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『数の女王』レビュー

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『数の女王』

川添 愛 著

お話は、邪悪な呪いの使い手である王妃が支配する王国から始まります。
残忍な王子を溺愛することをのぞいて、あらゆる者は王妃の呪いの対象になっています。(夫である王様も当然憎しみの対象です)
そして、実の娘である美しい姉姫と、孤児としてもらわれてきた赤毛の養女、主人公のナジャも、多くの使用人同然の扱いでこき使われており、小さなころから王妃の命令で謎の「計算」をさせられていました。数年前に起こった「惨劇」の夜まで。
その惨劇で、仲間の数え子と呼ばれる計算人たちは全員殺され、姉姫は行方不明になってしまいます。
それからというもの、ナジャは恐ろしい王妃の視界に入らないようひっそりと、己の感情すら殺して生きていました。
そんなある日、魔法の鏡の中にナジャは入り込んでしまいます。そこでは、5人の妖精たちが、王妃の命令に背けず、無理やりに、あのナジャたちが以前やらされていた計算を高速で行わされていたのです。妖精の言葉によれば、それこそは王妃の行う「呪い」のための計算なのだそう……。

これはすごい!!
もうほんとスゴイとしか言いようのないすごさ!(語彙無し)

あれですよ、いきなり他の本でもうしわけないですが、アーシュラ・K・ルグインの『ゲド戦記』って超名作があるじゃないですか。すべての生きとし生けるものが持つという本当の名、「真名(マナ)」を知るものは、その名の相手を支配することができる。という根本設定があって、それによって世界が構築されている壮大なファンタジー作品が。

この、「真名」が言葉ではなく、数だったら? それってどんな世界?

一見単純な問いですが、そこから編み出される世界は、ほんと、ものすごいのです(語彙無いなあ><)

すべての人や妖精や神々が持つ生まれつき定められたユニークな数のことを、この話では「運命数」と読んでいます。
つまりその運命数が真名にあたるわけですが、単なる言葉ではなく数であるということは、それは、つまり、「計算できる」のです。
その計算こそがこの作品を司る「魔法」であって、そしてそれはこの世界の根本原理なんです。
これはしびれます。よく独特な魔法の原理を採用して、作中で解説しているファンタジーがありますけど、この世界の魔法の原理は、ズバリ数論・数学です。つまり、現実世界でも通用する理屈なんですよ!

お話の中で語られる魔法はすべて、検算できるんです!
手元で計算してみて、ああ、やっぱり、ほんとうにそうなる。って理解できるんですよ。魔法が!!
これってすごくない? すごいでしょ? このトリハダ感、わかってくださいます?w

主人公の少女ナジャと共に、最初は基本的な「素の数」(素数ですね)を運命数から割り出す「魔法」を知り、段々と高度な計算と数論の奥深い世界へ読者はいざなわれて行きます。

現実の世界と同じ「数」の世界ですから、もちろん現実の計算の奥深さがそのまま味わえます。

そしてそして、単なる学習書のようなつまらない説明ではなく、本当に物語が楽しめるんですよ。
数の世界の不思議さに触れ、奥深さを知り、キャラクターたちの文字通り運命を掛けた命がけの冒険、展開、クライマックス。ナジャの成長に寄り添うことで、いま、現実世界で経験している自分の人生をかえりみる。
そして、この世界の奥底にも、自分の人生にも本の中の世界と同じ魔法のルールが息づいていることに気が付けてしまって……

再度、トリハダですw

いやあ、よくできている本でした。

へたな数学本より楽しく数論が学べ、ロマンを味わえて、へたな宗教書よりよっぽどわかりやすく人生の仕組みが学べてしまい、そして、たんなる夢物語ではなくすべてが「証明できる」。

どうです? すごくない? すごいでしょ?w

四則演算だけでなく乗算もわからないと後半ちょっと辛いですが、それさえ分かれば十分ついていけるのもすごいところ。頑張れば小学生でも、中学生レベルならしっかり理解できる内容になっています。
※ナジャは13歳です。(13歳にしてはあったまいいんだけど!)彼女の視点になれる感性の持ち主ならば、最初の学力は問題ありません。

ほんと、全人類におすすめの、最高の数論ファンタジー小説でした。ほんと、おすすめよ!

(興奮すると語彙がなくなる私です)

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ちょっと追記
この著者の川添 愛さん、以前『白と黒のとびら オートマトンと形式言語をめぐる冒険』という本を書かれており、私も『らせんの本棚②』でレビューをしています。その後もチューリングマシンやオートマトンを題材にしたファンタジーを書かれています。どれも興味深くて面白いのでおすすめです。
デビュー作の『白と黒のとびら』あたりはストーリーよりも題材となった理論の説明を重視したパズルのような本になっていましたが、今回は理論だけでなくテーマとストーリーがうまく融合していて、ほんと楽しめました。あらためて、すんごく!ちょーおすすめです!(語彙w

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