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マン・ハンティング・ウィズ・ポスト・アポカリプス 4

 奥ゆかしい危険感知アラート音が寝落ちしていたエンジを叩き起こした。
2Dレーダーが示すすぐ後ろに迫った凶器に向けて左腕のオルタードカーボン製シールドを突き出す。高速回転する何かが衝突したのか激しく火花が散って正面の視界にさえ映る。

「まったくクソッタレな目覚ましだぜ」

 コーデリアはというと、この騒ぎですら振り向かないほどにタイピングに集中している。いわゆる過集中という状態で、優れたエンジニアにはよくある現象だ。エンジは彼女の英才のほどを再確認すると左腕に反動をつけ無限軌道を高速回転、脅威から身を離す。

「まさか小娘一人に追手か?」

 機体を振り向かせたエンジの視界に入ってきたのはブルーブラックの球状装甲でフレームを覆った大型の外骨格式パワードスーツだ。もっともこのご時世で装甲をゴテゴテ張り付けて動かすのは困難なため、パイロットの乗るバイタルエリアはフレームだけでスカスカ、と言うのがお約束であった。当然、敵であるいかついスキンヘッドのデブと視線が合う。

「そいつはこっちのセリフだファック野郎、まさか小娘一人のために男三人バラすイカレトンチキが本当にいるたぁ思わなかったなぁ!?」
「ハッハ!あんなヤツラいくら減った所で経済に影響なんてありゃしねぇよ!」

 エンジのサイコパス挑発に激昂して搭乗機が握るドリルメイスを振るうスキンヘッド。風切り音を立てて高速回転するドリルメイスをとてつもない強度のオルタードカーボンシールドで打ち払う。その表面には傷すらついておらずツヤツヤのままだ。

 二度弾かれてなお果敢にドリルメイスを振り下ろすスキンヘッド。もちろん強固なのはシールドだけで何度も撃ち込まれて敵のサイズ相応の重量圧をかけられればただではすむまい。受け続ければ恐らくは機体フレームの方がひしゃげる。

「ヨー、禿げ頭、その社章『ヒトサライ・ソーシャルサーヴィス』だろ?」
「俺達の事を知っててたてつくのか!?だがテメェは連れ帰らずにここでひき肉にしてやらぁ!」
「いーやぁ、俺は親切だから教えてやるよ。お前の会社、もう潰れたぜ」

 エンジの煽りに目を向いて怒り狂いドリルメイスの圧を強めるスキンヘッド。

「そんなわけあるか!俺が出勤したのは今朝のことだぞ!」
「ウソじゃないぜぇ……?何故って『ヒトサライ・ソーシャルサーヴィス』は昼前に俺が経営陣のアホ共を皆殺しにしたからなぁ!」
「ハ……ハッタリだ!そうに決まってる!」

 組み合ったままコクピットシートにマウントされた通信機にコールするスキンヘッド。誰か社内の者が出ればウソだとわかる。1コール、2コール、5コール、10コール……誰も出ない。誰も。

「う、ウソだ嘘だうそだ嘘だ嘘だ嘘だう……ッ!」

 自身の帰る場所がなくなった現実に耐えかねて半狂乱になるスキンヘッドのこめかみに小さな穴が開き、男は即死した。エンジの手には銃。空気圧縮された大気を解放して銃弾を放つ、エアガンである。

 この時代において薬莢に込める火薬は極めて貴重な資源であり、企業でも取得は非常に困難となってしまっていた。外骨格式パワードスーツのコクピットシートがフレームだけで装甲がついていないのは重量の問題のほかに、資源量、それも装甲材の不足と銃弾が流通していないという二つの切実な問題から来るものであった。

 エアガンは火薬式銃の代替となりうるものではあるが、射程、連射性共にきわめて悪い。こうしてブザマを晒した間抜け相手でもなければ当たらないだろう。もっとも、この手の間抜けはしょっちゅういる事こそエンジがエアガンを携帯している理由である。

 銃撃を警戒してコクピットを覆うよりも四肢を装甲で覆って近接戦闘の盾にした方が良い、というのがこの時代における定石なのだ。故に裏をかいてパイロットを射殺出来るエアガンはエンジの好みカードの一種類であった。

 スキンヘッドの死を視認するとエンジは敵対パワードスーツをハッキング、セキュリティをあっさり突破するとパワードスーツ自身の腕部でもってスキンヘッドを大地に投げ捨てさせ、メカホース三頭と同様に無人の状態で随伴させた。

「お仲間の玉無し共にヨロシクな」

 プリケツを晒した哀れな死体に吐き捨てるとエンジは自身の機体を自動操縦に戻す。コーデリアは未だにモニタに視線を向けたままタイピングを続けている。凄まじい集中力だ。エンジは舌を巻いた。

「コイツは拾い物かもなぁ」

 日はまだ高い。だが拠点である「有限会社ホワイト・アーコロジー」まではあと一息であった。

【続く】

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