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東京グランドキャバレー物語★14 お待ちかねのヌードショー

 ドラムの激しく鳴り響く合図と共に、ステージの下手から一人の女性が登場した。白いジャケットにミニスカート、金銀キラキラしたブーツ、手には、銀色の長いスティックを握っている。
 ウェーブのかかった頭には、カントリーハットを被っていて、西部劇でに出て来るイメージなのだろうか。

 華やかで何て可愛いいのだろう!!こんなに若くて可愛い子がヌードダンサーだなんて、グランドキャバレーのステージのギャラは、破格なのだろうか。
「待ってましたぁ!」
 誰かが叫ぶ。
「今日は、大当たりだぁ!」
「可愛い子で良かったぁ!」
 男性は、思った事を口に出したい性分なのだろう。
あちらこちらで声が上がり、口笛がピューピュー鳴る。
 ノリノリのリズムで踊りながらスティックを振り回したかと思うと、彼女は羽織っていたジャケットを脱いだ!すぐに白い素肌でバストがあらわになる。
「うぉ~」
 どこからともなく聞こえる雄叫び。
拍手喝采だ!
 興奮を抑えきれず、立ち上がった若いサラリーマン風のお客様が、隣のホステスに袖を引っ張られ無理やり座らせられる。
 さらに、彼女は、腰をくねらしスカートを脱ぎ、あっという間に一糸まとわぬ裸体になった。音楽は激しさを増す。まだ小道具のスティックを持っている。
「おお!」
会場が、どよめく。
 笑顔の彼女は、リズム乗りながら上に下にスティックを振り回す。後ろを向いたり、前に戻ったり、小さなバストも形が良い。

  数人のホステスの声が聞こえた。
「あんな小さい胸でヌードダンサーだなんて、私の方がまだましよ」
「どこが良いのかねぇ、あんな鶏ガラみたいに痩せてる子なんてさぁ」
「じゃあ、あんた踊ってみなさいよ」
「私が踊ったら、お客さんが喜んで舞台にかぶりつきよ!」
「それはないわね~」
 あはははは
 どこにでもいる言いたい軍団である。
 
 均整の取れたボディと愛らしい人形のように整った顔は素晴らしい。
だが、ダンサー自身の体から滲み出て来る哀愁や、そこから漂う色気、艶っぽさは女性の私から見ても何も感じられなかった。
 若い女性が一糸まとわず裸になり元気に踊ったり、歩いたりしていると言う謎の感覚なのだ。昔、温泉街で見たストリップショーとは、全く違っている。

 頭の上のカーボーイハットとスティックをステージの上に残し、いよいよそれぞれの客席を周り始めた。
 ミニスカートで隠れていたガーターベルトが、彼女の露出した両足にピッタリと巻き付いている。お客さんは、チップを用意しながら、彼女が近づいて来るのを、今か今かと待つ。どの席も皆、気持ちもチップも、スタンバイOKだ!

 自分の目の前に踊りながら、女性が近寄って来る。そしてその女性は
裸なのだ。どれだけ男性はワクワクするだろう。ダンサーは、お客様の真ん前に向き合いどちらかの足を差し出す。お客様が、チップを入れやすい様に。ほとんどの男性は、迷わずにガーターベルトを選択する。その足を名残惜しそうに触れそうになるが、お相手のホステス嬢はそれを許さず、思いっきり手を引っ張る。

 いよいよ、私たちの席にも近づいて来た!音楽に合わせ踊りながら、目の前の高橋さんに接近して行く。私は、どこに視線を送ったら良いかわからず彼女の顔を見る。肌が白い女性だ。甘く強い香水の香りが、鼻をくすぐる。

 いつのまにか用意されていたチップを高橋さんは、ひょいと彼女のガーターベルトに挟んだ。慣れた手つきは、何十年ものキャバレー通いの成果だろうか?そして、
「頑張ってね」
と言って握手をした。
 彼女は、ペコリと頭を下げると、両足のガーターベルトに挟まれたチップをヒラヒラさせながら、ステージに戻りお客様たちに何度もお辞儀をすると割れんばかりの拍手の中、さきほど登場した場所へと去って行った。

 何事もなかったように静かな音楽が又、流れ始める。

 「時代は変わったんだねぇ。あんな若い子がヌードショーなんかに出てきちゃうんだから」
 高橋さんは、ウィスキー一口飲みながら言った。
「やっぱり演歌が良いなぁ。演歌歌手と握手したいよ」
「ヌードショーより、高橋さんは演歌を聴きたいのですね?
 演歌歌手の方と握手したいのですね?」
私は、弾んだ声で高橋さんにたずねた。
「次回の演歌ショーは、藤川あやねさんの出演で来週の月曜日です。
お席をお取りしておきますから。20時に下でお待ちしています」
「はいはい。まいったな福ちゃんには」
優しい笑顔で私の頭を撫でた。
「遅れないで下さいね」
遅れていらっしゃると同伴にならないので、と言いかけたが30年のキャバレー通の高橋さんは、全てご存知の事であった。
 
 グランドキャバレーは、曜日ごとにヌードショーもあれば、プロの演歌歌手が歌うステージもあり、さらに手品もあれば、三味線小唄なんかもあったり、様々な趣向を凝らした催し物が行われていて、まさに大人の遊び場、社交場であるのだった。

              つづく