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全裸の呼び声 -11- #ppslgr

 川崎市多摩区登戸。特筆できる特徴は多摩川沿い南側にある、くらいであり取り立てて特徴と言えるほどのものはない、首都圏によくあるタイプの街、であった。だが、今はそうではない。

「なんだ、こいつは……」

 そもそも二人が乗った電車が、登戸駅に近づくまでの遠目でもただならぬ違和感があったが、いざ駅をおりて高架ホームより南側を見渡したレイヴンは、あまりにあまりな光景に絶句せざるを得なかった。同行しているアノート教授はというと、興味深げな視線を駅から南の方向へ送っている。

「私。登戸って初めて来たんだけど、前からこんな感じだったのかい?」
「まっさか。よくある日本首都圏の一駅前だよ。世界崩壊の再開発後ですら、昭和の匂いが抜けきらなかったような」

 二人が眼にしている街は、いな、世界は断じて現代日本の駅前などとは掛け離れた異世界だった。

 並び立つ建物の背は低く、時折場違いに高い建物が伸びてちぐはぐな影を描いている。建物群の様式は昭和の面影を残すも、無理に西欧や東南アジアの様式を混ぜ込み一つの塊に押し込めたような代物で、一つのビルですら統一感がまるで無い。それらの怪異めいた建物が、キノコの群れのように立ち並んで駅前商店街のような振りをしていた。

 ふとレイヴンが振り返った先、ホームにおりた他の人間は、明らかに現代日本のファッションとは合致しない風体だ。浮浪者でも、もう少しまっとうな服装をまとっているだろう。彼らの服装は、酷使されすぎて切れ切れにちぎれた布を無理やりつなぎ合わせたかに見える物体で、お世辞にも服と呼称出来るものではない。

 そして彼らの眼は夜の猫科肉食獣めいて爛々と輝き、異物である二人を見ては、まるで今晩の生贄を前にしたかのようなヒカリを例外なく宿していた。だが、あまりに不躾な視線に黒ずくめがいかにも不機嫌な顔を見せると、すごすごと階段を下っていく。

「最悪だ。百億円程度では全く割に合わんね」
「後学のために聞くけど、どのあたりがだい?」
「そうだな……まず、おそらくこれは現実改変の一種だ。だが、一つの街を一週間に渡ってまったくの別世界に作り変えたまま、維持するのは想像を絶するコストがかかる」
「世界が持つ常態維持性によるものだね」
「その通り」

 レイヴンは大仰に両手を広げ、世界を指し示す。

「万能全知の神がいるかはさておき、俺たちの世界は因果律によって維持されている。現実改変はその因果律、原因と結果を無視して全く違う事象を用意する、いわば現実におけるチート能力。しかし、長期間に渡って恒常的に、広範囲で現実を改変をし続けるのは、アリがクジラをずっと持ち上げ続けるようなものだ。どだい無理があるし、期間も長くて一時間程度で勝手にもとにもどる」

 まぁ、まったく異例な前例が無いわけじゃないがね、と付け加えて、黒ずくめは肩をすくめた。

「逆説的に、コレを作ったのは既存の常識を遥かに逸脱している、と」
「そのとおり。加えてもう一つ良くない話」
「なにかな」
「おそらく俺の『自我境域』、このなかじゃたぶん出せないな」

 レイヴンの言葉に、アノートは珍しく眉をひそめた。

【全裸の呼び声 -11-:終わり|-12-へと続く第一話リンクマガジンリンク

注意

このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。

前作1話はこちらからどうぞ!

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