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小学生メンター ミソノ <第2話>

2.和成、気持ちに正直に向き合う

【前回のお話】 1. 小学生メンター、現れる

 ノリノリでスティーブ・ジョブズの話を続けている姿に呆気にとられているオレを見ると、美園はコホンと咳払いをして言った。
「まあ、ジョブズの話はまたの機会にゆずるわ。
まずは、和成、あんたの話。言ってごらん、ゴミ箱を蹴った訳を。言いにくいんだったら、私が言ってあげましょうか?」
「いい!自分で言うから!」
 天使と言っても、こんなに可愛い女子に自分のことを、それも心の内をペラペラと告げられるのは、やっぱり嫌だった。
 言わないとつっぱねても、無理やり言わされることも何となく察しがついた。

「オレ……」
 オレは、ポツリポツリと自分のことを話し始めた。

 学校の学力テストで初めて学年で10位以内に入れなかったこと。
 絶対自分の方が優っていると思っていた相手に、抜かれたこと。
 塾も行かずに自分なりに勉強してきてやってきたこと。
 親が共働きで夜が遅くても、文句一つ言わずにやってきたこと。
 ねーちゃんも大学入学と同時に一人暮らしを始めて、前みたいに勉強を見てくれなくなったこと。

「今回のテストは絶対自信があったんだ。絶対、絶対、今度こそ5位以内に入れるって、思ってたのに。
塾に行っているヤツなんかより、オレの方が出来るんだって、証明したかった。
5位以内に入れば、父さんも母さんも、ねーちゃんだって、絶対褒めてくれるって。
こんなんじゃ、誰も褒めてくれない。誰も見てくれていない」
 最後は、吐き出すように心の内をぶちまけた。
 気がついたら、ほっぺたに水みたいなものが流れていた。
「あれ、何だこれ?」
 頬に伝っている水を手で拭った。

「あんた、今まで泣くことすら、できなかったんだね。
頑張ってきたね。えらいよ、あんたはよくやっているよ」

 そうか、オレは泣いているんだ……
 美園に言われて、初めて自分が泣いていることを知った。
 勉強で負けたのが悔しくて、親に認めてもらえないのが寂しくて、そんな自分に気がついたら、もっと泣けてきた。

「オレ……、オレっ」
 まるで小さいガキの様に声を出して、思いっきり泣いた。
 泣いて、泣いて、泣きじゃくって、そうしたらいつの間にか、優しく頭に手が置かれていた。

 ポンポンポン
 優しく頭かを叩かれる度に、大丈夫だよと言われている気持ちになり、だんだん落ち着いてきた。
 顔を上げると、まるで天使のような笑みをたたえて美園がオレを見ている。

「まるで天使みたいだな、お前」
 涙声で言った。

「失礼ね。まるでじゃなくて、本物の天使よ。お前じゃなくて、せめて美園様と呼んでちょうだい」
「何で“様”をつけるんだよ。美園でいいじゃないか」
 グスッと鼻をすすりながら、美園を見た。その様子を見て、美園はティッシュの箱をオレに渡して言った。
「仕方ないなぁ、まあ、美園でもいっか。私もあんたをカズと呼ぶわ」
「図々しいな!」
「あんたもね!天使を前にして、呼び捨てに出来るんだから、感謝しなさい」
 たわいのない話をしていたら、泣いていたのが嘘のように、笑うことができた。

「だいぶスッキリした顔になったわね。じゃあ、今日は帰るわ」
 いきなり帰ると言い出して、オレは慌てて引き止めた。
「ちょっと待てよ。オレ、ちゃんと自分の気持を正直に言ったぞ。普通は何か助言とかするんじゃないのか」
 オレの慌てた様子を見て、美園は意地悪そうに笑う。
「あら、カズ、あんた私の話に聞く耳を持つの?」
「そりゃ……、やっぱり、これからどうしたらいいか分からないし。天使の言うことだから、一応聞いておいた方がいいし」
 モゴモゴと声を小さくして言う。

「そう、じゃあ私からのお題。私がいいって言うまで、勉強しないこと。これだけ」
「勉強するなって? だって、オレ、学力テストでランク落ちしたんだぞ。それなのに、勉強しなかったらどうなるんだよ!」

「それを考えるのも、今回のお題。また明日来るから、今日はちゃんとよく食べて、よく寝なさいね。じゃあね!!」
 言いたいことだけ言ったら、美園はパッと小さな光を放ち、いつの間にかいなくなっていた。

勉強するなって……
オレは呆然として、しばらく立ち尽くしていた。

<第3話> 勉強するな、を体験する

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