ロキノン系は死んだのか

1.現在進行形の邦楽ロック

7月の上旬だが、渋谷クアトロで行われた「チョーキューメイ」のライブに行った。東名阪を回っており、最終日となる当日はキャパフル状態のとても人気があるバンドだと実感した。

結成は2020年とコロナ禍の最中の若手バンド。ライブも4つ打ちの通例的な邦楽サウンドがメインだが、フュージョンやファンクの系統を受けたであろう、リズム隊のバッキングが聞き応えあり、ボーカルの引き語りも青葉市子みたいな透き通った心安らぐサウンドでとても素晴らしかった。従来の00年代ロックのような一辺倒さは無く、引用元が幅広く久々にしっかりと聞きたいと思う楽曲だらけだった。

ファッションも、ファンとのコミュニケーション方法しかり若者のアイコンとしてロキノン系の系統を弾いたバンドだなと感じた。

というのもこのバンドを聞いた時の初期衝動が、2010年代頭にパスピエを初めて聞いた時と一緒だからだ。高度な鍵盤パフォーマンスと従来の邦楽の枠にハマらない、多国籍なメロディーラインとか、それに何ともこのポップな4つ打ちを聞いてロキノン系の事を思い出してしまった。

ロキノン系はこういう風にアップデートされて継承されているのかと、感じながらもそういえば最近言葉自体聞かなくなった…と思い調べてみると、どうやら死語になっているらしい。

2.そもそもロキノン系とは

そもそもロキノン系とは何なのかと言う話だが、2010年台前半を見てみるとKANABOON.キュウソネコカミ.クリープハイプ.SHISHAMOなどが思い浮かぶ。学生時代はここらへんを聞いていたし、ロッキンノン系のイベントには必ずいた覚えがある。

バンドによっての特色はもちろんそれぞれだが、ここでは2010年代前半のロキノン系を見てみて総称するとこんな感じか

・ロッキンノンジャパンが主催のフェスによく出ている。
・音楽性は90年、00年台のUK.USロックに影響を受けており、キャッチーなサビとメロディーが特徴
・サウンド面だけではなく、SNSを中心としたコミュニティにおける、若者のアイコン的存在。

まぁちょっと強引かもしれないけど、そんな感じだと思う。特に音楽性においてはメロディーラインのポップさに重点を置いており、ギターサウンドが中心のバンドもoasisやgreendayに影響を受けているような、独自性がない印象を今聞くと受ける(Alexandros等)。またバッキングいわゆるリズム隊にグルーヴだったり、所謂ブラックミュージックに影響されるようなバンドはほぼ無かった覚えがある。

3.2015年の転換点

これはあくまで感覚的な話になってしまうが、上記ロキノン系を中心とした、邦楽サウンドが大きく変わったのが2015年だと感じている。というのも以下の3アルバムが世に出回ってから、バンドサウンドの変化が起こった。

・THE BAY (suchmos)
早くも伝説的なバンドとなってしまったが、今思えば2010年後半以降ブラックミュージックサウンドを基調とするバンドの礎的なアルバム。ディアンジェロに影響を受けたgrooveと、90年代のサンプリング手法を入れ込んだ、唯一無二のバンド。

・Obscure Ride (cero)
まさに日本のスフィアン・スティーブンスと言うような、インディーフォークを下地にしながら様々なジャンルをエッセンスとして加え続けてきたが、本作はヒップホップと共鳴するメロウな都会型のサウンドを作り上げた。summer soulを代表とする曲たちは、2010年代の新しいシティポップとして紹介されることも多い。

・YELLOW DANCER(星野源)
上記二つよりも知名度が高く、ポピュラー寄りな作品だが、元々バックグラウンドにあったソウルミュージックを詰め込み、これにより世間的にgroove=かっこいいという印象に駆られた人も多いのでは無いのだろうか。
大衆向けという部分においては非常に重要な作品。

3作に当てはまるのが、70年〜90年代のブラックミュージックに影響を受けており、それをポップスやフォークといったポピュラー音楽に昇華して、楽曲としてリリースしている。実際のところこれ以降の2010年代後半のバンドは、大きいところで言うとOfficial髭男dismやking gnuが中心となり、様々な邦楽ロックの一エッセンスとして多用されるようになり、従来の4つ打ちサウンドであるロキノン系という言葉が使われなくなった気がする。

もちろん全員が全員上記の3アルバムに影響受けているわけでは無いが、サブスクリプションの広まりが始まったのがちょうど同時期。今までとは違い、月額の定額で幅広い音楽が聴くことができるようになったことで、バンドのバックグラウンドが多様化した気がする。音楽を「ディグる」楽しみを、上記3アルバムを中心に示してくれたと感じる。

4.ロキノン系は死んだのか

ということで本題に戻る。ロキノン系は死んだのかという問いだが、去年流行したバンドでconton candyというバンドがある。

これは、間違いなくチャットモンチーからSHISHAMOの系譜を弾いたバンドで、どストレートな若者ガールズバンドだ。確かにメディアの露出含めてアップデートはしているが、曲の本質的な部分はSHISHAMOと変わらない。

川谷絵音が2023年の邦楽について、下記のインタビューで語っている。

川谷:そうそう、Saucyとかマカロニに影響を受けたバンドがもう出てきているっていう。でも結局、クリープハイプが大きい気がします。クリープハイプのフォロワーみたいな人たちが、ここ5年ぐらいずっと出てきているように思いますね。僕らよりちょい下くらいの世代は、クリープハイプを青春時代に聴いて育ったというか。あとはライブハウスとかでやってるバンドだと、最近はKing Gnuフォロワーもめっちゃ見かけますね。そのなかでただのコピーバンドにならないバンドだけが上がってこれるっていう。一時期はSuchmosフォロワーもめちゃくちゃ多かったけど、Suchmos以上になったバンドは一つもなかったじゃないですか。

ローリングストーン誌 川谷絵音が振り返る2023年の音楽シーン 

結局のところ、2015年を起点とするブラックミュージックやシティポップのムーブメントはまぁ局所的な動きであって、じゃあそれが大衆化するというわけではなかった。で、その裏でロキノン系のバンドは、高速で循環しており、次々と影響を受けたバンドが出てきて、若者に聞かれている。

ロキノン系という言葉は多様化する邦楽の中では死んだのかも知れないけど、実際のところ2010年代前半のロキノン系は、15年を起点とする転換がありつつも実質的に形態を変えず、またフォロワーとしてのバンドが次々と出てくることにより、その性質が保たれることになり、まだ生き続けていると感じた。

ただ2015年以降の変化は前述した通り、今の邦楽アーティストのバックグラウンドに大きな影響を与えていて、今回のチョーキューメイをみて感じた通り、UKロック一辺倒の音楽は少なくなったとは感じる。

ちょっと難しくなってしまったが、結局今回見たチョーキューメイがパスピエを見た初期衝動に似てたように、またConton Candyを始めた聞いた時にSHISHAMOを思い出すように、ロキノン系を聴いてきた世代はずっと心の中で生き続けるのだろう。。。ロッキンノン最高。

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