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魂の灯 -28- #ppslgr

女性客が行き交う着物店の中で、居所なさげにブラブラと商品を見ていたバティの所にようやく、ノアが戻ってきた。後ろからかけられた声に、ワンテンポ遅れてその事に気づく。

「お待たせ、待ちくたびれたかしら?」
「ああ、いや、別にそんな事は……」

振り向いた先に居たのは、端的に言って隙のない美しさだった。
女性の衣装替えについては十分破壊力が増すことをバティも重々承知していたのだが……否、していたつもりだったのだが、ノアはその上を行ってきた。

藍の布地に、星々がきらめく様な誂えの着物をそつなく着こなし、夜よりも深い黒髪は普段のツーサイドアップから結い上げて華めいてまとめられている。帯も着物に合った色合いの物が選ばれており、文句のつけようのない愛らしさといってよかった。

「待ってない、よ?」
「フフン、お似合いすぎて褒める言葉も出ないって事かしら?」

間の抜けた返しに、自信満々でバティの眼の前まで寄ってくるノア。その様子を店主はニコニコと見守っている。

「あー、その、なんだ……急にこんなシチュエーションになるなんて思ってなかったから気の利いた言葉なんて、出てこないよ」
「フーン?でも、歯の浮つく様なお世辞よりよっぽど良いわ、その反応。さ、行きましょ?着替えは別に包んでもらったから、このまま外に出られるし」
「やっぱり買うんだ……」
「ここまでしてもらっておいて、買わないほうが失礼じゃない」
「そうだね、その通りだ。店員さん、これいただきます」
「ありがとうございます」

値札を手に取り、レジに回った店主に対し、バティは心臓をいい意味と悪い意味の両方で高鳴らせながら押し付けられた黒いカードを差し出した。これで残額が足りなかったらダサいにもほどがある、などという危惧はあっさり空振りに終わり、レジのデジタル表示に映った残額表示を見てバティは四度目を剥いた。AIの交遊費にこんな金額が必要なんだろうか。オレが一年慎ましく暮らせる金額じゃないだろうか。そんな風にも思った。

「ありがとう、店主さん。また来るわね」
「こちらこそ、お買い上げいただきありがとうございました。何かお困りになりましたら何なりとご相談くださいね」
「ええ、大事にしたいもの。さ、行きましょう」

スムーズに会計が済んだことに満足したのか、ノアは改めてバティに腕を絡ませると自身の荷物も彼に預けるままに並んで歩きだした。

「行くって、今度は何処に行けば」
「普段、私が管轄していないジャンルに行きたいの。アイドルとか、Vtuberとか……その辺りは私の担当だから、ちょっと食傷気味なのよね」
「ああ、だからアイドルなんだ」
「そういう事よ」
「じゃあ、アレだ。料理系とかのエリア行かない?オレ、腹減っちゃった」
「そういえばろくに何も食べてなかったじゃない、良いわ、そうしましょう」
「ありがと。というかそっちは食事取れるの?」
「ふふ、どっちだと思う?」

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