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冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第ニ十ニ話 #DDDVM

その大広間は端的に言えば、神殿の類の深奥に存在する祭壇のような印象を受けた。私がくつろげるほどの空間には、そこかしこに謎めいた祭器が翠緑の命脈を伴いちかちかと光を放っている。

「ここは一体……」
「わかりません、でも重要な場所ではありそうです」
「ちょっと待っていてくれたまえ」

何か歴代の門番達がこの場所について書き記しているかも知れない。
その可能性に思い当たった私は、持参した資料を宙に開く。

複数冊をまとめてページを流していた中から、それらしき記述はすぐに見つかった。

―――――『グラス公が冗談めかして語るところに寄ると、あの物々しい祭壇は彼の臓腑であるとのことだ。人間と同様、そのお体の維持と制御にまつわる内蔵が集約されており、害されるのは少々困ったことになるという。もっとも、そのいずれも公の肉体と同じ石で作られており、私達のような凡百の兵に与えられた武器では傷一つつけられる事はないだろう。竜種素材を使った英雄のための武器でもなんとかなるかどうか。つまるところ彼の地に再びたどり着けたとして、我々に公を害する手段などない訳で……』―――――

「ふむ……」
「先生、何か手がかりが?」
「推測の段階だが、ここはともするとグラス公の内蔵を収めた部屋かもしれない」
「であれば、ここにある祭器が破損していたとすれば公の死因として結び付けられるのでは?」
「それよ。経年劣化で壊れたなら自然死って主張できるんじゃない?」
「ですね、手分けして調査しましょう」
「わかりました。ですが重要な場所ということは使い魔達が集まってくるかもしれません。お二人とも余り私からは離れないでください」
「了解です」

それぞれ散らばって不整脈のように瞬くトロフィーや樽形状の器官を順に見定めている面々。そのいずれも目に見えた破損はなく、我々の理解を越えた壊れ方なのでは……そんな事を思った直後に、ワトリア君の眼鏡を通して私にも明らかな異常が飛び込んできた。

それは人間族が手を清めるのにつかうボウルを竜種向けに拡大したような器で中には元は真球だったとおぼしき玉が収まっている。元は、というのは、その玉は頂点からドロドロと溶かされ破損した事が明らかな痕跡が残っていたからである。駆け寄ってきた二人に対して、ワトリア君の制止の声がかかる。

「あまり近寄らない方が良いと思います。直感ですが、この液体はとても危険な匂いがしますから」
「うん、まあそうよね……この石を溶かせるのがただの酸だなんて思えないもの」
「この強度の物体を侵食する液体、もしや侵さざる領域のベラカクトラ由来の物では?」
「なるほど……ベラカクトラ君の雨か」

雨竜ベラカクトラ君は、私よりも少々若輩の竜だが、その名は竜にとどまらずあらゆる種族に畏怖と共に知られている。理由は簡単で、彼女の意志とは無関係にその身から分泌され、雲と交わって降りしきる『雨』がありとあらゆる物質をとかし尽くすからだ。

故に彼女は生ける者のいない荒廃した砂漠の中央でたった一人ひっそりと暮らしているという。彼女と唯一交流ができる岩竜によれば、砂漠の砂でさえ溶解し、彼女の住処は液溜まりの湖のようになっているという。

これでグラス公の死が他殺であることが明確になった。だがそれは同時に、犯人は如何にして万物溶解の雨垂れをここまで持ち込んだのか、という厄介極まりない謎を提示したのであった。

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