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イタリア・南チロルを歩く  第7回目 Kurtatsch an der Weinstraße/Cortaccia sulla Strada del Vino

久しぶりの投稿


随分とご無沙汰したおしていたこのシリーズ。忘れていたわけでもやめたわけでもない、ただ・・・6月前半は娘が小学校最終学年(イタリアは小学校5年制)で行事が多く、夏休みに突入するや否や今度は8年半ぶりに日本に一時帰国(正直その話を聞きたい感じですか?)そして「これでもか!」と続くおおよそ3ヶ月の夏休みが終わり新年度が始まると「明日やれることは今日やらない」がモットーのイタリア人マインド炸裂で次々とお知らせが子供たちの学校からやってくる顛末・・・記事を書くどころか散策する余裕も一ミリもなかったのだ。ようやく少し事態が収まってきたと思ったら季節はすっかり秋を通り越して、そろそろ冬の足音も聞こえ出した。一番いい季節に身動き取れないとは悪魔の仕業としか言いようが無い。

今回の村歩きは・・・


さて、無駄話はこの辺で・・・今回歩いた小さな村は標高が「333m」と村の入り口にも表示されている Kurtatsch an der Weinstraße(独)/Cortaccia sulla Strada del Vino(伊)だ。
今まで少なからず周辺の名もなき村を一つずつ回ってきた私にとっては、この看板表示は非常にまずい・・・何故ならこの看板を見た時点で

「ここの村、多分観光スポットがない」

と、わかってしまうからだ。。。いや、それは気のせいだよ、きっとある、何かある。今まで「なにか」はあったじゃないか!と自分を鼓舞し、まずは村外れの無料駐車場周辺の景色を撮影し始めた。周辺の村に比べて少し高い位置にあるので景色は最高だ。幸い行った日は秋晴れの気持ちの良い天気で歩いていたら少し汗ばむぐらいだった。

村もゾロ目を前面に推す!


周囲を遮ることなく谷の風景を見渡せるので少しずつ場所を変えては写真を撮っていると・・・

自動車修理工を営んでいるであろうお宅から出てきたおじいちゃんが私のことを


ジーーーーーーーーーーーーーーッ

と見ているのだ。いわゆる「ガン見」っていうやつだ。なるほど、ますますこの村へ訪れるのがサイクリングの途中に立ち寄る観光客ぐらいだということを悟ってしまう。これはシリーズ初で「景色だけを伝えておしまい!」という事になりかねない事態である。


左のお宅の階段から「ガン見」だったおじいちゃんが印象的


いざ散策開始!


多かれ少なかれこのシリーズを始めた時から不安は常に付きまとう。

「書くことあるの?」

なんせこの周辺の村は、各自治体が真剣に「おらが村」の目玉を見出している訳だ。それを知っている私は何故足を突っ込んだろうな?まあ自分が肌で感じたそんな村の様子を読んでくださるコアな方が散歩している気分を味わってもらえたらこの上ない。


村の情報

この村は人口凡そ2200人の南チロルワイン街道沿いに位置する小さな村である。村で話されている言語は97%がドイツ語、3%がイタリア語、ごく少数の人がラディン語を話している。南チロル南部、特にEtsch/Adige川西部のワイン街道沿いの集落の典型的な語学形態だ。かといってイタリア語が全く通じないのかと言えばそうでもないので思い切ってイタリア語でも話しかけてみるのもいい。きっと珍客に驚きながら話してくれるであろう。

さてこのKurtatsch/Cortaccia は11世紀の書簡に初めて登場する。村の名前の由来はラテン語の「curtis:農場」から来ている。当時はここに農家の集合体があり、それが村としての始まりとなっているようだ。時代を遡ると周辺地域と同様に石器時代中期から後期にかけて人が定住していた形跡がある。近隣のRungg村で紀元前三千年紀とされる青銅器時代の「メンヒル」という巨石記念物(モノリス)が発見されている。またこの村の郷土史家Luis Hauserは隣接するFennhalsで精錬炉のある銅精錬所を発見している。面白いのは現在の教区教会の丘の上ではローマ時代の別荘が発見されている事だ。風光明媚だったことは昔から有名だったのかもしれない。更に1860年には現在の聖職者、いわゆる牧師さんたちなどが住む建物で高さ68cmのローマ神話の神メルクリウスを表す大理石の像が見つかったそうだ。おいおい実はすごいんじゃないの?そしてあろうことか、村のシンボル的教区教会が立っているところは実はローマ神殿が立っていたそう。その上に教会建てるとかなかなかやってくれるじゃないか。


村の中心に行ってみる


谷を見下ろすと絶景が広がる

確かに時の権力者やお金持ちが好みそうな絶景である。別荘が建っていたっておかしくない。ゆっくりと坂を登り、村の中心に続く道を歩いていく。

ここが村の中心に続く道である

ふと村の中心に近い駐車場がある広場に目をやると・・・

なんと!我が村にも週1回やってくるチキン屋さんではないか。この村にも来ていたのか。ここの鶏の丸焼きは地味に美味いのだ。あらゆる事に選択肢の少ない地域なので毎週このチキン屋さんが来るのを楽しみにしている住民は多い。

何の変哲もないチキン屋さんだが、お昼時には座るベンチがなくなるのだ

村の中心には・・・


村の中心には、どんな小さな集落でも必ず「ツーリストインフォメーション」がある。開いている時間は限られているが尋ねてみると親切に教えてもらえるのでありがたい。

観光客には「観光案内所」の存在はありがたいのだ。


そしてほとんどの観光客がアウトドア目的で訪れることもあり、ハイキングコースの道標は至る所に設置されている。右も左もわからなかった歩き始めの私でも、この標識の番号と矢印を頼りに歩いて迷ったことは一度も無い。この村を通過して更に上の方に行くコースや、ワイン街道を楽しくハイキングするコースもある事が道標を見るとわかるようになる。

目的地の地名、所要時間、簡潔だが重要情報ぎっしりの道標


そしてこの村を支える小売店が一つあった。小さな村の小売店を決して見下してはいけないのだ。この手の小売店の万能ぶりには正直圧巻させられる。食料、日用品の品揃えはもちろんのこと、常連さんのところへの配達、携帯電話のチャージ、書類のコピーなど出来ない事はないと言っても過言ではないぐらいの「オールマイティ」なのだ。小さな店舗の中にはちゃんと切り売り用のチーズやサラミなども揃っているのだ。因みにこの小売店は1906年創業らしい。

村の中心にたったひとつの小売店

そしてこの辺お決まりの「自分の村だけやと地図の余白が大きすぎるから周辺集落も入れておこう!」という企て。それでも「どーするべきか・・・」と悩ませてくれるこの地図情報!

村の地図


高台はジブリの世界だった?


村の中心はあっという間に終わり、再び坂を登る事になった。ゆっくり少しずつ歩き進めると・・・・


トトロが出てくるバスの停留所みたいなところが現れた。いや絶対「森のなんか」が出てくるところでしょ、ここ!因みにこのバス停は村の老人ホームの最寄りバス停である。老人ホーム建設の際にはローマ時代のコインがたくさん出てきたそうな。多分ローマ時代は「ネコバス」走っていたな。なんて思いながら村を散策しているなど、すれ違った住民と思われるおばさんは思いもしないだろう。

右からトトロが歩いてきそうなバス停


困った事にもう一度思い込んだら「ジブリ」が脳裏から離れない。やはり高台には大きなお家が程よい間隔で建っている。大きなお家、広いお庭、見渡せば絶景。多分この村に住んでいる人って、この辺でも裕福な家庭なのかもしれない。それ故、逆に観光地化されるのは困るっていう人もいるって訳か。。。

アリエッティかキキのお母さんが出てきそうなお宅


そんな空気感を何となく察知してしまい、あまりうろうろ人様の閑静な住宅街を興味本位で歩くのも申し訳ないと思い中心に戻る事にした。中心に向かって歩くと例のローマ神殿の上に建てちゃった教会が見えてきた。時の権力者は見晴らしのいいところを選んでなんか建てるんだよなぁと妙に納得しながら坂を下る。空気は少し乾燥してひんやりだが、日差しはまだまだ元気で汗ばんできた。こんな小さな村をくるりと歩くだけで汗をかく私の運動不足は顕著である。

見晴らしのいい高台から村の中心へ

100年前と変わらない村


村の中心に戻ってきて、ふと建物の壁に目をやると100年以上前の村の中心と思われる写真が飾られていた。えーと・・・・ほとんど変わっていないのですが。これはある意味貴重である。確かにこの辺の人は変化をあまり好まないように思う。食べる物でも地元のこの辺でとれたものを毎日繰り返して食べるのを好んでいるように感じる。イタリア人に言わせれば「南チロルの人っていつも同じもの食べているでしょ?飽きないのかしら?」と食に無関心と言っても過言ではない彼らはどうかしていると。しかしそれは食だけではない。ここで使われている南チロルの方言を例に挙げると、中世ドイツ語で使われていた母音の「オ」の音を未だに事細かに使い分けているのだ。初めてこの辺のドイツ語を聞いたときに北欧の言葉を聞いているような気がした。ノルウェー語では中世ドイツ語の母音が今でも使われているのだが、ドイツ語圏で未だ中世ドイツ語の母音を使って話している民族なんて南チロル人ぐらいじゃないか?


100年前の村の中心


同じ角度では写真を撮れなかったが建物はほとんど変わっていない


さて村外れの無料駐車場に戻るために坂を再び下ると、例の教会があった。ローマ神殿の上にキリスト教の教会を建てる・・・1000年後にはこの上にはUFOみたいな金属建築が建てられるのだろうか?なんて思いながら坂を下る。ひとつ変わらないのは「人は見晴らしのいいところを好み、そこに建物を建てたがる」だな。

ローマ神殿の上に建てられた教区教会


毎回「ほんまに書く事なかったらどうしよう!」と震えながら村に散策に行くのだが、こうやって歩いてみると意外と面白いことが転がっているものだ。ワイン街道のセレブ住宅地も垣間見られたことだし、1時間ほどしか歩いていないのに程よい坂道のお陰で非常に良い運動になったよ。そんな訳で突っ込んではいけない所に足を突っ込んだものの、意外と「読むの長くね?」というぐらいのものにはなったので、今回はこの辺で。次回は有名な所なのでネタは豊富だぞ。


高台の老人ホームからの眺め


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