出し始める。

「むー」

 肯定も否定もせず、まんじりも動かずにいると、人形を脱がすように苦労して、利一が私のパンツを脱がした。

「入れてい?」

「まーいーけど」

 利一はセックスが好きなようだ。私も嫌いではない。結局、まどろみ状態の私の胸を触っていた利一の手を阿佐ヶ谷さんの手だと思い込んでみる作戦は、失敗に終わった。

「ねー、なんでさあ、好きな人とセックスしなきゃいけないっていう仕組みになってるんだろうねー」

 私は利一の頭をくしゃくしゃと掻き分けながら、つむじに話しかける。

 利一の出し入れするリズムはゆっくりしていて、落ち着く。よく、さびれた遊園地やデパートの屋上にある、コインを入れると動くパンダの乗り物みたいな気分になる。利一は私に乗る子供だ。まったりとして、まるで利一をあやしているような心持になる。

「なんで?」

「だってさ、なんで好きな人に一番汚い性欲なんてものぶつけなきゃいけないのさー。悲劇だよ悲劇」

「好きな人だから、一番汚いところも見せたいし見せられたいと思うんじゃないの?」

「……なんか私が男で君が女みたいな会話だね」

 さらさらの長めの前髪が前後運動で揺れる隙間から、くしゃっとした笑顔が見えた。子供みたい、というか女の子みたい。利一は体重も軽いし、背中に腕を回して抱いても薄っぺらくて頼りない。利一とセックス出来るならひょっとして恵梨香とも出来るんじゃないかと思った。

「利一と初めて会った日も、利一が私の上に乗っかってたなー」

 腹の上で利一をあやしながら、私は独り言のように宙へ向けて呟く。

 利一とはライヴハウスで知り合ったのだった。その日は極東皇帝と同じサークル出身の対バンばかりだったからか、やたらとサークル客が多く、私達外部の客にとっては初め居づらい感じだった。その分面白いものが観られたのだった。

 『チバシティ・ブルース』で、いつもよりずっと激しいモッシュが起こり、曲が終わった後も興奮したサークル員の歓声と野次が止まらなかった。阿佐ヶ谷さんがマイクに顔を寄せて何か喋ろうとし、それに合わせて客がさっとしずまった時、

「脱げー!」

と、全くタイミングを逸した野次が入った。それも、男の太い声ならともかく、もやしみたいなひょろい声で。案の定その人は隣の友人に「タイミングおかしいだろ」と言って頭をはたかれていた。それが利一だった。

 阿佐ヶ谷さんはステージから利一をじっと睨んでいたが、きっと指さすと

「お前が脱げよ!」

 と言い捨て、『暴走半島』を演奏し始めた。洗濯機みたいなすさまじいモッシュの中で利一はサークルの仲間達にTシャツを脱がされてしまったようで、上半身裸で、おみこしみたいに皆にかつがれて客の上をひよひよと泳いでいた。何だこりゃ。私の上も利一が通過したが、シャンプーの香りがした。やたら軽いし、脱いでいなかったら女の子だと思っていたかもしれない。

 曲の終盤には利一は皆にかつがれたまま、ステージの縁までたどりついてしまった。そのままステージへ上がり、阿佐ヶ谷さんの隣に進み出ると、まるで着替えさせてもらうのを待つ子供のようにバンザイをしたまま直立していた。脇毛が全然無かった。

 曲が終わり、阿佐ヶ谷さんに不審物のように冷たい一瞥をくれられた利一は満面の笑みを浮かべた。

「何? お前何しにきたの?」

 無言でにやにや。

「何、ひとりで脱いでるの?」

 無言でにやにや。そこで阿佐ヶ谷さんはおもむろにカーディガンを脱いで、利一に投げつけた。

「これ着てさっさとひっこめ」

と言って。

 その時の、血が沸騰するような感覚が忘れられない。利一の裸の上半身にあたったカーディガン、その感触を、じりじりと阿佐ヶ谷さんを見つめる私の目玉が感じ取ったみたいだった。羨ましさと恥ずかしさで身体がよじれそうだった。塩をかけられたなめくじみたいに、ぢりぢりとしおれて縮んで、無くなってしまいたい。

 きっと自分の顔は赤かっただろう。恵梨香の顔も赤かった。

 帰り際、フロアの隅で阿佐ヶ谷さんに怒られている利一を見つけた。

「ダイブ禁止っつってるだろゴミが! 怒られるんのこっちなんだよ。あと人がMCしそうな時は黙れよ! 少しはわきまえろ、利一の分際で」

 激怒する阿佐ヶ谷さんにひるまず、歯でも抜けているみたいにヒーヒー笑っている利一は

「でも、楽しかったです!」

 遠足の感想を言う小学生みたいに言った。阿佐ヶ谷さんが勢いよく利一の頭を引っ叩いた。ああ、まただ。恵梨香の顔を見る。よだれでも垂れそうな顔をしていた。そして口パクで「う」「ら」「や」「ま」と言われた。

 そう、それだ。羨ましい。「利一の分際で」なんて言ってもらえない。私達が何をしようが、阿佐ヶ谷さんを怒らせることは出来ない。それどころか喜ばせることも、悲しませることも。感情を動かすことは多分出来ないだろう。だってただのファンだから。後輩ってだけで、なんで利一は可愛がってもらえるんだ。

 私が、何とも言えない感情のブレンドを味わっている間、恵梨香は

「さっきダイブしてた人ですよねー?」

 とか言って果敢に利一に話しかけていって意気投合、数分後には鶏ダシ温泉の廃盤音源(それは私達が必死に手に入れようと画策していたものだ)を貸してもらう約束をとりつけていた。

 その後も何度も極東皇帝のライヴで利一と顔を合わせた。それが縁で、何がどうめぐりめぐったのか、彼は今私の腹の上にいる。

 はじめ利一を「可愛い可愛い」と言っていた恵梨香も、利一が留年確定で将来の見込みの無い大学生だと見極めると即座に興味を失い、専門学校の友人に紹介してもらった会社員と付き合い始めた。なんで私だけこんなことに。



 私の腹の上で遊んでいる利一のことを見つめながら、利一も私も、お互いが好きというよりセックスが好きなんだろうなあと思った。

「あー。いいなあ男は買春できて。私だって金で買えるなら金で買って、抜いておいて、好きな人とはプラトニックで挑みたいよ」

「何それー。じゃあ僕のことは好きじゃないんだー」

「あんただって私が好きって言うかセックスが好きなだけじゃん」

「そんなことないよ。由紀ちゃんのことちゃんと好きだよ」

「ありがとう。私も利一のセックスが好きなところと極東皇帝が好きなところ好きだよ」

「何それー」

「あんただって一緒でしょ」

「んー」

 利一は人差し指を唇にあてて考える。どう見ても女の子の仕草だ。

「そうかも!」

「でしょー。気が合うねー」

 私は利一の頭をなでる。

「でも僕は極東っていうか阿佐ヶ谷さんが好きなんだよもはや。弾き語りもバンドも全部好き。ブログもツイッターも好き。存在が好き」

 ちくりと私の胸を何かが刺した。そしてその後すぐ、そんなのうのうと好き好き言える利一に嫉妬したのだな自分はという分析が追いかけた。

 利一のバンドは休止中だ。メンバーが就活で抜けたらしい。利一はまとな大学に行っているのに、就活もせず、かといって「音楽で食っていく!」と腹を決めて血まなこになってバンドメンバーを探すわけでもなく、何をしたいんだろう。と言っても私も専門を出た後のことなんて何も考えていないけれど。とにかく恵梨香の見極めは正しい。むかついてきたので利一の頭を鷲掴みにして髪をぐしゃぐしゃにしていると、

「由紀ちゃんは阿佐ヶ谷さんとセックスしたいの?」

「え? したくないよ? マジで好きだもん」

「えー。マジでそういうこというのやめてよー。萎えるー」

「でも利一だって、阿佐ヶ谷さんとセックスできるならしたいでしょ」

「あー。確かにこの人になら抱かれてもいいと思ったことある」

「でしょー。だから一緒なんだってば」

「そっか!」

 利一は女の子みたいだけれど、することはちゃんとする。二回目なのにしっかりと射精して、コンドームをゴミ箱に捨て、布団でぬくまっている私の隣に潜り込んできた。利一の上半身は白くてまったいらで、すべすべで、毛も無くて、ホワイトの板チョコレートみたいだ。フラットな感触が楽しくて何度もなでていると

「あー、阿佐ヶ谷さんみたいにむきむきになりたいなー」

「こういう、毛が無くてぺったんこで少女漫画に出てくるような身体が好きな人もいっぱいいると思うんだけど」

「やだ、僕は阿佐ヶ谷さんになりたいんだー!」

「私は利一になりたいよ」

「なんで?!」

「阿佐ヶ谷さんに可愛がってもらえるから」

「……なるほど」

 阿佐ヶ谷さんがいちファンの私に興味を持った時点で、私は阿佐ヶ谷さんに興味を失ってしまうだろう。そんな余所見せず阿佐ヶ谷さんには音楽の鬼であってほしい。本質的片思い。だとしたらもう、自分が彼と同じ男になって、後輩として可愛がられたい。利一みたいに。

 私は利一になれないから利一と付き合っているのかもしれない。

 

『ねえ、これどう思うよ』

 そんなタイトルのメールが恵梨香から送られてきた。メール本文にはURLだけが無愛想に貼ってあり妙に空いた余白部分がぎらぎらと輝いて恵梨香の殺気を漂わせていた。

 嫌な予感がしながらそこを開くと、例のバーガークイーンの日記が現れた。


『最近の極東は本当にお客さんのマナーが悪い……。
大好きなバンドなのに、本当は友達を呼びたいのに、呼べない。
友達にケガをさせたくないし、ケガさせてしまっても責任がとれない。
ステージは一部の人のものじゃないのに、どうしてこんなことになっちゃうの?』


 高鳴る胸を押さえつつ画面をスクロールさせると、そこには

「昨日のライヴで『リイチ』と呼ばれていた人。」

という一文があり、胸が止まった。


『私に何度もぶつかってきて、みぞおちにひじがあたって、気持ち悪くて今日は職場を休みました。
もちろんその人からは謝罪無し。
今日は泣きながら、何度もシャワーを浴びています。昨日着たお洋服も、三回洗いました。
野蛮な人達の汗がついていて、本当に気持ち悪い。
大好きなミュージシャンに会いに行くんだから、お気に入りの服を着てオシャレしたい、っていう気持ち、
当然でしょ? なんでそんなことも許してくれないの?
内輪とかそういうの関係無い。お金を払っている私達が一番のお客さん。
フロアで我がもの顔で陣取ってたり、
阿佐ヶ谷クンとずーっと喋って失礼なことばっかり言ってふざけてるのも、我慢する。むかつくけど。
でも、音楽が鳴っている時間は、私達の時間。ステージに乗ってる阿佐ヶ谷クンを、
その間だけは独り占めさせてください。

極東を、おもちゃにしないで』


「……」

 深い、深い深いため息をついた。それこそ臓器が口からずるっと出てきてしまうんじゃないかというほどに。むしろ、臓器も出せるなら出し切って、きれいに洗って干してしまいたかった。バーガークイーンによって、私の肺に黒い水が貯まっていって、私の身体を汚していくようだった。でもそれはバーガークイーンのせいだけれど、紛れも無く私自身から出て来た水で、だから、汚らわしかった。

 私と、バーガークイーンは似ている。

 念のため利一に電話してみた。

「あー、由紀ちゃんからヤバい人だって聞いてたから、その人には近づかないようにしてたけど。俺下手にいたし。ぶつかってはないと思うけど……、まあいつも通りぐちゃぐちゃになってたから、もしかしたらぶつかったかもしれない、けど、会社休むほどじゃないと思うよ、どう考えても……まあ、向こうが気にしてるようだったら謝るけど」

「いや、謝ると余計質が悪くなるからやめといて」

 簡潔に伝えて電話を切った。そうだ、どう考えても向こうの勘違いだ。利一がそんなことするわけがない。でもネット上には彼の名前は上がってしまっているし、なぜかSNSのIDまでもが、晒し上げのように、載せられていたのだ。

 今度は恵梨香に電話した。

「見た?」

 私が口を開く前に、恵梨香は飛びかかるような勢いでそう聞いてきた。

「見た。」

 私がそう答えると

「何なのあのキチガイはー!! 完全に被害妄想じゃん。モッシュが嫌なら後ろの方で観てればいいだろ、それを前で観たいのは王子様をよく見たいからでしょー?! 要は私の王子様鑑賞邪魔しないでってだけだろうが! しかも利一の名前書くなんて卑怯だよ! あの日記ネットで誰でも見えるんだし、喧嘩なら直接言えよ! 気持ち悪い」

「利一は気にしてなかったし、多分それで利一のIDに抗議殺到なんてことにはならないと思う。あの人に一緒に抗議してくれる友達なんていないでしょ」

「プハッ、たまには言うじゃん由紀も。彼氏晒されてキレたか」

「ハハ、残念ながらそこまでラブラブじゃないんだけどね」

「逆にさー、利一のこと好きなんじゃないの? バークイ」

「えー! 何それ面白いね! 遠回しなアピールってこと? 好きな子に意地悪しちゃう感じか!」

「だって利一ジャニ顔だしさ。どうする由紀、バークイがライバル」

「阿佐ヶ谷さんに纏わりつかなくなってくれるなら、喜んで利一差し出しますが」

「アッハハ!」

 ポップコーンが弾けるような恵梨香の笑い声で電話は終わり、私は、先ほど感じた、肺の中に貯まっている黒い水の存在が、消えて無くなっていることに気付いた。

 バーガークイーンは、今まで散々胸糞悪い発言をしてきたが、誰にも(阿佐ヶ谷さん以外)迷惑をかけていないし、誰を傷つけもしなかった。でも今回は違った。利一は小物だからいいけれど、要は、ライヴハウスの愛すべき悪習――一応どのハコにも「モッシュ・ダイヴお断り」と小さく書いてあったりするけれど、実際のところケガしなければ盛り上がってもいいじゃん、という暗黙の了解、そしてそもそも顔の見える小さな場所だからそんなにひどいマナー違反は起こらない――の中のぬるい連帯を、一人でぶち壊そうと暴れているのだ。まあ、と言っても、バーガークイーン一人が喚いたところで誰も相手にしないけど。ああ、滑稽だ。さっきはバーガークイーンは私だ、とまで思ったのに。誰にも敵に回してもらえない、一人芝居の、一人だけ清潔ぶって、上手の端っこでバイキンを見る目で私達を見て、自分だけが阿佐ヶ谷さんの特別な存在だと思っている、バーガークイーン。あの人は耳栓をしている。スピーカー直近の大音量に耐えるためだ。つまり、音は二の次で阿佐ヶ谷さんの顔を見に来ている。ただの顔ファンだ。同じなわけがない。ハハ、取るに足らない。あの人のことを忘れて生きていきたい。あの人のことを記憶する脳の容量が勿体無い。なんで私達は、バーガークイーンが耳栓を愛用していることまで知っている?

 

 阿佐ヶ谷さんが私と寝るとしたら、それは夢の中でしか無い。いや、夢の中でも無い。

 私は、ライヴハウスにいた。火事が起こって閉じ込められて、炎の熱で人間がシチューのように溶けてしまっている。私は、もとはと言えば人間だったどろどろした液体に腰まで浸かりながら、必死で人間の形をしているものを探していた。どろどろの中から突き出している棒があって、引っこ抜くとそれはギターだった。そしてその先に、芋づるのように阿佐ヶ谷さんがついてきた。そこで場面は急に真っ暗な個室に変わった。阿佐ヶ谷さんと私は裸でその場にいた。阿佐ヶ谷さんの手の平は大きくて私の身体をゆっくりと撫でた。うっとりと目を細めて、再び目を開けるとしかし、それは利一に変わっていた。阿佐ヶ谷さんは少し離れたところにいた。巨大なバーガークイーンに羽交い締めにされていた。

「阿佐ヶ谷クンを独り占めするのは私なんだから!」

 バーガークイーンも裸で、それはもう立派な三段腹、というか、五段腹くらいになっておりビッグマックも顔負けだ、と私が思っていると、彼女は阿佐ヶ谷さんの脚をひっつかんで腹部に突き刺した。阿佐ヶ谷さんはシチュー状に溶けてずぶずぶとのめり込んでいった。

「何言ってんの! 私より極東を好きな人間なんかいないんだから!」

 私が叫ぶと

「え? でもお前俺のことそんなに好きじゃないのかと思ってた」

 腰までバーガークイーンの腹に呑まれた阿佐ヶ谷さんが言った。

「阿佐ヶ谷さんより好きな人なんていません!」

 私は絶叫したのに、その時には阿佐ヶ谷さんはもう耳まで呑まれてしまい、すぐに黒いつむじまでがバーガークイーンの腹の中に消えた。

「じゃあ、その男はなんなわけ?」

 もとの大きさの三倍くらいに膨れ上がったバーガークイーンが、利一を指さした。

「僕も阿佐ヶ谷さんについてくー!」

 と言って利一もバーガークイーンの腹部に飛び込んだ。もう気球のように膨れ上がっているバーガークイーンの笑い声が地響きを起こして、私は転んで立ちあがれないまま、ひとりで取り残される。地面がシチュー状に溶けて、私はずぶずぶと埋まり、呼吸が出来なくなっていく……。

 目が覚めた時私は助けを求めるように宙に腕を伸ばしていた。やっと得られた空気をばくばくと吸い込んだ。なんだか喉が摩擦で熱いが、もしかして、本当に叫んでいたのかもしれない。

 阿佐ヶ谷さんより好きな人なんていません!!

 あー。自分の喉から出た言葉が翻ってそのまま、自分の喉に突き刺さって私を殺した。

 結局、一緒なのだ、あの女と私は。隠しているだけ、私の方が質が悪い。諦めていると思っていた。自分は、阿佐ヶ谷さんを。阿佐ヶ谷さんと話したくて終演後のフロアでそわそわと阿佐ヶ谷さんの周りをうろつく、バーガークイーンみたいな恥ずかしい行為はしたくなかった。何も期待しないでいる自分の方が好きだった。音楽だけ得られれば、十分じゃないか。でも、夢が告げるには、私は全然不満なんじゃないか?

 阿佐ヶ谷さんとバーガークイーンが付き合ってたらどうしよう。

 もしや、今寝てたりとか。夢のお告げか。

 私は極東が関西のライヴハウスに遠征しているのを思い出した。平日だからバーガークイーンは勿論関東で仕事。ベッドで横になったまま、携帯でSNSのバーガークイーンのページを開くと、

『今日は極東のライヴだけど……さすがに平日に関西まではお伴できないデス(TmT)ウゥゥ・・・ 阿佐ヶ谷クンに愛を飛ばしてます! 関西まで届け~! 無事帰って来てね(<_<)』

 ああ、そうだ。そうにきまってる。馬鹿らしくなって携帯を放り投げた。女の勘とか言ってもその程度なのだ。そんな女の出来損ないなんだ、私は。



 利一がサークルのライヴイベントで弾き語りをすると言ってきた。

「弾き語り? そんなの練習してるの見たことないけど、いきなりできるものなの?」

と聞くと

「大丈夫、だってギター弾いてくれるの、阿佐ヶ谷さんだもん!」

と驚愕の返事が返って来た。

「はあ……?」

 話を聞き出すと、どうやら、「手と口が一緒に動かなーい!」という初歩的な泣きごとを言っていた利一を見かねて、阿佐ヶ谷さんが弾くと名乗り出てくれたらしい。

「そんな話があるか……」

「ほら、僕ってほっとけないところあるじゃん」

「自分で言うなよ、それ……」

 とかく利一はサークル内で得なポジションにいる。見た限り女子にもからかわれるくらい最下層のポジションにいるのに、何かと権威者の覚えめでたいところがある。というか、阿佐ヶ谷さんにビビらないのが利一だけなのかも。

「ねえそれ、私も観れるライヴなの?」

「別にいいみたいだよ、サークルの人しか出ないけど、普通のライヴだからね」

 私は日時を聞き出し即座に恵梨香にメールした。



 ライヴハウスは昼は閉まっているものだけれど、たまに内輪のイベントやパーティ用にフロアを貸し出すことがある。借りる方は安く借りられ、貸す方は閉めるより良いからお互い得なのだろう。今回もそんなところだった。

 恵梨香と一緒に受付を入ると、そこに女の子の手書き文字で「阿佐ヶ谷さん誕生日おめでとう!」と書かれたボードがあり、驚いた。受付のサークル員の子に聞くと、今日はなんと「阿佐ヶ谷さん誕生日パーティライヴ」なのだという。どうやらサークル内では阿佐ヶ谷さんは伝説のOBとしてあがめられているらしく、こんな企画が持ち上がったらしい。極東皇帝のほかに、阿佐ヶ谷さんのコピーバンド、そして阿佐ヶ谷さん自身の弾き語りもあるという。

「なんで利一は、今日の主役に、自分の弾き語りの手伝いをさせるんだろう……」

 力が抜けてくる。

「ねえでも利一の弾き語りなんて、どんなのなんだろうね。由紀、知らないの?」

「何も知らない……」

 利一はバンドをやっていた時はギターで、作曲も担当していたらしい。でも私達には利一が楽器を持っているところすら想像できない。

 ライヴハウスに入ると、サークル員の知れ切った関係の中での視線の飛び交い、挨拶の応酬で溢れていて、私達は明らかにその流れを止めていた。無言の「知らない人だ」という空気が波紋のように広がる。今日は普通の客も入っていいと聞いたのに、私達以外はほとんどいないようだ。

「あー、やっちゃったなー」

 恵梨香に言うでもなくそう呟くと、

「由紀ちゃん!」

 利一が飛んで来て、私達はやっと深く呼吸が出来る。

「由紀ちゃーん、阿佐ヶ谷さん怖いよー。もう三回も煙草買わされてるよー」

 利一が私の腕にすがる。

「良かったじゃん、もうついでに歌も歌ってもらいなよ」

「うわー、彼女冷たーい」

 恵梨香がわざとらしい裏声で囃し立てる。

 すると恵梨香の『彼女』という言葉に水打たれたように、私の周りの目玉がキョロキョロと動き出し、それとなく私をかすめては過ぎ去って、またかすめていった。そうか、私、今日は、『彼氏のライヴを観に来た彼女』なのか。これは、……恥ずかしいぞ。完全に阿佐ヶ谷さんを観に来る気でしかなかった。周りの人に大きな声で触れまわりたい、「利一に興味無いんですー、阿佐ヶ谷さん観に来たんですー!」と。そう思ってフロアを見回すと、

「ねえ、由紀」

 恵梨香も同時に気付いて私の服の裾を引っ張った。ああ、最前列の上手のスピーカー前には、まさかまさか、おなじみの巨体がましましていた。まるで宗教的な建造物のような安定感でもって、いつものポジションを守備している。まさか、ここにまで来るなんて。あんなにサークルノリを毛嫌いしていたのに……。どういうことだろうか。利一のことも嫌いなはずなのに。本当に、阿佐ヶ谷さんの出るライヴはすべて観尽くすという所存なのか。

「こんなにアウェーだと、むしろ外客でバークイがいてくれて心強く思う」

 恵梨香の声に私はしみじみ頷いた。

 バーガークイーンに対しては、私達よりもっと遠慮無い視線が飛び交っている。バーガークイーンはそんなことは気付いてもいないようで、確かに心強いと言えばこんなに心の強い人もいないだろう。彼女の周りだけ、まるで立ち入り禁止区域であるように、誰も入ってこない。

 利一はトップバッターだった。利一が阿佐ヶ谷さんの手を引っ張って、スキップしながら入場した瞬間、思わずバーガークイーンを見てしまった。彼女はピリっとこめかみをひきつらせたように見えた。彼女は利一が出ること、しかも阿佐ヶ谷さんと一緒に出ることは、知らないはずだ。

「キャー! リイチー!」

「抱いてー!」

とピンク色の嬌声が弾け飛んだ。勿論、男の。そして女の子たちの、くすくすとした笑い声。

「こんにちは、利一です! 阿佐ヶ谷さん、お誕生日、おめでとうございます! わー!」

 失笑、パラパラをした拍手、そして、「りいちたん、萌えー!」というからかいの言葉が飛んでフロアは緊張感ゼロだった。

「今日は、歌って弾けない僕のために、阿佐ヶ谷さんがスペシャルギターを弾いてくれます。とりあえず、聴いてくださいね。僕が高校生の時初めて作った曲、『枯れたパンジー』」

 阿佐ヶ谷さんは、立てかけてあったアコースティックギターをまるで刀を抜く侍のように引き抜くと、恐ろしくキレのいいストロークでフロアの緩みをぶった切った。極東皇帝では絶対に弾かないような幸福なメジャーコードが、正確に刻まれていく。阿佐ヶ谷さんは終始仏頂面だ。

 内股でマイクスタンドにしなだれかかる利一が歌い始めた。

「シャボン玉のように、吹いたら消えた、僕のメロウ~。夢見がちな夢を見てる、脚折れた、僕のバンビ~」

 ん? と思って、恵梨香を見やると、恵梨香はまるで重力のかかり方を間違えた人のように五十度くらい首をかしげていた。目が合うと私に耳打ちしてきた。

「これは、ラヴソングなのか? ラヴソングじゃないのか? シュールレアリズムか?」

 私に聞かれても困る。

「眠っているようで、つつけば起きる、僕のポエジ~。六千年先で、また巡り合う、君とフュージョン~」

 どちらかというとシュールレアリズムかもしれない。さりげなくフロアを見渡すと、先ほどまで野次を飛ばしていたサークル員たちも一転して黙り、神妙な顔のまま、首をかしげている。まるで利一を牧師として難解な聖書を解読しようとする信者の集まりのようで、謎を共有した客同士には奇妙な連帯感が漂っていた。でもそれは、ひと匙の加減で怒りにも、爆笑にも変わりそうな危うい空気だった。

「大人になりたいと、君は言う、でも、生き急いでも、息が切れるの、苦しいよ~、……社会保険とか、あっあー!」

 社会保険?! 聞き間違いかと思ったが、まるで地震が起こったかのようなどよめきが起きて、聞き間違いでないと分かった。みんながキョロキョロする中で私も恵梨香の顔と出合う。

「シュールレアリズムだった!」

 恵梨香がもう我慢できないというように、まるでくしゃみみたいに笑った。皆も我慢できなかった。抑え込んでいた空気は一気に緩み、みんな手を叩き、げらげらとだらしなく笑いだした。本人はそんなフロアの様子を知ってか知らずか、自信満々でサビへ突入した。

「ベンジー! 僕を呼んでよベンジー! 花が咲くからパンジー! 僕の可愛いバンビー! そばにおいでよ、oh yeah~」

 なんだこれ、語呂が合っている以外全然意味不明な歌詞じゃないか。

「イエーイ!」

「ヒュー!」

とやけくそのような歓声が飛ぶ。そうでもしないと頭の上に浮かぶクエスチョンマークを吹き飛ばすことができない。

 再び、阿佐ヶ谷さんのおそろしくキレの良いギターが間奏を奏で、皆の感じる歯切れの悪さをぶったぎっていった。

 問題はその次だった。突如として利一がバンザイをしたと思ったら、そのまま頭の上で手拍子を始め、皆を促した。なんだかお遊戯会のタンバリンのような利一の手つきを見て笑いながら、皆も手拍子を始める。手拍子が増えると利一は満足げな顔でこう歌い始めたのだった。

「ゆうじー! 僕の憧れゆうじー! みんな大好きゆうじー! 長生きしてよゆうじー! そばにおいでよ、oh yeah~」

 その時の私と言ったら、身体中の重力が逆回転して、顔中に血が集まったようだった。顔が破裂するかと思った。脚からは血が失せてふらふらして、立っていられなくなった。

 ゆうじ、は、阿佐ヶ谷さんの下の名前だ。

 阿佐ヶ谷さんは突然の替え歌にも表情を一切崩さず、安定したメジャーコードを供給していた。ノーミスどころか機械のごとく最後まで弾き切った阿佐ヶ谷さんがさっさとステージを去ろうとすると、利一が腕を引っ張って阻止する。

「りいちたーん!」

「萌えー!」

と歓声が飛んだ。命知らずが

「ゆうじたーん!」

と叫んで、阿佐ヶ谷さんにものすごい形相でガン飛ばされていた。

 利一がマイクをつかんだ。

「えーと、阿佐ヶ谷さんは、えっと……、憧れの先輩です! すごい、好きです! 愛してます! これからも僕だけのゆうじでいてください!」

 利一がキャーと言いながら顔を隠す。その時、鉄壁のポーカーフェイスで利一を睨み続けていた阿佐ヶ谷さんの口の端が、かすかに、歪んだ。

「あ、照れてる?」

 利一がすかさず突っ込む。阿佐ヶ谷さんはピックを落とした。動揺して落としたように思えた。すぐかがんで拾おうとしたので、表情は見えない。再び顔を上げようとした阿佐ヶ谷さんの耳元を、利一の顔が素早くかすめた。

 私の位置からは何が起こったのかよく見えなかった。でも、フロアがはぜるように、

「うおー!」

「ひゅー!」

「お前ら、もう付き合っちゃえよー!」

という言葉で溢れ返り、慌てて頬を手で押さえてしきりに擦る阿佐ヶ谷さんを見て分かった。恵梨香が私の耳をつかんで、

「キスしたねキス! 殺す!」

と叫ぶ。

身体の芯の一番硬い部分が一瞬で気化して、全身を溶かすようだった。

 利一は、まるで鬼の首でもとったように誇らしい顔で、皆を見下ろしている。

その時、阿佐ヶ谷さんの腕が獲物を捕える鷹のように利一を掴んで、力任せに頬にキスをし返したのだった。

「てめえ、覚悟は出来てんだろうな、次会ったら掘るからな!!」

 利一の耳たぶを引っ張って、その言葉を吹き込むように叫ぶと、阿佐ヶ谷さんはギターを掴んで袖に消えた。

 すさまじい勢いで私の中を熱風が通り、全ての臓器が焼けただれたようだった。恵梨香が騒ぐ。

「ズルい! 利一! 殺す!」

 それだ。ずるい。

 なんで好きと言えるの、利一は。私は……見ているだけ。見過ぎて、嫉妬し過ぎて、視神経が焼き切れそうだった。ああ、今日は利一の顔を舐めつくそう。そんな自分の思いつきに自分を殺したくなる。

 その時、バーガークイーンの背中が目に入った。彼女の心の中を想像するなんて容易だった。自分の最愛の王子様は、自分を守ってくれるどころか、自分を傷つけた男とあんなに仲むつまじそうにキスまでした。バーガークイーンは痛んでいるだろう。しかもその男、私の彼氏なんだよ。そう言って私は、あいつの肩を叩いてみたい。そうしてやるためだけに、利一と付き合っていてもいい。

 残酷な思いは両刃の剣で、彼女と私を、同じだけ傷つける。多分彼女と私は、同じところが痛んでいる。

 その後、極東皇帝や、極東皇帝によるニルヴァーナのコピーバンドなど、面白いものを沢山観たが、これより大きな事件は起こらなかった。

 ただ、終演後には、あった。

 私がハコの外の喫煙室でぼんやりと煙草を吸っていると、誰かに肩を叩かれた。

振り向くと、そこにいたのは、阿佐ヶ谷さんだった。

 いつも遠くから見ている人だから、こんなに目の前にいてもピントが合わなかった。目が合わなくて、目と目の間の眉間のあたりを、広いなあ、と思ってぼんやりと見つめたまま本当に阿佐ヶ谷さんかどうか不確かに思った。

「ねえ、利一と付き合ってるんだって?」

 彼が話しかけてきた言葉は驚くほど凡庸で、ますますにせものな気がした。

 私から自動的に出たハイ、と答える声は、冷たかった。というか、息がひゅーひゅーと素通りして、まともな声なんて出なかった。

「へえー、知らなかったわ。あいつ、彼女とかいたんだー。利一って、いいやつだよな、ちょっとあれだけど、なんか、落ち着くわー」

 そう言って阿佐ヶ谷さんはとつとつと喋り出し、それから私と利一の出会ったきっかけを聞いた。別になんてことない世間話だった。でも、私の声は最後まで、まともな温度に溶け切ることは無かった。

 阿佐ヶ谷さんから私に話しかけてくるのは、二年間極東皇帝のライヴに行き続けて、これが初めてだった。

「あ、別に利一のケツとか狙ってねーから、安心して。盛り上がると思ってやっただけだから。演出演出」

 ハハハ、と、阿佐ヶ谷さんは全然楽しそうじゃない笑い方で笑った。

 あまり目を合わせず、相変わらず朴訥としていて、全然心を開く気なんか無さそうな喋り方だったけど、こんなに長く話したのは初めてだった。

 ずっと見つめて、見つめ過ぎて爪の形まで覚えてしまった、阿佐ヶ谷さんの手が、目の前にあった。

 ただの気まぐれだろうけど、阿佐ヶ谷さんが私と話そうとしてきた。多分私は、こうされる日のために利一と付き合ってたんだと思った。私の喉元につかえる氷のような塊は、最後まで溶け切ることは無かった。

2012年 / 21,244字(64枚)



渋澤怜(@RayShibusawa

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