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冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第十三話 #DDDVM

私が門番達へ奥ゆかしく別れを告げ、空に舞い上がってから程なくして私の左の単眼鏡を通してワトリア君の視界情報が移ってきた。もちろん、そちらと飛翔と思考に意識を三分割しても、何ら支障はない。なんだったら、地上から雨あられと砲撃されてもすんなり察知して避けることが出来る。それが、竜という生き物なのだ。

今もワトリア君の眼鏡にかけた魔術を通して、現地の様子が私の視聴覚へと伝達されている。迷宮公に、魔術のつながりを分断するような御力がなかったことは幸いと言えるだろう。

数百年の間、今の所変化が無い青空よりも迷宮内部の様子に多めに意識を割り振ると、まず最初にリューノ殿のつぶやきが漏れ聞こえてきた。

「どうやら、ランタンは不要な様ですね。手が空くので助かります」

彼はそう言って、盾を掲げた態勢で油断なく迷宮公の口腔、いやエントランスホールと思しきエリアへと先頭にたって足を踏み入れる。そこは、閉鎖空間である迷宮とは思えないほど、十分な光量が確保されていた。

灰黒の滑らかな壁は、王宮などの高度な石工仕事を遥かに上回る平滑さで、天井にはおよそ人間の手のひら大ほどの円が複数等間隔で存在しており、おそらくは人間の視覚でも見通しが利くのに十分な明かりがそこから供給されていた。

「壁……も、まるで見たこと無い素材と構造です。学園で見た魔術装置にも雰囲気は似ていますけれど」
「はい、はい、不用意に手は出さないでね。観光とは違うんだから」

思わず手を伸ばして壁に触れそうになったワトリア君を、私が制するより先にシャンティカ君がとどめてくれた。いきなり罠があるとも考えにくいが、だからこそ警戒しておくに越したことはない。罠とは、その様な思考の裏をかくものである。

「あ、はい。気をつけます」
「よろしい」

小型の竜であれば十分にくつろげるサイズであろうエントランスの壁には、あたかも血脈の様にぼんやり薄緑に光るラインが幾何学模様を刻んでおり、中央には来客をいざなうかのように一本の通路が伸びていることが確認出来た。実際のところ、私も現場にいれば手を伸ばさないという自信はない。公の体内は非常に興味深い存在だった。

「でも、なんだか事前に想像していた感じと違っていて、不思議な感じです。生体迷宮って二つ名ですから、こうもっと生き物の中みたいな感じかと」
「そんな感じだったら、正直入り口で引き返してたかもね、私」
「ちょうど、『蠢く深き高き山のオウグトエル』の中に放り込まれた時は、ワトリアさんの想像していた様な感じだったな」
「そういうのも実在するの?この世界の中だけでも、十分すぎるほど不思議が一杯だわ」
「その時の話は時間があれば。グラス公に話を戻すと、私の伝え聞いた所によれば、たとえ地に刻まれ、動かざるとも、理知を持ち、言葉を理解し、意志を示す。であれば、生きているに違いない。そう考えた古代の人々が、生きている迷宮、すなわち生体迷宮と公のことを呼び始めたそうだよ」

自律した意識を持つのであれば、生きているという解釈はなるほど素朴な感性を持っていた当時の人々由縁のものらしい。だが、彼の構造は現代における『生体』の定義からは大きくかけ離れている。

【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第十三話:終わり|第十四話へと続く第一話リンクマガジンリンク

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