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バリヤードになりたい

 バリヤード。私はポケモンのバリヤードになりたい。
決してふざけているのでなく、尊敬しているからだ。

1、他人を羨まない

 バリヤードはポケモン赤・緑、所謂初代から登場したモンスターである。
タイプはエスパー。エスパータイプは強い、というのが常識だった当時において、恵まれたタイプを得ていた。
が、しかし。エスパーの攻撃力を左右する「とくしゅ」というステータスにおいて、ユンゲラーという、別のポケモンに大差をつけられて負けてしまっているのだ。

 これは人に置き換えると、同級生が同じ時期に始めたスポーツで、才覚をあらわし、しかし自分(バリヤード自身)はその能力で負けていた、ということに他ならない。
 「サイコキネシス」という、当時最強の一角を担っていた技も、バリヤードはレベルアップでは覚えられなかった。
 もうひとつ、同期のスリープ、スリーパーがいるが、彼らはサイコキネシスをレベルアップすることで習得できた。
 この「サイコキネシス」は、わざマシンという道具を使えば、一度だけ任意のモンスターに覚えさせられるが、主に使われるモンスターは、

 スターミー(エスパー、みずタイプ)、すばやさが高い
 ルージュラ(エスパー、こおりタイプ)、「ふぶき」が強力

など、エスパー以外にもタイプを持つモンスターに使われた。
つまり、エスパー一本でやっているバリヤードにとっては、
高校生から野球を始めたヤツにレギュラーを奪われたような恰好なのである。半端者に、最強の技を取られるのである。
そうして彼らのようにタイプが多いポケモンには、対応できるタイプが多い、という特長もある。つまり、主演も脇役もこなす名俳優と、まったく同時にオーディションの舞台に立たされたような具合である。

 そうして、詰る所、不具のような状態なのである。
比較したときに、バリヤードは選択されない。全てのモンスターをゲットする少年少女は実際のところわずかであるし、全てのポケモンをゲットするにはソフトがもう一つ、必要なのである。

ここで話を戻そう。バリヤード自身はこの性能(仕様)に対して、文句を言うでもなく、ストライキを起こすわけでもなく、ただふざけている。

出典: www.pokemon.com
バリヤード

恐らくモチーフはピエロなのであろう。そうして、パントマイムのような技も覚える。(もっとも、それだけでは使い道がないが。)
しかし、それは戦いにおいての話である。
つまり、ポケモンにアスリート性を求める人間様の意見に過ぎない。
「ポケモン は たたかい の どうぐ じゃ ない」
というセリフがあるように、ただ戦闘狂になるのは、あまりに一面的。
しかし、通信対戦ができるゆえに、この視点は避けられない。
ここを序論としなければ、すべてペテン師のわざになってしまうのだ。
戦闘面、能力面はここいらで終えよう。もっと、多角的にバリヤードを見てゆこう。

2、サブカル性

ユンゲラー
出典: www.pokemon.com

対戦によく用いられ、能力も優秀、かつ入手が比較的容易であることから、エスパータイプのみをもつ攻撃力(とくしゅ)が高いポケモンでは、ユンゲラーやフーディン(ユンゲラーの進化系)が多用された。
(しかし、フーディンの入手にはソフトが二つ必要であった。)
それでは、バリヤードは、というと、
皮肉なことに、ユンゲラーの進化前のポケモンである、NPCのバリヤードとプレイヤーのケーシィの交換によってしか、入手できない。

ケーシィ
出典: www.pokemon.com

つまり、「私はケーシィなんかいらない!」と一瞬間でも考えないと、バリヤードの入手はできないのだ。ケーシィは何体でも出現するが、バリヤードは一匹しか入手できない。つまり、このゲームにおいて、伝説のポケモンであるミュウツー等と同格のレアリティを誇っていたことの証左たりえる。

ミュウツー
出典: www.pokemon.com
皮肉なことにこやつもエスパータイプ。

レアリティーの高さ。これはサブカルくん、サブカルちゃんの心を「くすぐる」のである。こうかはばつぐんだ、なのである。
しかしミュウツーを持っていたところで、「ワンピースって面白いよな」なのである。太宰治の人間失格をいつまでも面白がっていたいサブカルくん達にとっては、あまりにメインストリームすぎるのだ。

そういった意味でも、バリヤードの存在はサブカルチャーの象徴たりうる。

3、ビジュアルについて


登場当時のバリヤード
出典: www.pokemon.com

ひょうきんなポーズ、恐らくパントマイムとおぼしき格好で、此方に目を向けている。頬には可愛らしいチーク。そうして関節には謎の球体。
一度見たら忘れられないビジュアルである。だがしかし、このビジュアルをゲーム内で見た人は少ない、というのがなかなか皮肉であるが。

ピカチュウ
出典: www.pokemon.com

しかし、あまりにもキャッチーなポケモン、大人気ピカチュウが同期なのである。そうしてポケモンのアニメでは、主人公のサトシ少年が肩に載せて、声優さんまでついているときた。完全なレギュラー。つまり、テレビをつければピカチュウがいるのである。
 また、もとはピッピやプリン、といったキャラクターを全面に押し出そうとした、という説もある。(あくまで説の域をでないことに留意)

ピッピ
出典: www.pokemon.com
プリン
出典: www.pokemon.com

端的に言えば、「かわいい」面で完敗している、これは所謂開発元の
「推されポケモン」ではないことが理論を補強する。

次に、「かっこいい」方面で見てみよう。

リザードン
出典: www.pokemon.com

このポケモンはリザードン。ポケモンの新作が出る度にポケモンフリークな人たちが言っている、「御三家」の一角である。
ポケモンというゲームは、最初にパートナーとなるポケモンを三つの選択肢から選ぶことになる。赤・緑ではヒトカゲ、ゼニガメ、フシギダネという三匹から撰ぶ。そのヒトカゲの進化系であるから、入手難易度としてかなり低く、多くの少年少女が目にしたことであろう。
そうして見た目は火を吐くドラゴン。
ドラゴン柄の学用品を買うのが小学生のエクスタシーであることは世間が証明しているように、ドラゴンってかっこいいよな、俺持ってるよ、なのだ。

カイリュー
出典:https://00m.in/FToUl

そうして、最強のポケモントレーナー、物語におけるラスボスのポケモンとして印象的なのがこの、カイリューというポケモンである。
最強のトレーナー、最強のドラゴン(能力もかなり高かった)というコンボには、小学生は失禁しながら泡を吹いて倒れてしまうに違いない。

そこで、バリヤードを見てみる。

ふざけるな

ふざけている。ピエロとドラゴン、どちらが格好いいか。
精神性でなく表層ならば、答えは自明である。
バリヤードのタトゥーを最初に入れる人間がいたら教えてほしいくらいだ。

しかし、バリヤードは「ひょうきん」「明るい」「余興が面白そう」「営業に来てほしい」と思わせる魅力があることは間違いない。

ピカチュウが来ても、かわいいネズミに人は笑わせられない。
カイリューが来ようものなら自衛隊が出てくるに違いない。
その点、バリヤードが来たらどうだろう。
いつもの駅前、なにか人だかりが出来ているな、と思ったらバリヤードがいる。デパートで催しが行われて、ゲストでバリヤードが登場する。

滑稽、軽薄、明朗、といったひょうきんの御三家を、見る者に想像させる、すばらしいビジュアルなのである。
罵っていたのではない。異端が異端たるためには、大衆から反対されるくらいでなくてはならないのだ。
スーツを着るピエロがいないように、スポーツで活躍するピエロがいないように、ピエロたるための努力を怠っていないのだ。慾を張っていないから、他人を笑わせ、芸者たることが出来る。

4 ようこそバリヤード党へ


 さて、ここまで論ずれば、この文章がすべて、バリヤード党のプロパガンダであることは火を見るよりも明らかであろう。
我々バリヤード党は、他者との比較を断固として拒否する。
相対評価による優劣上下、及びその他の不利益をいっさい放棄し、自己の評価によってのみ、己の価値を決定するのである。
 曖昧模糊な他人の評価など、唾棄すべきである。
また。我々は、我々を拒むすべてのものを受け入れる。
受容されることに甘えることなく、拒絶されることさえ喜ぶ。
なぜなら、甘やかされて育つことの恐怖、弱さを知っているのであるからである。無菌室で育つならば、外気にさらされた途端にあらゆる病苦を生ずること請け合いであること、間違いない。
 
 また。我々バリヤード党は、如何なる要求も世界にしない。つまり、世界に対して究極的に絶望することをここに誓おう。
何も望まなければ、何も与えられなくてもそこに損も得も、詰る所存在しないのであるからだ。
待遇の改善も、強化も、整形も、脱毛も、ついには望まない。
生れたままの体で、劣化していって朽ちて死ぬことにこそ、人生の真理を見つける。老化や貧困に喘がない。ただパントマイムで生きているように振る舞う。涙を捨てた先に、本当のピエロの滑稽さが待っているのであるから、それを獲得するまでは耐え忍ばねばならない。

汝の蟲毒を愛せ、汝の球体関節を愛せ。汝の弱さを愛せ。汝の不遇を誇れ。


2024年02月19日

バリヤード党 参謀長 騾黒愛


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