「夏休み」
夏休み。
中学の同級生たちが部活を引退するのに合わせて、わたしも片思いをきっぱりやめた。
もう2年間、クラスが離れて1年以上会話してないし、もういいやって思った。
夏の歌が好きだけど、毎日探して歌うようになって気が付いた。
なんだか恋の歌が多くて気恥ずかしいんだ。どうしてだろう。
おあついの、かしら。
会えない間も別に思い出すことはなかった。
前に「あの歌詞はいいよね」と言ったあの曲を歌っているアイドルは、休みの間会えずにいたら君のことが気になってきた らしいけど。
高校2年生の夏休み直前に軽音部を辞めた。
いつも廊下ですれ違うと大声で名前を呼びながらぱたぱた走ってきてくれるわたしより背が小さい彼女たちのこと、本当はとても愛しくて離れたくなかった。
大切にしたかった。初めて出会った優しい大事な場所だった。ずっと一緒にいたかった。
わたしはあの子たちのために身を引いたつもりだったのに、
わたしが居なくなったせいで、「いらない人になりました」って投稿してるのを見てしまい愕然とした。痛くなった。
どうしてすぐ戻れなかったんだろう。戻ってあげなかったんだろう。
頑固。変な意地張った。選択を間違えた。潔くありたかった。ぜーんぜん未練だらけなくせに。あーあ。本当は戻れたんだ。わたしが、戻らなかった。
今でも高校時代を思い出すと、被服室から向かいの部室をぼんやり眺めながらバンドの音が聞こえてくるのを苦しいと思っていた日ばかり浮かぶ。
わたしはひとりで高校と反対方向の喫茶店にギターを背負っていって、
でも、ギター弾きのマスターの前でへたくそなギターを弾いてみせるのは怖くて、
教えてもらうこともできずそのうちに会いに行くのをやめた。
ギター教室にも通おうかと思ったけどそれもやめてしまった。
あー、思い出した。本当に苦くて最低な夏だった。
新しいバイト先ではパワハラを受けてクビにされたし、毎日泣いてどん底だと思っていた。
苦しくて苦しくて仕方なかった。
本当はもっと苦しい日々なんていくらでもあったのに、わたしは好きなものを手放してしまったことを悔いて悔いて好きな人を傷つけてしまった申し訳なさで身が裂けそうだった。
初めて、自分で手にしてしまった苦しさだったからかもしれない。
わたしはひとりでロックを聴くようになった。
軽音部を辞めたのに。
インターネットだった。
今よりさほど発展していなかったYouTubeと、ニコニコ動画。
マイナーな邦ロックのメドレー動画を見つけて、そのいくつかが気になった。
ミュージックビデオを流していると次々に関連動画を再生してくれた。
それだけが日々の救いだったかもしれない。
ちょっと暗い歌詞はついその時の自分に重なってしまった。
その人は自分が共感できる曲がないから自分のために曲を作っているとよく話していたけど、きっと何人もの人の支えになってて、こうやってなんかちょっと影響されちゃってんだよ。勝手に。
世界から切り離されたわたしの孤独な島に音楽が流れるようになった。
東京までライブにもひとりで行くようになった。
気になったバンドにひとつずつ行った。
場所がわからないから、駅から ライブに行きます!みたいな服装の人たちについていった。
ライブに行くようになって少し元気を取り戻したわたしは、大学に行ってみようかな!と思うようになった。ほんとうはね、軽音、やり直したかった。
東京に住んでライブに行きたかった。そっちが本心だった。福祉が学びたいなんて後付けだったよ。
部活を辞めると先生に伝えた時、「お前は大学に行け」と言われた。
意味がわからなかった。
「行きませんよ、わたしはフリーターになるんで」と答えた。
アパレル店員になりたかったから。アルバイトしか募集してなかったんだもん。
自分の偏差値より20くらい下の高校を選んだ。
進学するつもりなかったし。
3年間「なんでこの高校に来たの?」と言われ続けた。
先生なんて勝手なもんだよね。
「お前は軽音部に入ったからいけない」とか言ってきてたくせに、
「部活を辞めたからいけない。頑張ることがなくなったから他のことも頑張れなくなったんだ。」とか言ってくるんだもん。人の気も知らずにね。
何ヶ月も授業中も人に隠れてずっと泣いて過ごしていた。
少し前に受験の面接練習で何も趣味を答えられなかったとかそういう話を書こうと思ってたんだけど、趣味はあったんだ。本当は。ただ全て忘れて勉強に集中しないといけなかったから、忘れてた。
まあ結局、そういうわけで先生たちの思惑通りにわたしは大学進学を選んだ。
そうしたら今度は「無理。ここの連中が普通の大学に通用するわけないから。」と一蹴してきた。は?ここからわたしの反骨心みたいなものが生まれはじめてしまったのかもしれない……。
それからも対岸から聞こえてくる音に、家政科と受験勉強が忙しいから、部活は辞めてよかったと何度も言い聞かせたけど、そういうことにしておく。
東京でひとりで過ごす夏にはとっくに慣れた。
夜だっていつまでも外に人がいて明るいし、何も怖くない。
あの日の淡い絶望が今のわたしを作ってしまった。
昨日、急に日が伸びたなあと思った。午後6時が昼顔をしていた。
朝日も急に煌々とする。眠れない中、青い夏を思い出してなにやら書き始めてしまったので、一応と文末までと書いた次第。
來世
一番好きな夏の曲かも。
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