かの女性が言うことには【なんのはなしですか的短編小説】
#なんのはなしですか 的短編小説です。
他にもストーリーを
いくつかご用意しておりますが、
本作一話だけでも、お楽しみいただけます。
終わりも、まだ見えていませんが、
ゆるゆるふわふわと、創作しております。
「これは、なんのはなしですか」と
楽しんでいただけたら幸いです。
▼ストーリーを収容している不思議なマガジン▼
▼本エピソードの関連話▼
それでは、本編へどうぞ。
ーカランカラン
来店を知らせるドア鈴が鳴る。
ついに、この時が来たようだ。
こんにちは。とあいさつをしながら入ってきたのは、ロングスカートをなびかせている。
なんともステキな声の女性だ。
声だけでなく、全てがステキな存在であることには間違いないのだが、いかんせん出会ってからまだ1日しか経っていないので、わかったことは言えない。
「いらっしゃいませ。どうぞ、お好きな席へおかけください。」
「ありがとうございます。連日…というか、これからのことも含めて、すみません。」
「いえ、大丈夫ですよ。今日は、何にいたしましょう?」
「カフェラテをいただけますか?この子には…いつもので。」
「承知いたしました。少しお待ち下さいね。」
コーヒーを淹れる準備をしながら、お皿に水を入れ、この子と呼ばれた黒猫に差し出した。
黒猫からは、みゃあ♪と返事をもらった。これで間違いないようだ。
ふぅ…と女性が息を吐いた音が聞こえた。
カフェラテの準備ができ、女性の元へどうぞ、と差し出す。
今日は、あえてコーヒー豆の説明はしないと決めていた。この先の人生のことを考えると、この世の中には、伝えないことが賢明であることも存在していると知っている。
カフェラテを一口飲んだ女性は、小声で「美味しい」とつぶやいた。
すると、ぽつりぽつりと話しだした。
「わたしの人生は、きっとこの子に救われていたのだと思います。まあ、その時はわかっていませんでしたけど。黒い感情に巻き込まれそうになったとき、そばにいて、見守ってくれている存在って、ありがたいものですね。」
なんのはなしが始まったのか?と、思ってしまっているが、口にしてはならない。
自分が話していいのは、今のタイミングではないということが明確だった。
「だけど、いつまでもこの環境に甘えていいものか?自分が目指す先は、ここだったのか?と思うようになって。何かを得るために、何かを手放さなくてはならないのかもしれない。そう気付いたんですよね。」
「わたしには、夢があります。その夢を、現実にするためには、待っていてはダメですよね。動かなきゃ、って思って。無謀かもしれないけれど、過去が決して無駄ではない、と気づくことができたので、とりあえず、やってみようかな、と思えました。遠くの地に行くことにしたので、不安しかないのですが、行ってみればなんとかなると思って。」
コーヒーを一口含み、再び話し始める。
「その時に、わたしは、大切な人に迷惑をかけたくない。そう思いました。わたしの事情で動く時に、わたしのせいで壊したくない、と。みーちゃんの本当の思いを聞くことはかないませんが、みーちゃんはみーちゃんでいてほしいのです。結局、わたしの事情で動いて、ここにもお世話になるので、完全に迷惑をかけなかったり、誰かに影響しないなんてことは、難しいのだな、と思うんですけれどね。」
もうコーヒーは冷めていそうだが、今日のこの時のために仕入れた、特別なクッキーを差し出しながら、女性に伝えようと思った。
「感じたことがあった時に、とりあえずやってみることは、大事にしたいですよね。」
女性が顔を上げて、こちらを見た。
その顔に、ドキリとした。
もしかすると何かいけないことを話してしまったかもしれない、と気にかかったが、きっと今は自分のターンだろう。続けることにした。
「私には、結末はわかりません。でも、やると決めたこと、楽しみたいと思うことがあるのであれば、それを応援したい。とりあえず、やってみましょうよ。と背中を押したい。そう思っています。」
コーヒーのおかわりを注ぎながら、伝えた。
黒猫を愛しそうに見ながら、クッキーを食べるその姿は、今この瞬間しかない光景だった。
ひと通り、黒猫に関する物を受け取った。
行ってみれば、なんとかなると思って。
その強い覚悟をもったその女性は、みーちゃんを撫で、別れのあいさつをして、旅立っていった。
女性にとっても、私にとっても、誰にとっても、毎日まったく同じ日というものはない。
毎日が、新しいのだ。
だから、日々無意識のうちに行っているどんなに小さな決断も、あっていい。
今日という日は、これでいいのだ。
◎
最後までお読みくださり、
ありがとうございました!
ここまでお読みいただいたあなたに、
幸せが訪れますように🍀
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