全裸の呼び声 -5- #ppslgr
さして、関心もなさげにうそぶく黒ずくめを政府高官は横目でにらみながら話を続けた。
「事態は急を要しているのは本当です。現在国内で露出症を発症したのは、人口の約1%程度にとどまっていますが、期間あたりの発症事例の上昇指数曲線は急カーブを描いて被害の拡大を示しています。もう一週間後には総人口の約10%に達し、国内の各インフラ、公的機関の稼働に支障を来すでしょう」
いかにも深刻である、といった要素を強調する高官に対して、黒ずくめはピクリとも表情を動かさずにつまらなさげな態度を崩さない。一方で白衣の人物は興味深いと言いたげな面持ちで説明を聞き入れていた。そして、奥ゆかしく右手を上げる。
「一つよろしいでしょうか」
「なんでしょう」
「ええとですね。緊急事態にあたって実績があるレイヴンをたてるのはわかるんですが」
「別に好きで実績立てたわけじゃないがな……」
「なんで私もなんでしょう。腕の立つ逸脱者なら他にもいますし」
挟まれたツッコミは流されるままに、高官からの回答が出た。
「第一次調査隊の全滅を踏まえ、担当部署である我々はメンバーの再厳選を行いました。当初の想定よりも現地の危険度は跳ね上がっていると推測し、様々なトラブルの解決実績があるそこの真っ黒クロスケと、全裸露出事案について専門家であるアノート・キー教授にご同行いただきたいと我々は考えております」
「待ってください」
「なんでしょうか」
「わたし、全裸露出事案の専門家とかではないんですが」
その時、それまで一応は流れていた深刻な空気を、散々にもぶち壊しにする気まずい雰囲気が生じた。レイヴンはそのギャップに吹き出しそうな笑いを必死に噛み殺し、アノートと呼ばれた教授はあいも変わらぬ柔和な表情で回答を待っている。一方で政府高官嬢は打って変わってしどろもどろとなってしまっていた。
「えっ、いや、でもその……実際、アノート教授は全裸露出事案について数々の実績ある論文を……」
「あれは片手間の趣味のようなもので、私の専門は娯楽歴史学です」
「それはまことですか」
「まことです」
「……こちらの不手際でございます!まことに申し訳ございません!」
やおら立ち上がって深々と頭を下げる高官を、レイヴンは先生に謝る小学生をみるような面持ちで鑑賞したのちに、話をもとに戻した。
「実のところ、その全裸露出事案専門家とかいう頭が痛くなる存在が、他にいたとしてだ。戦えるかどうかは別問題だろう。教授は実際腕もたつし」
「そちらもたしなみみたいなもんです、専門家にはかないませんよ」
「またまた謙遜しちゃって」
「それはまあ、その、おっしゃるとおりで……」
「では、結局の所そうそうに送り出せるのは俺たちだけって訳だ。一億人もいてまったく大した人材不足だよ」
レイヴンと呼ばれた黒ずくめは、皮肉たっぷり大げさに呆れてみせると、身を乗り出して告げた。その眼は高官を見ているようでいて、より遠くを見ていた。
「それで、いくら出す」
【全裸の呼び声 -5-:終わり|-6-へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
注意
このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。
前作1話はこちらからどうぞ!
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