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楽園BOOKS3 明け方の若者たち/カツセマサヒコ(東京・日本)


明け方の若者たち/カツセマサヒコ

今回は東京を舞台にした小説を紹介します。カツセマサヒコの小説、「明け方の若者たち」は、東京で夢を追いかける若者たちの青春小説です。

いつの世の中も青春小説は特に若者に必要とされています。しかし、日本から若者が少なくなっているのか最近は目立った青春小説は少なくなったように思います。そんな中、1986年生まれ、2021年12月の出版当時はまだ35歳の若い作家による青春小説は、今の感性で作られたフレッシュな青春小説であります。

カツセマサヒコさんには他に「夜行秘密」という新作もあり、こちらも大変面白いのですが、夜行秘密は架空の街を舞台にしているので、楽園の地図としては地図の上にピンを刺せる実際の東京の街を舞台にしているこちらの小説を紹介しようと思います。

冒頭から、この作品を恋愛小説だと思っていた私は、途中からこの小説が東京でもがき続ける若者の話だと気づいた時には物語にすっかりのめり込んでいました。なぜこんなにのめりこめたのか考えてみましたが、この小説に出てくる主人公は、本当に東京のどこにでもいるような普通の人間であるということが大事かもしれません。もちろん、物語の主人公は読者が共感する人でなくてはなりませんので、どの主人公も私たちと変わらないような普通性を持っています。ですが作家のような人々は十分普通ではない暮らしをしているので、書き手の思う普通っぽさが実は世の中からはズレていたりするというケースは多いと思います。それに引き換えこの小説の主人公の普通っぽさはなんでしょうか。”Mr.全ての都会で暮らす若い日本人の読者の身代わり”と言っても差し支えありません。そのことが、私がフレッシュな青春小説であると断言する理由であります。

もちろん、普通っぽい主人公を書けることと、作者が普通であることはイコールではありません。むしろ彼こそ非凡な才能を抱えているに違いありません。次回作にも期待したいところです。

物語の大事な場所に登場する明大前のくじらがいる公園


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