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『まんがでわかる クライオニクス論』レビュー

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『まんがでわかる クライオニクス論』 
未来を拓く新技術 実用的クライオニクスへの挑戦

橋井明広 (原作), 清永怜信 (監修),  高原玲(漫画)

クライオニクスとは耳慣れない言葉ですが、簡単に言えばSFによく出てくるコールドスリープ技術のこと。恒星間旅行をする宇宙船には必須の技術ですね。
人間の寿命をはるかに超えた時間を冷凍睡眠(冬眠)状態で過ごし、然るべき時に目覚めよう。という技術のことです。その手のSFにごく普通にばりばり使われています。

単純に低温状態にして生命活動を低下させ(たり氷漬けにしたりし)て、あとからお湯でもかけて解凍すれば生き返れそう。なんて、まるで干し椎茸や乾燥昆布みたいなイメージを持っていましたがトンデモナイ。人体にそういうことをすると、各細胞(特に脳細胞)に致命的なダメージを与えてしまうので、簡単にお湯で戻すようなことはできないそうです><
(あたりまえ)

SFでは基礎技術として簡単にさっくりできることになっちゃっていますが、実は途方もなく難しい技術なのです。

と、言うことが、まず本書の前半でがっつり語られます。

そうです、この本、マンガなのに(というのも変ですが)めちゃくちゃガチな本です。

ストーリーとしては、主人公の女子高生が、『ゲド戦記』の『さいはての島』を読んで、お話に描かれている生命観に疑問を持つところから始まります。ゲド戦記に限らず、古今東西のお話に登場する「永遠の命」は、追い求めても手に入らず、手に入ったとしても呪いの対象だったり、なにかしら「悪いこと」と見なされていることが多い。ということに気が付くわけです。
「限りある命こそが美しい」という銀河鉄道999でよく聞いたアレですね。(ゲド戦記もってこなくったって999出せばいいのに、って思ってたら後からマモーと一緒に出てきました。ファンサービスかな?w)

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恐れ多くもディオ様までw

個人的にはもっとSF読んでちょうだいと思うところですが、ともあれ、生き物ならば「もっと長く生きたい」と思うのは当然だし、不老長寿や不死を目指すのは自然のはずなのに、なぜどのお話でも「不死は悪」なのか。
(これまた個人的には宗教のせいな気もしますけれど)

そこから、彼女はクライオニクス=生体凍結保存技術に興味を持ち、生物部の仲間と調査をすることになるわけです。

なので、本書はSF的な宇宙旅行で使うイメージのコールドスリープ技術というよりは、もっと医療的な「現在の医療技術で救えない患者を凍結保存して、未来の技術で治療する」方向で調査をすすめています。(そもそもSFのコールドスリープは、そうした技術の「応用」として本来は描かれていました。あんまりよくつかわれているものでそっちが本当の用途と思えてしまっていただけですねw)

さて、先ほどもふれましたけれど、本書は本気でガチです。

そして女子高生たちが優秀すぎますw

現状の調査から問題点、技術的課題、社会的反応などをめちゃくちゃ本格的に調査・考察します。

実際、この本のもとになった『クライオニクス論―科学的に死を克服する方法』は立派な学術書ですし、最初はその本を女子高生たちが読みとく(というのもすごい設定だけれど)という構成なのかとおもっていましたら、そうした部分は、全六章中のわずか一章分(第三章)で終えています。

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後半では原書の『クライオニクス論』を超えて、「難しいのはわかった、では、どうしたらいいのか?」までガチで描かれていて大変ためになるのです。

とくに大切な人体の『脳』の記憶のしくみについて科学的に掘り下げて、その構造を破壊しないで凍結するにはどうしたらよいのかという点をとても丁寧に解説してくれます(後半は専門家の先生が登場して女子高生たちに解説してくれます。(理解できる女子高生もすごいけど先生もすごいw))

もちろん、現時点で完璧な凍結はまだ難しいのですが、将来の技術では不可能ではなさそう。こんな優秀な女子高生たちが研究者になってくれたらクライオニクスの未来も明るいわ。なんて思えてくるのです(ちょっと違う?w)

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さて、最初のテーマ「永遠の命は悪か?」について。

本書は「脱DNAプロジェクト委員会」という会が主体となって作られたようです。クライオニクスについての研究会のようですが、「脱DNA」っていったい何でしょう。

従来の科学界では、人類や生命はDNAの乗り物とされていました。個々の生物は寿命を迎えて死んでしまうけれど、DNAだけは世代を超えて受け継がれていくので、人体は単にDNAの乗り物であって、ヒトの一生は次世代へDNAを送り届ける行為に過ぎないというやつです。
恋愛も、子孫を残したいという本能もすべてDNA様の命令であって人間生命には自由意志など無いのだよフハハハハ。というやつ、ちょっと前に流行った『利己的な遺伝子』なんかもそうですね。

かつては寿命はカミサマが決めてくれたもので、それをまっとうすることこそが正しく、カミサマの決めたことに反抗するなんて悪でしょ。そもそも無理だし無駄だし挑戦なんてしないほうがいいよ。とされていました。それが今まで数々の物語で描かれた不死にたいする教訓だったわけです。ここでいうカミサマってのはつまりDNAのことですね。
でもそれは科学が未発達だった時代の話で、ほんとうの意味で不可能だったからに過ぎないのでは?
いまや、人体のゲノム情報ですら解析できる時代です(それもまた宗教・倫理的な問題がはらむわけですが)
科学の力で、昔から「物語」を使ってまで抑え込んできた寿命という呪縛を、DNAの乗り物にすぎないという考えを脱しよう。というのがこの会の趣旨なのだそうです。

そのための手段がクライオニクス技術なのですね。

なので、間違った方向で(脳細胞を破壊して保存したって意味ないじゃん)推し進めたり、安易に氷漬けにしたあとお湯でもどせるんじゃないの? 的な無知な誤解を広めたりするのではなく、しっかりと科学に立脚して、可能性のある方向を指し示し、かつ、女子高生でも(ほんとかな?w)理解できるように分かりやすくマンガで描かれたクライオニクスのバイブルがこの本と言えるでしょう。

いや、マジでためになりました。これは良いネタ本になりそう(そっちかいw)

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なんとKindle版がUnlimitedで読み放題対応しています。ありがたや~☆

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