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魂の灯 -26- #ppslgr

光あふれる商業施設のメインストリートを、艶めく黒髪をたなびかせて少女は人の流れを開いていった。その後ろを、おっかなびっくりごまかし笑いを貼り付けたまま、バティもついていってたのだが。不意に、ノート・アイドルがその非現実的なまでの愛らしい表情を咲かせながら、後ろの冴えないオタク青年の方へ振り向く。

「ねぇ、なんでそんな距離を離してるの?」
「いや、その、なんだ……恐れ多いというか」
「私は気にしないけど」
「オレが気になるので……」
「私は!気にしないの!」

そう断言したアイドルは、バティの所まで駆け寄っていくと強引に腕を組んで、肩を並べて歩くようねだった。彼女の背丈は如何にもカワイイなサイズで、ひょろ長いバティとは大分ギャップがある。

「ほら、行きましょう?」
「へーい、おおせのままに」

バティには彼女が何故こうも自分と行動したがるのかイマイチ把握出来なかった。なんと言っても、彼女はAIであって人間ではない、はずだ。それとも自分がからかわれているのだろうか。一体誰に?

「なによ、しゃちほこばっちゃって」

どうにもぎこちない態度のバティに対し、アイドルは彼の鼻先をつついて、ほころぶように笑ってみせた。

「楽しみましょう?今こっちにできることは無いんだから、引きこもって本ばかり読んでてもしょうがないんだし」
「オレ達には本読むの大事なんだけどね、いや、付き合うよ。付き合う」
「よろしい」

渋々ながら、了承したバティに対しアイドルは満足げに頷いた。続いて、彼女はそっと彼に耳打ちする。

「それと、アイドルって呼称は止めてね。確かにそういう個体名だけど、一個人の名前っぽく無いし……」
「じゃあ、どう呼べば?」
「ノア、ノアでいいわ。あの黒い人にも伝えといてよね」
「へーい。一文字ずつとってノアね」
「そういう事、あ、あのお店入りましょ」

くるくると態度の変わる少女に翻弄されながらも、バティは彼女と共に、ねだられた和服店に足を踏み入れる。そこは色とりどりの和装や奥ゆかしい伝統的紋様の小物に加えて、本来洋装に使われる布地や他国の民族衣装を和装にカスタマイズした多様的文化の坩堝であった。

「服、気になる?」
「和服って、敷居が高そうでチェックしてなかったの。でもほら、キュートでしょう?」
「それは、確かに」

欲しいって言われたらどうしよう。いや彼女はノート管轄の躯体なんだから、欲しいって運営スタッフに言えば予算内で買ってもらえる……と思いたい。自分に要求するのは何か違くないか、というバティの願望を他所に、ノアは瞳をくるくると多様な和服達にスライドさせていた。

「ねえ、これとかどうかな」

ノアは、ラフなジーンズを和装に仕立てた着物を自分の身体に当てて、似合うかどうか問いかける。

「似合う……けど、なんでオレに聞くの」
「あなたの為に選んでるんだから、あなたの意見を聞くのは当然でしょう?」

その答えに、バティは絶句した。オレの為だって?そしてちらりと見えた値札に、二度絶句した。相場がわからないにしても、一大学生がおいそれとプレゼント出来る金額ではない。

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