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【映画】対等な関係性を作ることで生まれた絆の物語【最強のふたり】

つい数ヶ月前のこと。このコロナの情勢となる少し前、ある町のある飲み屋で一人のおじさんに出会った。

とてもフランクで気さくなおじさんは、その店の常連らしくマスターとともに場を盛り上げてくれていた。初めて来店した自分に対しても、おじさんが好意的に話し掛けてくれたおかげで、すんなりと店の雰囲気に馴染めたことを覚えている。

ふと、その日を思い出すきっかけがあった。それが2012年にフランスで公開された「最強のふたり」を鑑賞したこと。首から下が麻痺した大富豪と、ひょんなことから彼の介護者となった黒人の青年。そんな二人の出会いと友情を描いた作品である。

飲み屋で出会ったおじさんも障害を持った方だった。喉頭ガンを患い、声を出すことができない。そのため基本的には筆談を行い、それ以外には発声を補助するための器具を使って会話をしていた。

そんなおじさんの逞しさを思い出させてくれた映画、「最強のふたり」を今回は紹介させていただきます。

■「彼は私に同情していない」

物語は障害者のフィリップ(フランソワ・クリュゼ)と介護役の黒人青年ドリス(オマール・シー)の二人が、日々の生活を通じて様々な出来事を乗り越えながら友情を深めていく姿が描かれている。

フィリップの介護役として採用されたドリスは問題多き青年だった。ある事件を起こして家に帰れず、久しぶりに戻ったら母親から出ていくように言われてしまう。ユニークさこそ持ち合わせているが、どちらかと言うと破天荒なキャラのドリス。そんな彼が介護役を担うことにはかなりギャップがあったように思う。

ただ、この映画を見て「なるほど」と感心させられたのは、フィリップの一つの言葉だった。

「彼は私に同情していない」

身体障害者になることで苦悩することはたくさんあるだろう。今まで通りにいかないのは明らかだからだ。そんな中でも、一番悲しいのは周りの人が自分を特別扱いすることではないかと思っている。その時点で、これまでの関係性が変わってしまうのだ。それは悲しくもあり、寂しいことだと思う。

しかし、ドリスはそういった感情を決して持っていなかった。身体障害者であろうが、おじさんだろうが、金持ちだろうが関係ない。純粋に一人の人間としてフィリップに接していた。それが人種や年齢、階級を超えた友情を生み出した要因なのだろう。

この話が実話を基に作られていると知って、改めて映画を見終わった後にドリスに対する見方が変わったのを感じている。また、そんな飾らない男だったからこそ、フィリップも気を許すことができたのではないだろうか。

■原題と邦題から考える奥深さ

邦題の「最強のふたり」には、障害者という弱さを持つフィリップと社会的な面で弱さを持つドリスがタッグを組めば「最強」になるという意味が隠されているのではないかと考えている。

一人では何かを成し遂げることはできないかもしれない。それでも誰かと手を取り合い、支え合うことができれば、障害者であろうが、才能のないものであろうが、強くなることができる。そういうメッセージを伝えたかったのだろう。

また、原題となった「untouchable」は、その言葉通り二人のアンタッチャブルな面にフォーカスを当てていると考えられる。ドリスにとっては家族との関係性、フィリップは文通相手との交友。互いにアンタッチャブルな面に触れていくことで、両者の思いや葛藤を知り、それが友情をより深めていったのである。

誰だってそうだ。自分の思いを聞いてくれる人には心を開くもの。彼らにおいて、それがフィリップであり、ドリスだったのだ。

人と人は支え合って生きていく。

健常者や障害者という言葉に流されることなく、対等な関係で絆を深められることを教えてくれた「最強のふたり」。強いメッセージが込められた素晴らしい作品だった。

■編集後記

今回は前回に続きフランス映画&オマール・シー主演の映画を紹介しました。真夜中に見たんですけど、なんかグッときてすぐ寝られませんでした(笑)。

冒頭で語ったおじさんには結構いろいろなことをガツガツ聞いてしまって嫌な思いをさせてしまったかなとも思ったんですが、向こうの人は「また来いよ」と笑ってくれていたので、この映画を見ても思いましたけど、変に触れないようにしなくてよかったなと思いました(もちろん、そうでない人がいることも理解しています)。

ちなみに最近の悩みは、次に投稿する映画を何にしようかなと考えること。楽しい悩みではありますが、読んだ方が見てみようと思える作品が見つかるように頑張ります!

では、今回はこの辺で。

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