冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第十六話 #DDDVM
「先生、そちらは何かありましたか?」
「ああ、頼んでおいた資料がようやく届いたくらいだよ。そちらは今のところ危険は無いようだね」
「そうね、でも気が緩んだ頃合いに割ってはいってくるのがお約束、よ」
「実に頼もしい、そのまま三人揃って無事に戻ってきて欲しいとも」
「ホント、つくづく竜っぽくないわねあなた」
「そんな事はないさ、伝承に語られる連中は私達の中では喧嘩っ早い荒くれ者か、縄張りの広い輩と相場が決まっていてね。穏健派にあたる者たちはそもそも他種族との接点を持つことが非常に少ないんだ。だから君達の一般的な竜の印象は偏った接点がもたらしたごく一面的なものだろう」
「ふうん……ま、友好的でもいざ喧嘩になったら勝負にならないもの。近づきたくないのは私だけじゃないと思うけれど」
雑談にのっているようで、彼女の感覚は鋭敏に周囲の変化を観察していることが声色から私にも伝わってきた。街中のような安全地帯とは異なる声の張りだ。彼女がいつでも撃てるように携えている、黒橙の弓、私の知人ならぬ知竜の一部で象られた弓が、天井の明かりを受けて艶めいた。
彼女たち一向がエントランスホールから奥に進んだ迷宮の通路は、大型の魔物であればすんなり通れる程度の空間を保持しており、やはりあの真円型の光源が一定間隔で通路に明かりを提供している。ワトリア君が緊張感を何とか保ったまま、口を開いた。
「まるで見たこと無い雰囲気の場所ですけど、やっぱりなんというか……迷宮っぽくは無いような気がします。リューノさんはどうお感じですか?」
「武骨者の私の直感で良ければ、迷宮を意図して作られた、というよりも複雑な構造にせざるを得なかった神殿や何らかの施設、のような印象を持ちました」
「今のとこ罠も敵も出てきてないけど、そもそも悪意が薄いのよね。ここは」
「ええ、仮に入り込んだ者を破滅させる意図があるのであれば、そもそもこの天井の灯りでさえ存在しないでしょう」
冒険者二人のやり取りに、ワトリア君は落ち着かなげに眼鏡を揺らしておとなしく真ん中の立ち位置に収まっていた。
「ワトリア君、君は学生であり、医学を志す者なのだから二人に対して気後れすることは無いと私は思うよ?」
「あ、はい……でもやっぱり未熟さを痛感しちゃいますね」
「あなたはまだお若い、いずれ立派な医師になれるでしょう。その日が必ず来るよう、私がお守りします」
「ありがとうございます、リューノさん」
「しっ、曲がり角から何か来るわ」
シャンティカ君の制止により、ワトリア君は慌てて自分の口に手を当て、リューノ殿は携えていた盾と剣を構え迫りくる脅威に備える。シャンティカ君はというと、背後からの敵襲は無いと判断してワトリア君よりも前に出た。
「足音無し、ごくわずかな風切り音が二つ。前方右側の角から感じる」
「わかりました」
にわかに、三者の緊張が高まった。その様はおもに筋肉の緊張として現れ、シャンティカ君は若鹿の如き四肢を張って弓を張り詰めさせ、一方のリューノ殿はもともと屈強であった手足を丸太のごとく膨張させて招かれざる客を出迎える。
【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第十六話:終わり|第十七話へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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