『白熱光』レビュー
『白熱光』
グレッグ イーガン (著), 山岸 真 (翻訳)
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グレッグ・イーガンですよ。ハードSFですよ!!
いやあ、すごかったー。堪能しました~☆
奇数章
はるか未来の銀河系、人類はとっくにポストヒューマンでトランスヒューマンしてまして、暗号化されたデータ信号に変調されて光の速さで銀河中を飛び回り、バーチャル世界とリアル世界の行ったり来たりはあたりまえ、どんなところでも好きなように仮想化も実体化もでき、好きなだけ存在(永遠に生きられる)できるという、もうほぼ究極の存在になっています。
ただし、データになっても光速の壁はこえられませんので、銀河平面のどこへでも行けるとしても、平気で片道何万年とかかかかってしまうというタイムスケール(銀河系・直径でググってね)で生きているわけです。
そしてもう一つ、銀河の中心部だけは例外です。バルジとよばれるこの銀河が膨らんでいる一帯はだけは通常の暗号化されたデータ通信が通過できないため、その部分を大きく迂回して旅するしかありませんでした。
このバルジをのぞいた銀河平面は多くの種族が共存しているため「融合世界」と呼ばれ、バルジに存在すると思われる、謎めいた孤高の存在は「孤高世界」の存在と、融合世界からは呼ばれていました。
なにしろ何万年でも好きなだけ生きていける人々の社会ですから、いまさら新しい発見や冒険なんて融合世界にはなにもなく、数千年単位で退屈しきっている主人公。
そんな彼のもとへ、ある日、「孤高世界」から不可思議なメッセージを添えた使者が現れます。銀河の反対側の「融合世界」から、非暗号化通信で「孤高世界」のバルジを超え、ショートカットをしてきたという彼女(?)は、生物のDNAに由来する物質が付着していた隕石を、孤高世界内で調査させられたと主張したのです。そして、その調査の継続を主人公に依頼したいと。
非暗号化通信ですから、途中で傍受されるのは当然。生の生体情報や知識・記憶もろもろすべてのデータは「孤高世界」に情報として取り込まれてしまっていて、場合によっては書き換えられてしまっている事も否定できないのです。そもそもすべてが嘘で彼女の存在自体も「孤高世界」からの「釣り」情報かもしれません。
そんな彼女のもたらした冒険へのいざないは、はたして信用できるのか?
そして、バルジに入るということは、彼自信のデータも非暗号化して「生」データとなる必要があるのです。(ということは、もし無事に出てこれても改変されていないという保証はなくなってしまいます)
何もしなくても何万年でも安寧に生きられる生活を捨てて、冒険の旅に出でいいものか悩む主人公。
まあ、冷静な友人たちの制止を振り払って、けっきょくは冒険の旅に出ちゃうわけなのですけどねw
と、いうのが、まだまだこれで第一章です。
この後、1・3・5・・・と、奇数章はこの冒険と探索の物語が進むのです。それはそれで、しっかりハードSF冒険譚でよいのです、が……。
なんとこの小説、奇数章と偶数章でまったく違う視点のお話が語られています。
偶数章
偶数章は、奇数章の主人公たちが追い求めている、孤高世界内部に取り残されているDNA由来生物の非常に異質な視点から、自分たちの存在する世界の謎を解き明かす探求の物語がつづられます。
これがまたすごいのなんの!
DNA由来の生物とはいえ、人類とはぜんぜん異なる形態の生物(貝のような殻をもち、男性は6本脚、女性は生殖のためにもう二本触手がある。そして全体的に「透けて見える」)が偶数章の主役。
住人から「スプリンター」と呼ばれている、彼らの生きる場所は、岩の中を大小さまざまにくりぬかれた空洞の世界。そして、その岩も住人同様半透明に透けているため、すりガラスのなかをくりぬいたようなところです。その世界を「白熱光」と呼ばれる光がまんべんなく降り注いでいます。
どうやらこれは半透明な岩でできたスペースコロニー的な内部の話なのだろうと読者は想像しますが、住民はもちろんそのような事実を知りません(何世代も前に自分たちの由来は忘却してしまっています)。
そんな中、スプリンターの4方向それぞれでちがうという「重さ」に着目した老人が、聡明な女性を仲間に引き入れ、スプリンター世界の謎の解明に乗り出すのです。
スプリンター内4方向の「重さ」の分布地図
このころのスプリンター住人の科学知識のレベルはせいぜい天動説以前の状態。そして、白熱光に満たされている岩の中なので夜空なんて概念もなく、天体観測も不可能。そんな世界の中で、「重さ」からはじめて、「動き」の不思議さから、人類が物理法則と読んでいるような「なにか」を見つけ、幾何学を発展させていきます。
これがもうなんとも知的にエキサイティング。
物理法則の発見から、計測・観察・実験・考察と、ていねいに理屈と計算で積み上げていきます。これはもうアイザック・ニュートンの「プリンシピア」の完全異世界版じゃん!
そうか、それで4方向に重力がちがうんだ! なんて、読み解きながらユーレカ! と叫びたくなっちゃう。
科学歴史好きには超燃える展開がつづきます。
そしてそして、いつしかニュートンの物理学を通り越して相対性理論にまで踏み込んでいき、え? そうするとこの「光」って? あ、それで岩が透けて「見える」わけ? などなど。物理科学のセンス・オブ・ワンダーが驚異的な厚みで畳みかけてくるのです。
さすがは現代のハードSFと言ったらこの人というイーガンさん。この偶数章だけで普通の(?)ハードSFの何冊分にも匹敵する情報量でした。すごいわー。脳みそ疲れましたけど、なんというか心地よい疲労感ですw
奇数章と偶数章、最期まで読みとけば、双方ともに同じテーマなのに気が付けるのも良いですね~。
一冊で二冊分の、いや、どちらも普通の何倍も詰まった、とても濃い読書体験のできる良書でありました☆
☆ ☆ ☆
オマケ
実はこの本、
こちらの記事のコメントでほりまさたけさんから似ていると教わり、「これは読まなくては!」と読んで見たのです。
確かに表紙の絵と、世界の中から宇宙を知ろうとする行為は似ているかもw
(パクりじゃないですよ!w)
※文庫版も出ていますが、表紙絵が違っているので、あえて新書版(昔の銀背風のやつ)をぽちりましたw
↑こちらですね。
記事の中で、あつ森宇宙の理解はたいへんだわーなんて、ついつい弱音をはいてしまっておりましたが、スプリンター世界の住人のほうがはるかに大変な無理難題な宇宙を解いていたぐらいなので、読みながら私もがんばらにゃーとおもった次第でありますw
あつ森で夜空を観測しながら白熱光を読むのはなんとも素敵な体験でしたw
ゲーム内でも不可思議なスプリンター世界の住人になったつもりで夜空を眺められますw
ハードSFにインサイドできちゃうすごいゲームですね、あつ森ってw
この光ってもしかして、そもそも光じゃない? とかねw
まあそのあたりは、またいつの日か理論化できたら記事書いてみようとおもいます。がんばろっと(`・ω・´)ゞ
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