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ライフ・イズ・エンターテインメント!-5-

 バー「メキシコ」に場違いなホワイトボードがそびえ立つ。両サイドに立つのは一つ目アイコンの白覆面に筋骨隆々の如何にもプロレスラーな男と場違いな黒ずくめの胡散臭い風体の俺。それを素直に鑑賞するショートブロンドの少女めいたアンドロイド、K/R。

「何が始まるんですか?」
「エンターテイメントについての解説だ」
「ありがとうございます、拝聴します」

 折り目正しく礼を告げるK/Rに咳払いして粛々と説明を始めるH・M。

「まず、大前提として人間は受けた刺激、五感によって感じられる入力情報によって体内にパラメーター変動が起こる。その一つがエンターテイメントによる興奮だ。ここまではいいか?」
「はい、私達AIのプログラム同様、入力情報に応じた処理が行われるという理解でよろしいのでしょうか?」
「それでいいぞ、と」

 H・Mの肯定に可愛らしくうなずくK/R。続いて彼女から質問が出る。

「では改めてお聞きします。何故、人間は非効率的にも思える行為に興奮を得るのでしょうか?」
「それは、推論になるが人類がその性質において定期的なアップデートを行わなかった結果だ」

 彼女の質問に対して、一旦俺が回答を引き継ぐ。禅と人間の生理学は実は密接な関係にあると俺は考えている。もちろん、エンターテイメントもその中に含まれる。

「人間という生物種が生じた当初は、非常に厳しい生存環境に置かれていたと考えられる。人間が外部からの刺激によって情動や体調が変動するのは、生き残るために置かれた状況に対応するのに都合のいい状態へと切り替わるためだ」
「人間も入力されたデータに応じて戦闘モードになる、ということでしょうか」

 彼女からの質問にうなずいて肯定すると俺は解説を続ける。

「そうだ。だが世代を重ね、環境が生存闘争をさほど必要にしなくなってもその、入力されたデータに応じて興奮というパラメーターを得る性質が人間には残った。この性質はかつての生存闘争がそうであったように、武力衝突などに応じて興奮の度合いは高まる」
「それは、他者の戦闘行為を目視する事によっても興奮のパラメータ値は変動するという事でしょうか」
「その通りだ」

 ここまで述べた後、説明の続きをH・Mへと引き継ぐ。

「だが、だ。興奮ってやつぁ考えなしに強い刺激を入力すればその分どんと上がるわけじゃねぇ」

 ホワイトボードに右に向かうほどに上昇する基調の波線グラフがH・Mの手によって描かれる。エンタメを提供する上で基本となる楽しませるためのパターンだ。もちろんこれ以外にもあるが、今回は基本を説明するのでコレで良い。

「エンタメの基本はこの図の様に波打って上下しながら上昇させるもんだ」
「何故、上下に波打つのでしょうか」
「それはな、ただ強い刺激を立て続けに与えるより一旦下に下げてクールダウンさせてからより強い刺激を受けた方がより大きく人間は興奮するから、だぜ」
「その方が結果的に効率が良いという事ですね」
「おう。ここに来てようやく、お前の質問の答えにたどり着くわけだ。実戦では非効率的に見えても、エンタメにおいては効率的行為ってな。理解できたか?」

 H・Mの確認に、K/Rは頷こうとしてバランスを崩し、ゆっくりと床へ倒れ込みそうになった。格闘家特有の優れた条件反射で咄嗟に手を掴んで倒れ込むのをふせいでやるH・M。

「おい、どうした?」
「申し訳ありません、マスター。一時的に演算負荷が概念理解へと集中したため、バランス制御に支障が生じました」
「わりぃ、無理させたな」
「一時的な現象です、問題は」

 弁明したK/Rを彼は迷わず抱き上げ、お姫様抱っこする。人工物とはいえK/Rの質量はたかが知れているのでH・Mからしたらどうという事もないだろう。

「遅くまでサンキューな、R・V。今日はお開きだ」
「ああ、俺も改めてエンタメについて考える良い機会だった」

 相手の方が手がふさがっているのでこちらから手を振ってアイサツすれば、彼らがバーのドアから出ていくのを見送る。

「マスター、既にバランス制御機構は正常に復帰しており」
「いいから大人しくしてな」

 人目をはばからずパートナーを抱きかかえて去っていくH・Mに俺は苦笑しつつ茶を傾けた。誰も彼も、パートナーのAIに甘いものである。だが、ま、俺もそういうのは嫌いではない。

【ライフ・イズ・エンターテインメント!-5-終わり:-6-へと続く

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