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小学生メンター ミソノ <第5話>
5.和成、腹を括る
大変な事になった。
オレは今、非常に焦っていた。
今は授業中で、しかも目の前には毎月恒例の学力テストがある。
それも算数のテストだ。
なのに、オレはまだ鉛筆を持って字が書けない状態だった。
そう、まだ勉強が出来ない!
おい、美園、いい加減に勉強できるようにさせてくれよ!!
勉強する意味を答えたら、勉強できるようになるんじゃなかったのか?!
心の中でいくら叫べども、梨の礫だった。
もうどうにもならない。
ああ、今月のテストは終わった。
おしまいだ。名前すら書けないから、白紙答案に加えて、名無し答案だ。
テスト中の時間をやり過ごしながら、オレは腹を括った。
いつもなら悔しくて、焦りまくって、テストを受けられないこの事態を恨んで、心の中で美園に悪態を吐きまくっていたと思う。
でも、不思議と心を鎮められた自分がいた。
ふと顔を上げると、右斜め前に座っている立川が目に入った。
既にテストを終えていて、サラッと見直しをしていた。
立川は、今回も学年トップなのだろうか。
今度は図書館でお前と並んで、一緒に本を読みたいなと、呑気なことを考えていた。
学校から家に帰って、自分の部屋に上がりランドセルを置いたその瞬間、声をかけられた。
「言いたい事はある?」
美園だった。
「あるけど、もう、いい。そんなに怒ってもいないし。不思議だけど」
オレは絨毯の上にあぐらをかいて、座った。
目の前に美園もチョコンと座る。
「あんた、ずいぶんと変わったわね。もっと怒るのかと思ったわ。
今日ばかりは、あんたの怒りを受け止めるつもりで来たけど、要らぬ心配だったわね。
耳栓まで用意していたのに、なーんだ」
ちょっと残念そうに、美園は笑う。
「オレも目の前にテストがあるのに、受けられないなんて、夢にも思わなかった。よく考えたら、すごい経験だなぁ」
なんだかおかしくなっていつの間にか笑っていた。
そんなオレを見て、美園は優しげに笑って言った。
「で、どんなことを思った?」
「そうだなぁ…最初はさすがに焦ったなぁ。そうそう、美園に心の中で話しかけたけど、何にもないし。で、ふと思ったんだ。テストを受けるのは、オレの人生で通過点でしかないって。
その通過点で、ギャアギャア言ったって仕方ないだろ。今回は不可抗力だしね。
テストを受けられるってそれだけで、ありがたいことなんだなぁ〜って心底思った。
それに、オレは勉強する事の意味を知ってから、テストよりも何を知識として学んで、それを活用するか、その方が大切なように感じ始めているんだ。
もちろんテストを軽んじている訳じゃないけど、テストが全てでもない。
今までは、テストでどうやっていい点を取るかに重点を置いていたけど、その重点の置き場所が変わった」
思ったことを全て言うと、頭の中がスッキリした。
自分はそう考えているんだと、改めて確認できて嬉しかった。
「素晴らしい学びね。私は嬉しい!」
美園は満面の笑みをみせてくれた。
そんな笑みをみると、やっぱり天使だなぁと実感する。
「もしかして、わざと試験を受けさせないようにした?」
「さあ、どうかしらね」
いつもの悪戯そうな笑みを浮かべて、答えてくれない。
「ねえ、美園。そろそろ勉強をしてもいいかな?」
オレはだんだんと勉強をしたくなってきていた。
「もうちょっと先かな」
そんなオレの気持ちをお構いなしに美園は言う。
「もうちょっと先って、いつだよ!」
「そう慌てなさんな。いつかはもう直ぐ分かるわ。
いい言葉を教えてあげる。
“できないことに気を取られずに、できることをやりなさい。byジョン・ウッデン”
もとUCLAバスケットの名コーチの名言よ。
人間、目の前の出来ることを一生懸命するしかないんだわ。
ということで、お茶入れてくれない?喉が渇いちゃった」
なにが、「ということでだ」
苦笑いしつつもオレは一階に降りてコーヒーの用意をすることにした。
上から美園の声がする。
「ホットのブラックでねー」
「わかってるよ、砂糖もミルクも入れないよ」
声を張り上げて答えながら、美園とのこんな生活もまんざらじゃないなと思った。
(つづき)6、自分の足で立って、行動する
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