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魂の灯 -27- #ppslgr

「よろしければ、ご試着なさいます?」

一人ファッションショーめいて、アレコレ手にとっていたノアが星空を彷彿とさせる藍の着物を身に添えた辺りで、ふんわりとウェーブをかけたショートヘアに、浅葱色の着物をまとったこの店の主が奥ゆかしく提案を持ちかけた。

「良いの?」
「ええ、衣服は着て初めて良し悪しがわかるものですから。着付けの仕方もお教えいたしましょう」
「ありがとう!お言葉に甘えさせてもらうわ」

バティが待ったをかける間もなく、星空の着物の値札に三度絶句している間に店主とノアはワビサビの効いた店内奥の座敷へと移っていってしまった。

「……どうしよう」
「バティ」
「レイヴン、気配殺してステルスするの止めてよ」
「バレたか」
「いーや、今ようやく気づいたとこ。で、なに?」
「コレを持っていけ」

レイヴンがそう言って差し出したるは、彼の装束にも負けないほどに黒光りするカードであった。如何にもな雰囲気の代物に慌てて手をふって拒絶する。

「ダメだって!いくらなんでもそんな高そうなの!」
「話は最後まで聞くんだ、こいつは今回の件で運営から預かったAI用のお小遣いカードだ。カードに予め所定の金額が振り込まれていて、使いすぎることがない」
「あ、そっか。そうだよな」
「仲間相手といっても、クレジットカードをさっと貸すのは不用心すぎるからな。金持ちは良くやるイメージだが、俺はそこまで裕福でもない」
「ですよねー。でも俺が預かっていいの?」
「彼女とのデートに費やす分には不問にするそうだ」
「なら、彼女に渡して……」

バティの言葉に、レイヴンはかぶりを振る。

「今この瞬間は、お前が支払ったってのが大事なのさ。金の出どころは問題じゃない。ジェンダーロールが何だかんだって今どきでは厳しいが、今この場では彼女にはそれが望まれてるだろう」
「わかったよ。でもオレ自分でも何やってんだかわかんないや。コレで書きたい物が見つかると思う?」
「人にも寄るが……書きたい題材っていうのは、キャンプファイヤーなんだ」
「キャンプファイヤーだって?」
「そう」

絢爛な生地が静謐に並ぶ店内で、黒衣の男は鷹揚に頷く。

「書きたいという衝動は、自分の中にいくつもの体験という薪を積み上げていって、ふとした瞬間に着火する。だが、いつ、どのようにして火がつくかなんてのは誰にもわからない。神にもブッダにもわからんだろう。だから人間に出来るのは、体験を積み重ねて、火の気が来るのを追い求めるだけなんだ」
「レイヴンは、火がついた事がある?」
「あるとも、二度、だが」
「二度、かぁ……」
「二度、さ。今度は絶やさないようにしたいものだな」

女性陣が帰ってくる気配を感じたか、黒衣の男は踵を返して店内から退出していく。

「ガンバレ、若人。まだまだ先は長いからな」
「油断してると、虚無時間で休日潰しちゃいそうだから、精々楽しむよ。ありがと」

振り向かずに、大手を振って、彼は姿を消した。手元の黒いカードは、ひどくひんやりとしていた。

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