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忘れられない景色
忘れられない景色がある。頭にこびりついて離れない場面がある。私の場合それは、絶景や美しい絵画といった類のものではない。
忘れもしない、高校二年生の夏。私は三塁と本塁の間にいた。
高校生の時私はソフトボール部だった。白球を追いかけるルーキーズのような日々を送っていたと思う。きっと。そんなある日。その日は地元地区の高校ソフトボール大会だった。私は八番ライトで試合に出場していた。肩が弱かったが、なぜか外野を任されていた。本塁への送球はいつも体ごと投げるつもりで投げていた。
何回の出来事だったかは忘れた。勝っていたのか負けていたのかも覚えていない。どうやって出塁したのかも記憶にないが、とにかく、私は三塁にいた。バッターには私の同期がいた。
ワンナウト二,三塁。ランナーの判断はなかなか難しい。タッチアップできるか?内野ゴロの間に生還できるか?どこまで飛び出していいか?そわそわしながら監督をみると、そこには「スクイズ」のサインをする監督がいた。
ラッキー!!!内心思った。ピッチャーが投げた瞬間馬鹿みたいに走りゃいい。(ソフトボールはリード禁止であり、ピッチャーの手からボールが離れてからでないと走り出せないので、野球より簡単)私はピッチャーの手からボールが離れるのを待った。そして。
ピッチャー、、、、投げた!!!!
私は史上最強のスタートダッシュを決めた。ホームに突っ込んでやろうと全力で走り出した。パッと顔を上げたその瞬間、私の目には映ったのだ。
バッターがバットを引いている。キャッチャーがボールを持っている。
まるでそれは、ビデオの一時停止のように、私の頭に焼き付いた。足は走り続けているが、頭は完全に固まっていた。私は紛れもなくパニックだった。なぜ、打たない。後になって思えば、この時学んだことは、人はどれだけ全力で走っていても、頭は一瞬で冷静になるということだ。ボールを持っているキャッチャーに向かって、全速力で走っていく奴。いうなれば自首行為だ。私をアウトにしてください。
ビデオの一時停止はスローモーションへと切り替わった。私はボールを持ったキャッチャーの手前で必死にブレーキをかけた。ぎりぎりで自首を思いとどまった。私はまだやれる。次の私の景色は、三塁で私の帰りを待ち構える三塁手の姿だった。一度自主をしようとした奴に、帰る場所など無いのだというように。挟殺プレーは、基本的には生き残れない。無事本塁まで行きつけなかったものに、未来など無いのだ。
そのあとのことはよく覚えていない。ただ覚えているのは、ボールを持って私を今か今かと待ち構える、キャッチャーの姿と、三塁手の姿だ。頭の中の美術館。一番いい額縁に入れられ、メイン会場に飾られているのは、間違いなくこの瞬間だ。流れる時間から切り取られ、頭にこびりついた景色。いつまでも色あせることなく、私の頭は三塁と本塁の間にいる。
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