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全裸の呼び声 -9- #ppslgr

 黒ずくめの告知と共に、彼の足元から歪んだ円型の脈が広がり伸びる。それは一瞬にしてバー店内の床を覆い尽くし、一帯を呑み込んでいく。

「おい、レイヴンの『境域支配』だぞ!」
「バッカお前こんなとこで使うんじゃねぇ!」
「緊急時だ、後で酒奢るから退出してくんな」

 どよめきをあげてバーから慌てて退店する客達。政府高官嬢は眼を白黒させて事態を見守った。

「『境域支配』か!?させぬぞっ!」

 警戒し妨害のため踏み込むカニオストロの拳を、再びアノートがヤリで受ける。瞬間、ヤリが半ばで分断すれば二本の小太刀へと変わった。カニオストロは、自らに襲いかかった上下からの刃を、寸前で指白刃取りにて止める。続いて生じたのは、立て続けの銃声だ。

「露ーッ!?」

 カニオストロがたたらを踏んで5メートル後退!アノート教授は、続けて自身が手にしたリボルバー拳銃よりマグナム弾を連射する!着弾のたびに後退し壁際まで押しやられるカニオストロ!そして彼の胸筋から、平たく潰れた弾頭がぽろぽろとかさぶたのように剥がれおちた。

「ヌゥーッ、コシャク!」
「今日日、改造人間でももう少し脆弱ではないかな」
「フン!改造など惰弱なる非脱衣者のクズがすがる道よ!人類にはもとより、これだけの力があるのだ!」
「本当にそうかなぁ」
「しかし、『境域支配』……いうなれば脱衣による全裸露出行為を超えた、魂の露出行為……!こんな所に使い手がいただと?」
「おおむね間違いじゃないが誤解を招きすぎる表現をするんじゃねぇ」

 『境域支配』。それは通常、世界と自他を隔てる壁である自我境界線を拡張、空間を侵食し上書くことで、限定的に領域内の対象へ独自のルールを課す空想技巧における極致の一つである。

 つまり、今この瞬間においては『境域支配』の射程内の生命体は、レイヴンの支配下に置かれるのだ。カニオストロもまた、その危険性を理解し警戒する。

「中々驚かせてくれたが、『境域支配』は絶対でもなければ必殺でもない!所詮は子供だまし、我らに都合よく着衣させられるわけがない!」
「ところがどっこい」
「ヌ?」

 黒ずくめが指を鳴らすと同時に、全裸者の足元から一斉に枯れ枝のごとき腕があちこちから突き出た。それはカニオストロも例外ではない。

『露ーッ!?』

 生者のそれとは到底思えない枯れた四肢は、地より露出者を手がかりに這い出て彼らにすがりついていく。おちくぼんだ眼窩、乱れた白髪、血走り赤く染まった眼。その姿は羅生門の奪衣婆を彷彿とさせるが、それらは手に死装束を掴んでいた。

「ぬわーっ!?やめろやめないか!ワガハイに服を着させるな!」
『露ーッ!?』

 老婆の群れは常軌を逸した力で全裸者の群れを組み伏せ、手にした死装束を強引にまとわせ、帯を固結びにしていく。これを地獄絵図と言わずして、なんと呼ぶべきであろうか。政府高官はメガネの奥で眼を丸くしてこの世の終わりのような光景を見守った。それだけしか出来なかった。

「老婆が?着衣を?強制??????」
「奪衣婆って、読んで字のごとく服を奪うほうじゃあなかったかい」
「あまりメジャーな伝承じゃないがね。素っ裸のままで閻魔に目通りさせるわけにもいくまいて」
「なるほど、納得」

【全裸の呼び声 -9-:終わり|-10-へと続く第一話リンクマガジンリンク

注意

このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。

前作1話はこちらからどうぞ!

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