冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第ニ十五話 #DDDVM
調査の方向性が定まれば、自ずとやることも増える。
私は追加の伝書鳩をあてにできる相手へとを送り出すと、続けて公の体内に秘匿された遺物のリスト、その写しを宙に広げた。
「名前だけでは中々どの様な物品なのか想像しにくいものだが……」
分厚い書籍の一枚一枚に、名称、形状と特徴を捉えた写実画に、保管されているべき在庫量から取り扱いに際して注意すべき点など、歴代の担当者達が綿密に記載した情報が紙上ところ狭しと踊っていた。財宝的な価値は関心がないものの、遺物のたどってきた歴史的価値、あるいは来歴については大いに私の好奇心を刺激するに足るものだ。
「こんな時でなければ一つ一つじっくりと見分したいのだがね」
独りごちると、目当ての物があるかざっとページを流してゆく。私の視線を、とても実用性があるとは思えないいびつに曲がった剣やら、際限なく入れ子型になっている箱、金属にガラス張りした薄い板などの情報が矢継ぎ早に通り過ぎていく。
「林檎と月の魔剣オルトラントもここに行き着いていたとは……とと、いけないいけない」
遺物の歴史に思いを馳せるのは謎を解き明かした後でも出来るだろう。さらなる遺物を求めてページをゆらゆら使役すると、本の半ばほどで目当ての物はでてきた。
「甘竜ラ・クラリカの黄金酒……おとぎ話だとばかり思っていたよ」
竜という種は、後天的に親とは大きく異なる能力を獲得する性質がある。たとえば、雨竜ベラカクトラの破滅の雨も後天的に発現した生理機能だ。
では、甘竜ラ・クラリカはどうであったかというと、伝承に聞くところによれば……極上の飴細工を竜にした様な、そんな存在と言い伝えられている。いわく、その身体に実った黄金飴をひとかじりすれば短命の種ですら10年は天命が伸びると言われたそうだ。
当初、ラ・クラリカは求められるままにおのが身の豊穣を分け与えていたものの、あまりの評判に供給が追いつかなくなり、ほとほと困って当代の賢竜に救いを求めたとか。
結果、賢竜はラ・クラリカの飴と同じ味の果実を生らせる木を作り出す。それが、今幅広く普及している桃の始祖……ということらしい。同様の味を他の手段で得られる様になった結果、かの竜は無事天寿を全うしたと言われている。
伝承はともかく、問題は先達の甘露でもって作られた薬酒の方である。端的に言えば、この遺物の特性とは万能薬と伝わっている、いるのだがいかんせん実物で癒やされた者もとうの昔に亡くなっており、その効果を保証する物も、肝心の実物も行方知れずとされていた。
「しかし、ここに秘匿されていた……と。もっともこれだけが候補とは限らないが」
他にも、私が想定している条件に合う遺物がないとも限らない。まずは全て洗い出すべきだろう。
【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第ニ十五話:終わり|第ニ十六話へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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