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「鉄路の行間」No.10/大林宣彦『ふたり』で尾道の町をよぎった、民営化直後のJR西日本

 大林宣彦監督の「新・尾道三部作」の第1作『ふたり』は、1990年11月にまずNHKのテレビドラマとして放送され、そして予定通り再編集の上、1991年5月に映画として劇場公開された。「尾道三部作」の最終作『さびしんぼう』の公開が1985年。この間に日本の鉄道界は、1987年の国鉄分割民営化という激変を迎えている。映画の協賛にもJR西日本が名を連ねるようになった。

尾道駅_2008年
改築前のJR尾道駅。大林宣彦の作品にも登場する(2008年撮影)
千光寺から山陽本線_2008年
千光寺から見下ろした尾道の町と山陽本線(2008年撮影)

 尾道は、今の聖地巡礼が始まるはるか以前より、ロケ地巡りが大きな観光資源となってきた。そのきっかけは、やはり生まれ故郷を愛し、地元で映画を撮った大林監督の存在。尾道の狭い市街地を縫うように走る、特徴的な山陽本線も随所に登場する。

 『ふたり』でも、湘南色の115系が何度も画面を横切る。国鉄時代とは違い、JRマークが貼られていることもわかる。時代の変化をいちばん感じさせるのは、冒頭に近いシーン。ファンの間では有名な陸橋で、登校する実加と出張に向かう父が別れる時、下をくぐるクリーム色に青帯、通称「瀬戸内色」の115系だろう。1982年デビューの3000番代でお目見えしたエクステリアで、JR西日本の初期には他の115系にも広まっていた。

陸橋_2021年
大林宣彦ファンにはおなじみの陸橋。115系は健在だが、色は変わった
115系瀬戸内色_PD
「瀬戸内色」の115系(パブリックドメイン)

 その列車のうち先頭車は、遠目で見た限りではあるが、冷房装置の形状や撮影時期(1990年夏)などから、クハ115-651か653のどちらかではないかと推測できる。国鉄末期からJR西日本の初期にかけて多数、現れた先頭車化改造車のうちの1両である。

 父が、尾道大橋付近を走る、まだボックスシートだった115系に乗っているシーンもある。座席の表地が国鉄時代の青ではなく、ブラウンに張り替えられているのもまた、JR西日本によるリニューアルのしるしだ。115系は2021年現在も山陽本線に健在だが、ほとんどが転換式クロスシートに改造されているので、これも懐かしい。


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