自然界が優しい
渋谷駅前の地下にある古い喫茶店はまだ健在だった。このあたりは土地開発が進んで古いビルがどんどん消えている。ありがたいことにこの店は地上げをまぬがれて、人とじっくりしゃべるにはちょうどいい暗さをもっている。 ディープな喫茶店は最近少なくなったよな。
久しぶりに会った友人は私の顔をしみじみ見る。
「変わってないね」「そう、年とったよ」「でも変わってない」
変わらないことがいいことなのか悪いことなのか。判断しかねる。
「君も見たところ変わっていないよ」「ありがとう」
「で、用事ってなに?」
「特にない」
そんなはずないだろう、なんか相談がある感じだった。まあ、いきなりは切り出せないんだろう。
「最近、ちょっと変なんだ」「体調が?」「体調もだけれど……」「メンタルが?」「メンタルというか……」「鬱とかかい?」「いやそういういうんじゃない」「恋をした?」「してない。そういうことでもない」
「わかった、どういうふうに変なのか説明して。聞いてから考えるから」友人は、頭の中に散らかった思考を寄せ集めるように目を閉じた。
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