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題:ねじまき鳥クロニクル 作:村上春樹

何年前だろうか?幼馴染が私が本が大好きだという事を伝えたら、20冊くらい帰国した時にプレゼントしてくれた。「私もまだ読んでないものもあるし、読んで欲しい本もあるけど、とりあえずこれだけ。」

その本の一部を日本旅行中の新幹線やバス移動のお供にして、帰国には10冊くらいにしておいた。特に村上春樹は私にとって初挑戦だったし、文庫で小さかったこともあって、アメリカに一緒に帰ってきた。


読書初心者の私に、村上春樹の門を叩くのは意外に敷居が高くて、この本たちは本当に最後の登場だった。


最近気が付けば、ギーギーとネジを巻くような鳴き声の鳥がうちの近所でよく鳴いていて、まさに、ねじまき鳥だなとよく思っていた事もあって今回の寄稿に至ったわけなのだけれど、なんせ物語が深くいくつも絡み合っていて私に上手く推薦できるのかは謎だと思う。ハルキストの方にお叱りを受けないように私なりに思い出しつつ誠意を持って書いていこうと思う。

おかしな話、友達が私にくれたのは上・中巻のみで最後の下巻をリトル東京図書館で発見するまでは、実際何度も中巻を読み返していた。その間1年以上あったかもしれない。


本題:主人公のトオルが妻のクミコに家出されるところから物語は進んで行く。トオルは、法律会社で働いていたが退職し、無職となり、朝昼の家事を請け負っていた。クミコは、雑誌編集社に務めており夜帰宅するという生活を送っていた。だがある日、クミコは家出をしてしまう。どこにでもある夫婦の形でのすれ違いだろうと甘い推理をした私は、読み進めるうちに自分の浅はかさに打ちのめされる。

クミコは、浮気をしていて家出を決行したのだが、その原因が自分なのでは?むしろもっと深いところにあるのではないか?とトオルは考えを突き詰めていく。そこで登場するのが、加納マルタだった。霊媒師で、二人が飼っていた猫が帰らないことを心配してクミコはマルタに会っていたからだ。マルタの登場もそうだが、何故彼女はマルタと名乗ったか。そこでの出来事は私にマルタ島を検索させた。なんと美しい‼いつかまたヨーロッパに旅が出来たら是非とも訪れたいと思う。そしてマルタの妹クレタの登場。トオルとクレタの息を呑む関係も私を物語の奥底まで引き込んでいった。

そして次に登場するのが、路地裏の少女笠原メイ。彼女との日向ぼっこが、アルバイトの共有とトオルを支えていくことに。

そこから出会うのが、本田さん、そして間宮中尉と戦争に関わる話へと動いていく。

私のおじいちゃんは、戦争体験者で、マレーシアなどの南方諸島で生き残ったという話を私は小さい頃よく聞いていたから、間宮中尉の満州での話は胸を締め付けられるほどの詳細で、そして戦地での生々しい描写が続き、何度も何度も中断しながら読んでいったことをよく覚えている。特に、トオルの井戸の中での話は本当にクレイジー過ぎてびっくりした。ここで、振り返ると如何に作者が背景や体験記を取材し、勉強したかという事実が窺える。物語を綴るうえで如何に証言や裏付けが大切か、リサーチが物語に臨場感を生むか。作者の努力には脱帽するばかりだった。

そこから、話は、ギターケースの男、井戸のある家の買い取り交渉、そして品のいい女、ナツメグとシナモンと二転三転していく。時間軸がゆっくり進んだかと思えば急展開する緩急の使い分けもページをめくる手に力が入る素晴らしい展開だ。

トオルが購入した井戸付きの家を購入する代わりに妹と話させてやるというクミコの兄綿谷昇。私が本当嫌いだったのは、クミコの兄昇だった。そのやり取りの後とうとう出た「ねじまき鳥クロニクル」と言うタイトルはシナモンのパソコンに現れる。やっぱり、このパソコンの物語が、この本全ての伏線なのかな?なかなか高度過ぎて私には、読み切れてない伏線が山ほどある気がするな。また読みたくなってきてしまった。


これ以降、リトル東京図書館の村上春樹ゾーンを一冊ずつ読破していったのだが、やはり難しい本が多い村上先生。「え?終わりなの?」ってビックリする事や、これは一体何だったんだ。って話もあるけれど、それってやっぱり人生を上手く反映している気もする。この世の中のすべての事象に答えが出せる訳じゃない事や、自分じゃどうにも理解できない事など、ああやって終わる事で考えさせたり、納得させたり。答えは一つじゃないと学ばせてもらったのが、村上春樹大先生だった気がする。アメリカでも、大人気で、私のアメリカ人の友人と日本の作家の事を話し合えるって本当に嬉しいし、誇りに思う。

今図書館が閉館してしまっているが、開館したら真っ先に読みたいのが、1Q84だ。早く普通の生活に戻れますように。早くまた本が読みたいです。



 


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