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ノベルゲームを作ろうと思ったら15年かかった話・【第1話】制作前夜①「弟切草」〜サウンドノベルとの出会い〜

これは、サウンドノベルの持つ魅力に取り憑かれ、「自分でもノベルゲームを作ってみたい」という思いを抱き、終わりのないゲーム制作に足を踏み入れた1人の個人ゲーム制作者の物語である。


「おい落柿! 新しいゲームを買ってきたぞ!」
1992年3月。
高校生だった落柿の(らくし)のもとに兄が飛び込んできた。
手には1本のゲームソフトがある。直方体の真新しい箱──スーパーファミコン──SFCのソフトだ。

「へえ、どんなの買ってきたの?」
落柿はワクワクとした気持ちで落柿の兄(以下「柿兄」)からそのソフトを受け取った。なんだかおどろおどろしい題字がSFCの縦長のパッケージに縦書きで書かれている。

「オトギリソウ……弟切草?」
タイトルだけではどんなゲームか検討がつかない。パッケージをひっくり返してみた。そこには、

サウンドノベルの世界へようこそ

というキャッチコピーに続いて、こんな文章が書いてあった。

サウンドノベルとは、従来のアクション、シューティングやRPGとは違った、まったく新しいジャンルです。むしろゲームというよりは、その名の通り音のついた小説なのです。そのソフトには、スコアもなければゲーム・オーバーもありません。誰も経験した事のない新しい世界を、ぜひお楽しみください。

「音のついた……小説?」
小説って。落柿はやや呆れたような気持ちで柿兄を見た。
落柿は、ゲームも漫画も好きだが小説も好きであった。本屋と図書館を愛し、ジャンルを問わず様々な本を読みあさってきた。

そんな落柿がいくら、
「これ、面白いから読んでみて」
と本を柿兄に勧めても兄がそれを手に取ることはなかった。兄が好きなのはもっぱらゲームと漫画・アニメで、一部のミステリを除いて小説には全く興味がなかったのである。

──それが「音のついた小説」……「ゲーム」になったら読むんかーい!!

今までの自分の熱弁と兄の無関心を思い返し、落柿の心に悔しさと意地悪な気持ちがわきあがった。「弟切草」ねぇ。ジャンルはホラーか。ふん。どんなゲームか知らないけど、絶対本の方が面白いに決まってる!

「さあやるぞー!」
そんな落柿の心を知らない柿兄は意気揚々とカセットをスーパーファミコンに差し込んだ。


平成初期当時のテレビといえばブラウン管テレビ、そして家庭用ゲーム機といえばカセットをガチャン! と差し込むスタイルである。そしてスーパーファミコンは据え置き機。Switchのように一人一台、というわけにはいかなかった。

きょうだいがいる家庭ではゲームプレイの順番待ちが発生するのも当然のことであった。落柿家では3つ上の兄がその優先権を独占していた。ハードもソフトも兄が買ってきたものなのだから当然ではある。

落柿家ルール
一、ゲームは、兄が先に遊ぶものとするなり。
一、兄より先に進めることを禁ず。
※但し、ソフトを自分で購入したときのみこのルールは緩和されるものとする

※ちなみに昭和生まれの家庭にありがちな「ゲームは一日1時間」というルールも以前は落柿家においては撤廃済みであった。そのルール撤廃に歓喜した落柿だったが、そのせいで1年で1.0視力を落とした。

スイッチオン!
柿兄の手によってスーパーファミコンのスイッチが入れられる。

白地にチュンソフトのロゴ、暗転して映し出される洋館の姿。
稲妻の音、「タータタタータタタータータター」という不穏な音楽、そして「弟切草」の文字……!

※音楽の表現があまりにも稚拙だが弟切草ファンならこの擬音だけで通じると筆者は信じている! 

   落柿は思った。
「あ、コレはなんかもう、ヤバい」と。
「コレ、絶対面白そうなヤツ」と。

で、でも本当に面白いかなんてまだわからないんだからねっ!
さっきまで心の中で懐疑的だったのだから、そんなに簡単にてのひらを返すわけにはいかない。

「あ、名前入力できるのか」
ゲームスタートをして出てきた名前入力画面に、柿兄が自分の名前を探して入力していく。現在では当たり前だが、漢字で名前を入力できることに落柿は密かに興奮を覚え始めていた。

主人公とヒロインが車に乗っているシーンからゲームはスタートする。
テキストと背景、そして流れる音楽。なるほどこれは「音のついた小説」
だ。

そしてしばらくすると、画面に選択肢が現れた。

──え、何これ。自分で展開を選べるってこと?

また落柿の興奮度合いは高まった。しかし落柿には選択権がない。だってこれは柿兄のゲームだから。

背後に座り、「Aとか選んでみたらどうかな?」などと口を出して誘導するくらいしか術がないのだ。このきょうだい間格差こそ、ゲーム実況者と視聴者の原点と言ってもいいだろう(適当)。

※ちなみにサウンドノベルの祖である今作には「バックログ」もなければ「選択肢前セーブ」もなかった。選択はまさに一発勝負。
この時代からのサウンドノベルプレイヤーは「さすが初代弟切草を遊んできた奴らだ。面構えが違う」と後世の人間に言われているとかいないとか(いない)。ちなみに現在の作者はめっちゃバックログ見るしセーブもしまくる弱気なプレイスタイルである。


やがて主人公たちは、怪異に怯えながら洋館の中に足を踏み入れていく。
そして二階で不審な物音を聞き、その原因を確かめに階段をあがる……。

ドアを開け、薄暗い部屋で主人公とヒロインが見たのは……

ギャギャギャギャギャギャギャギャギャーーーーン!!

「うわあああああ!!」
「ひえぇぇぇぇぇ!!」

たぶんこのシーンを見た全国のプレイヤーは皆同じようなリアクションをしたのではないかと思う。

そう、ミイラ登場のシーンである。
キィキィキィ……という効果音の後、
横からミイラの顔がババーン! と出現する(関西人的説明)。

もう、この時点でこの柿たちはすっかり心をわしづかみにされてしまっていた。文字と音から作り出される物語世界への没入感は今まで経験したことがないものだった。そして気づくと、2人は呆然とスタッフロールを眺めていた。そして現れる「完」の文字……。落柿は思った。

お。おも。
おも、おもももも。
超絶面白いやんけーーーーーー!!!
何だこれ! これはまさに……誰も経験した事のない新しい世界!(受け売り)

盛大なる手のひら返しである。
しかし手のひらなんかいくら返したって全然恥ずかしくなんてない。だって、面白いものは面白いのだ。興奮するものはしてしまうのだ。

サウンドノベル、最高!!

そして柿たちは興奮冷めやらぬまま2週目へ。

車椅子のミイラ。
謎の水槽。
血塗られた日記。
浴室と熱湯シャワー。
不可解な設定のボイラー。
そしてヒロイン奈美の謎めいた行動……。

なんということだ! なんとそのゲームは、同じ舞台で基本的なストーリーラインを保ったまま物語は進行していくというのに、そこに意味づけられたものが周回ごとに変わっていくのである。あるときは不気味に。あるときは切なく。あるときはコメディタッチに。

そして一度終わったと思ったストーリーでも、もう一度プレイするとその先が読めたりする。さらなる登場人物が出てきたりする。これは本にはない興奮だった。

「〜な話」で松本人志も言っていたような気がするが、本というのは「残りページ」というものがその厚みで視認できてしまう。そしてなんとなくオチというか、「ああもうこれでまとめに入ったな」「もう1展開はないな」となんとなくわかってしまう。

その欠点を……易々とひねりつぶしてきたのだ……このサウンドノベルというやつは!!


そして落柿は、柿兄と協力して全シナリオ制覇に挑む一方、兄がいないときには自分のしおり(セーブデータ)を作ってやりまくった。

こうして落柿はサウンドノベル沼にズブズブとハマっていったのである。




弟切草の衝撃はこちらの記事に詳しい。

そんな落柿が作った15年かけて完成させたノベルゲームがこちら。
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