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原発再稼働・現場の声を聴いてくれ。

経産省が電力需給のひっ迫を理由に原発をさらに9基再稼働すると発表した。エネルギー自給率を上げるためだ。

エネルギーが足りない。

ウクライナ戦争の長期化によって原油価格の高騰から、私の町にたった一つだけあった私営のプール施設が閉業になった。
そういうことは日本全国で起きているのだと思う。

しかし、だからといって再稼働に踏み切るとは、無策過ぎないか?

電力料金はずっと値上がりしている。電力会社からの節電の訴えは頻繁にツイートされる。資源の乏しい日本においてエネルギー不足は深刻だ。日本が原発を国の政策として導入した時も「無限のエネルギーを手に入れる」という、夢のようなプロパガンダをアメリカから押し付けられて、世論が一気に原発に向いた。信じられないことだけれど、当時は手塚治虫氏だって、大江健三郎氏だって原発万歳と原発の建設を歓迎していた。そういう時代だったとしか言いようがない。

エネルギー資源を持たない国は実に苦労する。資源のない日本が原発に賭けた夢を私は理解できなくはない。よく「なんで放射性廃棄物が出ることがわかっていて原発を作ったのか?」と質問されるが、「当時は、将来は科学が進歩して無害化する方法が発明されるだろうと楽観的に考えていた」と正直に言うと呆れられる。実際、その通りなのだ。いつか誰かがそういう発明をするだろうから……という、そんな感じ。そして原発は作られた。ほんとうだよ。それくらい思考停止させられていた。

さて、3.11の津波と地震をきっかけに大規模な原発事故が発生し、日本は広域に放射能汚染され、いまも福島第一原発の炉の内部で何が起きているかの調査もままならない。事故によって日本は脱原発に舵を切るかと思われたが、実際には多くの国民は「エネルギーは経済にとって必要である」というジャッジを下し、その方針を打ち出していた自民党政権によって民主的に原発は維持された。選挙で選ばれた国会議員の多くが自民党だったのだから、これは国民の決断だ。

しかしながら「原発は危険である」という認識はこの国に住む誰もが持っている。よって、世界一厳しい安全基準が設けられた。基準をクリアできず福島第一原発以降、多くの原発は止まっていた。十年以上使用されていなかった。

原子力発電というものが存在すること事態、とても危険なことだ。それが十年以上、たいしたテロ対策もされずに停止されたままでほとんど放置されていたことは驚きだ。この間に電力会社内部で起きたことは何か? 原子力に関わる人材の減少だ。単なる金食い虫となった原子力を維持するのに企業が人件費をかけるわけにいかない。早い話、この十年、原子力は「寝たきり状態」。原子力技術者は「寝たきり」の原子力の介護をしていた状態だ。多くの現場経験者が退職し、異動し、離職した者も多い。

原子力に進む人材も減った。今や原子力は職場としては超3Kで、あまり先も期待できない。そこにもってきて会社のお荷物的な部署だし社会の風当たりも強い。そんな職場に進みたい若者はそうそう多くはないだろう。また中堅の社員は、もっと忙しい現場へと異動になり、原発現場の人材がどんどん手薄になっているのが現在の原子力の現状だ。

これは原子力技術者から直接聞いたのだが「長期間使っていなかった原発には水の中に藻が生じたりもしており、とてもすぐに使える状態ではない」とのこと。それも察しはつく。検査や点検には人材が必要だが経験豊富な人材はすでに現場を去り、いきなり人員を配置してもすぐには使えない。また原発も年代によって構造や計器が異なり、それぞれに特徴があるため経験者でも初めての原発を作動させるまでにはかなりの時間がかかるという。

政府はこういう現場の状況を理解して9基の再稼働を真剣に考えているのか?いやこの現場の声はきっと届いていないか、届いていても無視されているに違いないと私は思う。

再稼働するなら、まず現場の疲弊した状況を国が調査するべきだ。電力会社の旧態然とした体質はそう簡単に変わるものではない。相変わらずのトップダウン企業だ。上が指示して下にムリをさせるのがあたりまえと思っている。それは最近起きた電力会社の不祥事の数々を見れば明らかではないか。

大切なのは現場なのだ。現場の声が企業にも国にも届いていない。それは福島第一原発事故の頃とちっとも変わっていない。もし再稼働が命令されたら、現場には技術者がかき集められるだろう。ノルマや目標を与えられ昼夜働くことになるだろう。経験者は少なく、原発を稼働させたこともない若手社員が任務に当たるかもしれない。十年以上、眠っていた巨神兵を動かすような、そういう危険な作業になるのでは……と、危惧している。

2011年の事故以降、いったい政府は何をやってきたのだろうか。なぜ代替エネルギーの研究開発に国をあげて投資してこなかったのか。原油が上がることはわかっていたし、放射性廃棄物から燃料をリサイクルするプルサーマル計画が頓挫したこともわかっていた(ちなみに「もんじゅ」のトラブルもほとんどがヒューマンエラー)。十年あればもう少しなにか手を打てたはずだ。もし原発を稼働する気なら、失われていく原発技術者の育成をし続けるように電力会社に指導することもできたはずだ。使わずにほったらかしておけば、人材は枯渇し、現場が疲弊することは誰でも予想できる。

原発再稼働……この現実を受けて、現場にいる技術者がどんな気持ちでいるのか。寝たきりだった原発を検査点検し、動かすまでのことを誰がするのか。人材が減った現実を政府は理解して電力会社に指導しているのか。

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