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『図書室の魔法』レビュー

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『図書室の魔法』

ジョー・ウォルトン (著), 松尾 たいこ (イラスト), 茂木 健 (翻訳)

おもしろかったー!

本好き、SF好きにはたまらない本でした。特に小さいころにまわりから孤立してしまっていて、本をむさぼり読むことで自分のアイデンティティを確立したような経験のある人(ってアタシのことかよ!?w)には最高にハマる小説です。

舞台は1979年~80年のイギリス、15歳の少女モリがウェールズの田舎からイングランドに引っ越してくるところから始まります。

日記形式で書かれているので前提となる物語の背景が当初読者によくわからないのですが、読んでいくうち、彼女の半身とでもいうべき双子の妹がすでに亡くなっており、本人も足に障害をかかえ杖なしでは歩けなくなってしまっているらしい、ということがわかってきます。
そして、どうやらその事故(?)の原因となったのが、モリたちの実の母である狂った魔女の仕業だということも……。
モリはそんな母から逃げ出し、離婚同然に別居していた父親に引き取られるのですが、今度はまるで監獄のような全寮制女学校に入れられてしまったのでした……。というなんとも厳しい状況。

自然に囲まれた田舎の生活から、お嬢様系の寄宿学校へ。周りはくだらない噂話やら身分格差のいじめやらに明け暮れる女子だらけで、知性派の彼女は完全に異質な存在。まったくなじむことのできない学園生活。
理解してくれる友人もなく、なんとか自分を保つために独り図書室にこもり、手当たり次第に(おもにSF小説を)読んで過ごすモリ。

SFと言う普通ではない視点で物事を見ることを知る彼女の周りには、妖精(フェアリー)が姿を現し、時には言葉を交わすこともあります。そして、魔法も。

魔女・魔法・フェアリー、全寮制の女学校とくると、なんともファンタジックできらびやかな雰囲気と思われるかもなのですが、前述のとおり障害をかかえて孤立した少女の乾いた視点から見える世界はとってもシビアで過酷です。
フェアリーたちもたいていは醜い姿で現れ、人間には理解できない理屈で動き、まともに意思疎通できることはごくごくまれ。ファンタジックな魔法というよりもなんだか現実めいています。

そうそう、この本(というかモリの日記)ではその魔法の解釈と表現がとても巧みなのですよ。
本気で信じている者にしか見えず、感じられず、信じる者にとっても効果があったのかないのかもわからない。決して万能ではないけれど、それでも実際に存在する魔法。そして意図しない反作用の恐ろしさ。

この、理屈はわからないけど存在する「何か」を信じられる能力と、現実ではない世界に理屈を加えて物語られるSF小説とに助けられ、灰色だった彼女の生活が徐々に前向きになっていくのです。

他人から見たら、あの母親だって普通の良い母親に見えるのかもしれない。
魔法も見かたによってはまったく逆に見えるはず。(魔法こそが現実、現実こそが魔法?)
まわりの「普通な人々」になじめない、他人から見たらどうしたって異質な彼女は、それでも他人からの視点で自分はどう見えるかをちゃんと理解して、その視点側から考えることもできます。(他人から見た自分は、自分から見た妖精のようなもの?)
とにかく頭が良い子なのです。半端ない読書量のたまものかもしれません。SF創作法のエクストラポレーション(外挿法)や相対的な思考が自然にできている、さすがです。

さて、そんな彼女がさまざまな経験をして成長し、魔法を信じる側と、そうでない側の両方をひっくるめて現実として受け止めた時、その傍らには、ずっと彼女を支えてくれた小説たちと、ようやく巡り合った心許せる愛せる仲間たちの姿があるのでした。

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この本でとても興味深かったのは、上に書いた魔法の表現もそうなのですが(これなら現実にありえそう? と思えてくる)、それだけでなく、仮に極端に無理やり、魔法側、現実側の2方向から見てみると、まったく別の物語に読めるところがこれまたすごいのです。魔法があると信じて読むことも、いやいや全部この娘の妄想じゃない? って思って読むこともちゃんとできる。秀逸な作りになっています。

もちろん、無理やり両極端から読まなくても、その間のグラデーションのどこかで読むこともできます。読んだ人それぞれ違う位置から読める。とてもよくできた本です。

冒頭、著者の覚書には

『この本で描かれているすべての出来事は虚構であり〈中略〉 一九七九年という年も、一五歳という年齢も、地球と呼ばれる惑星も空想の産物に過ぎない。ただし、妖精(フェアリー)はちゃんと実在する。』

と書かれています。良いでしょう? これw

もうひとつ、この本の現実面を補強する(?)ポイントに、実在する(一九七九年~八〇年に読まれたであろう)SF小説の数々があります。あんまりたくさん出てくるので、読みながらメモを取っていたのですが、最後に公式にリストがついてました。これを15歳の少女が読んでるってのがスゴイでしょw そして、それぞれにクールな感想が日記にぽつぽつかかれているんですよ、なんだかそれだけでも嬉しくなっちゃう。

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↑あえてページを重ねてます。まあわかるでしょ?

SF好きなら読んだことある本きっとありますね、それぞれの感想がこれまた的確でいいかんじなので、きっとニヤリとできることでしょう。そして、その本の感想を読むことで彼女の性格がわかってくるという仕掛けもニクイ。J・ティプトリー・ジュニアが女性と知って愕然とするとか、SFファンを喜ばせる当時のあるあるネタもばっちり押さえられています。

原題の "Among others" は、辞書では「中でも(特に)」という意味なのですが、これはきっと異質な環境に放り込まれたモリの孤独を表しているのでしょうね。そんな彼女がどう異界(に見える現実)に折り合いをつけていくか、そんなところも見どころ読みどころかとおもいます。個人的に超おすすめです。

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さてさて、『らせんの本棚』という形でGoogle+のコミュニティで始めた本の感想&紹介的なレビューも、これで(だいたい)601本目となります。思えば遠くに来たもんだ。ずいぶん続きましたねえ。

とりあえず新天地の note で2020年元日に再始動をしてみました。まだnoteの使い方もよくわかっていないのですが、こんなかんじでいいかなー? 例によってゆるゆる進めていければとおもいます。よろしくお願いします~。,,Ծ‸Ծ,,


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